密着24時! 東京交響楽団の楽団員やスタッフの素顔に迫ったドキュメンタリー
オーケストラの奏者は、どんな1日を過ごしているのでしょう。大勢が一緒に音楽づくりをする団体……硬派なイメージもあるけれど、実際は?
ONTOMOは、日本のクラシックを牽引するオーケストラの一つ、東京交響楽団のリハーサルへ潜入取材! 70年以上の歴史をもつ「東響」は、主催公演はもちろん、新国立劇場では開館時よりレギュラーオーケストラとしてオペラ・バレエ公演を担当。2016年の欧州ツアー公演での高評も記憶に新しい——そこで熱演を繰り広げる楽団員と、それを支えるスタッフたちは、いったい、どんな人たちなのか。その素顔に迫る!
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[コラム]楽団員が語る、音楽監督ジョナサン・ノット その1~4
東京交響楽団、密着24時!
1月下旬の木曜。日本列島には低気圧が停滞し、川崎の街には冷たい雨が降り続いていた。
朝9時:搬入前のホール
JR川崎駅から東に歩くこと約15分、「カルッツかわさき」(川崎市スポーツ・文化総合センター)にたどり着く。この日のリハーサルは正午から。定期演奏会や東京オペラシティシリーズなどと共に長く愛されている演奏会シリーズ「名曲全集」のリハーサル初日だ。
ところで本来、東響が本拠地としているのは、川崎駅の西口側にある「ミューザ川崎シンフォニーホール」。今年6月末に改修工事を終わらせるまでは、こちら「カルッツかわさき」が楽団の仮住まいだ。「カルッツ」も「ミューザ」同様、国内屈指の本格的な音響を誇る。ぬくもりのある木目調の内装が印象的だが、今、ホールの空気には緊張感が漂っている。
9時48分:楽器運搬トラック到着
ホール1階の搬入口に、楽団の4トントラックが到着した。ただちに楽団のステージスタッフが集結。「ミューザ」の楽器庫から届いた楽器や機材を下ろし、きびきびと舞台裏へ。運ぶのは、打楽器、コントラバス、そして指揮者が立つ指揮台だ。
舞台裏を駆け回り、スタッフに指示を出し続ける人を見つけた。ステージマネージャーの山本聡さん。搬出・搬入だけでなく、開演中に指揮者やソリスト(独奏者)、楽団員の出入りを促し、舞台設営の全責任を担う、まさに裏方のドン。山本さんにとって「ステマネ」ってどんな仕事ですか。
「うーん、不必要な照明だったり、演奏者が気になる寒さだったり……。音楽にとって『邪魔になること』を極力排していく。それが私の仕事です」(山本さん)
記者に向けたつかの間の笑顔はすぐ、真顔に戻り、視線は舞台へと注がれた。
9時57分:ステージのセッティング開始
舞台上でひな壇の設営が始まった。椅子、譜面台が置かれ、たちまち態勢が整っていく。
譜面台のセットをしていたのは、ライブラリアンの武田英昭さん。「ライブラリアン」とは、オーケストラの演奏で使う楽譜の手配や準備を担う人のことだ。
「どうすればプレーヤーが、本番で楽譜にストレスを感じずに、音楽に取り組めるか。楽譜をどうカスタマイズするか。楽譜をめくりづらい場面の部分も調整していくんですよ」(武田さん)
東響に身を置いて32年。今では楽団の「生き字引」的存在だ。そんな武田さんは日本中のプロ・オーケストラのライブラリアンと連携しながら、オーケストラ音楽の向上を目指してきた。東響の魅力とは。そう問いかけると、にっこり笑って、武田さんは即座にこう答えた。
「何と言っても、ガッツがあるところですよ。皆が良い音楽、良い刺激を与え合っている。個人技もハイレベルですが、それを全体の中でどのようにしたら最良に活かされるか、皆で話し合ってそれを形にしようとしている」。武田さんはそう教えてくれた。
10時40分:楽譜や楽器の設置
舞台袖に置いたジュラルミンケースから楽譜を取り出すと、武田さんは譜面台一つひとつに、丁寧にそれを置いていった。
首席ティンパニ奏者の清水太さんは、いつもは1~3時間前にホールに来て、打楽器の準備やメンテナンスをするという。楽器の研究にも熱心な清水さん、柔和な表情からストイックな一面が覗く。
「散歩が好きで、時間に余裕をもって家を出て1駅前で降りて歩くこともあります。音楽やティンパニについて考えごとをしながら……なので、朝は起きたら割とすぐ家を出るんです。食べ物は水分以外、仕事が終わるまで口にしません。もう10年くらい続けているのですが、空腹感が集中力をものすごく高めてくれる。願掛けみたいなものですけどね」
上:清水さんが独自に改造したティンパニの練習台。「従来のものはバウンドが楽器と違いすぎましたが、この本革練習台はティンパニの感触とほとんど差異がありません。楽器に比べて音量もかなり小さいので、リハーサル前に周りで練習している他の楽器の人にも優しいです(^^)」
写真提供:清水太
11時:楽屋にて
舞台・下手袖。楽屋へと繋がる小さな一角に、会議机が置かれた。1枚の小さな看板。「東響コーヒー50円」。即席カフェの誕生だ。コーヒーのほか、カップ麺も味わえる。
「おはようございます」。楽器ケースを抱えた楽団員が集まり始める。コートを脱ぐやいなや、コーヒーを買い求め暖を取る楽団員も。舞台の緊張をふっと和らげてくれる空間だ。
11時20分:リハーサル準備中
次々とホール入りする楽団員のなかに、第2ヴァイオリン・フォアシュピーラー(次席)奏者の福留史紘(ふみひろ)さんの姿を見つけた。第5回日本アンサンブルコンクール室内楽部門で「最優秀演奏者賞」に輝いた気鋭の音楽家。さっそく話しかけてみる。東響の魅力、どんなところですか?
「仲の良さ、雰囲気の良さに関しては特別な感じ。基本的にとても忙しいオーケストラですけど、どんなときも皆、笑顔を絶やさないんです」
福留さんは現在、第2ヴァイオリンのフォアシュピーラーとして、首席奏者を補佐しながら全体を束ねる存在だ。2006年、東響に入団。その後、特に最近の東響では楽団員の世代交代が急速に進んでいる。
「若い人から刺激をもらいますね。彼らが上の世代から『押さえつけられる』雰囲気は東響にはまったくない。ルールや伝統に縛るよりも、どんどん弾いてもらって、なおかつ、それでスタイルや音楽などをお互いに伝えあい、刺激をもらう。そんな相互作用がありますね」
東響で現在、音楽監督を務めているジョナサン・ノット氏は、1962年、英国生まれ。ケンブリッジ大学で音楽を専攻し、マンチェスターのロイヤル・ノーザン・カレッジで声楽とフルートを学んだあと、ロンドンで指揮を学んだ。欧州の数々の楽団で指揮棒を執り、東響との初共演は2011年10月。
©N.Ikegami/TSO
福留さんは当時の印象を、今も鮮烈に覚えているという。
「それは震災直後、ラヴェルの『ダフニスとクロエ(全曲)』でした。ノット監督はとてつもなく頭が良い。でも、知性に偏るわけじゃない。音楽に対する愛情、情熱がありながら、やりたい音楽のイメージがとてもクリア。『僕はこう思うんだ。こう感じるんだ。こういうイメージなんだ』と、とても早口な英語で話します。ですが、オーケストラにそれを決して押しつけるのではなく、お互いに共感を持とうとしています」(福留さん)
そして本番では、さらに「即興性」が加わる。福留さんはこう強調する。
「スコアの読みはもちろんすごいし、耳は信じられないぐらい良い。『うわ、真似できないな』って。表情や動きのすべてに気持ちが表れ、常に変化している。静止することがない。休符の間も常に呼吸があって、すごく自然」
こんなこともあった。ベートーヴェンに取り組んだときのリハーサルでは、今にも殺されるような、鬼気迫る表情を見せたという。
「交響曲第5番《運命》のときなど、舞台袖からやってきた彼の目の中に炎が見えた。彼の感じているものを、一緒に感じたい。共感を求められ、エネルギーをぶつけられるから、僕らも返さなければ、返したい。そう感じます。僕にとっては『共感』がキーワードなんです」(福留さん)
舞台上に、次々と楽団員が上がっていく。日本を代表する精鋭の彼らが、一堂に集結する。
正午:リハーサル開始
コンサートマスター、グレブ・ニキティンさんが、舞台中央に置かれたグランドピアノの「ラ(A)」の鍵盤を叩いた。
音が生まれ、そこから増幅し、厚みを増し、たちまちホールじゅうを包んでいく。静謐で厳かな空気が漂う。チューニングだ。弦楽器における「ラ」は、左の指で弦を何ら押さえない「開放弦」。
指揮を執るのは、東響の桂冠指揮者、秋山和慶さんだ。「おはようございます!」。秋山さんのキリリと強い声が響きわたり、リハーサルは始まった。
白熱する演奏が続く。緊張感が客席にも伝わり、記者はメモを取るペンの音さえ、出すのをはばかられる。チャイコフスキーのピアノ協奏曲の要所要所を、ソリストと共に、簡潔に、確認し合っていく。
楽団を束ねるコンサートマスター、グレブ・ニキティンさんは、つかの間の休憩時にも、指揮者や他の楽団員と話しこみ、近づくことができない。
14時10分:休憩中
ニキティンさんが楽屋に駆け戻り、水分を摂り舞台に帰ってきた一瞬だけ、ようやく一言、コメントをもらうことができた。
「東響の良さ? 何でもできるところ! マジメなスタイルも、楽しいスタイルも、オールマイティ‼」
1964年、ロシア生まれ。2000年から東響のコンサートマスターを務めている。
そんなニキティンさんを支え続けるのが、アシスタント・コンサートマスターの田尻順さんだ。
「コンマスの意図する音楽を増幅、増長させていく。より伝えやすく、意図を組んでやっていく。そこが難しい。でも、やりがいがあります」(田尻さん)
1994年、東響に入団。98年から現職として従事してきた。外国人のコンサートマスターを支えるにあたって、国が違えば、国民性や生い立ち、考え方も異なるはず。柔和な微笑みを絶やさない田尻さんだが、ツラいことはないのか——。
「ニキティンさんの、僕には創造しえないであろう発想には驚かされます。刺激を受けることばかりですよ。『出逢える喜び』を感じながら、日々の音楽を続けているんです」(田尻さん)
14時25分:リハーサル再開
舞台上では、指揮者の指示一つたりとも逃すまいと、楽団員の熱いまなざしが一点に注がれる。首席ヴィオラ奏者の青木篤子さんも、その一人だ。
「東響は1、2を争う忙しいオーケストラ。オペラ、バレエ、通常のコンサートがあれば、ポップスもあって、メンタルや体調の管理が大変です。でも、その場になると集中し、質の高いものをつくろうとする力がすごいんです。どのステージも、ステージごとに」(青木さん)
2008年に東響入団。「もちろん人間なので、調子の良いときだけじゃない。悩んで、うまくいかなくて、ストレスが溜まることもある。でも、それを跳ねのける力がみんな強いと思う」
青木さんはこの日、午前7時に起き、幼稚園児の息子の弁当をつくってからリハーサルに臨んだ。
「前の日にどんなに遅く寝ても、朝は規則正しく早く起きるようになりました」。
オフの日にまとめて何時間も練習し、早い時期からだいぶ先の演奏会の曲まで準備する。「ママ、練習しなければいけないから」と言うと、息子は別の部屋にいて一人で遊んでいる。けれども、寂しくなってくると「ちょっと練習を聴いていてもいい?」。青木さんの練習室に入ってきて、おとなしくしているという。
その姿がたまらなく愛しい青木さんは、休みの日がまとめて何日かあるときには、つとめて子どもと遊ぶ時間をもつようにしている。
「前は音楽漬けでした。今は、その切り替えが早くなったかな」(青木さん)
写真提供:青木篤子
子どもの顔を見た瞬間、すべてのストレスを忘れてしまう青木さん。音楽監督ノット氏の横顔について尋ねてみると、表情がまた柔らかくなった。
「年末、ノット監督と楽団員何人かで食事に行ったんです。血液型がB型の楽団員で構成された飲み会『B型の会』。ノットさん、血液型がわからないというので、わざわざ調べてみたそうです。そうしたらO型だったそうなんですけど、『B型の自由奔放さと僕はナイスマッチングだから!』なんて言って、参加してくれました(笑)」
川崎のワイン飲み放題の店で、皆がワイワイしているのを、彼は笑って見ていた。まるで学生時代の仲間たちのように、その夜は他愛ない話で盛り上がったという。日本が好きなノット氏に、青木さんら関西出身の楽団員は関西弁を教え込んだ。「なんでやねん!」を、ノット氏は使いこなせるようになったという。
「楽団員の名前を全員覚えてくれる。指揮者と楽団、というのではなく、1対1の人間として、ノットさんは見てくださるんです」(青木さん)
©T. Tairadate/TSO
16時:リハーサルがようやく終了
舞台では居残りで演奏を続ける楽団員も。入団4年目の若きエース、オーボエの首席奏者、荒木奏美さんの姿を見つけた。取材時はまだ現役の東京藝術大学の大学院生。……長時間お疲れさまでした。今日はこのあと、どうするんですか?
「今夜は『田端会』です。東京・北区田端あたりに住んでいる楽団員の皆さんとの飲み会です。いつもは夜遅くまで練習や大学の勉強、そのほかに頂いたお仕事に明け暮れるので、今日みたいな日は、リフレッシュになります」(荒木さん)
「B型の会」の次は「田端会」と来た。楽団内ではそれ以外にも、サッカーやフットサルの部活があり、楽団員がお揃いのユニフォームまでつくっているという。
「私もフットサル部に参加しています。オケでは皆、音楽でコミュニケーションをとっていますが、もともと共通点のない人たちの集まり。東響は音楽以外での繋がりを大事にする人が多い印象です。それがまた音楽にも繋がっている」(荒木さん)
学業と楽団の両立も難しそうにみえるが、「若い人たちにも音楽以外のストレスがないように気を配ってくださる。私みたいに、オケの経験がなかった人にも手を差し伸べてくださるんです。苦労をされてきた先輩方が大変なことはこちらに回さずに、面倒を見てくださるんです」(荒木さん)。
一方、若い楽団員もそれに甘えることなく、自分に厳しい目を持って入ってくる人ばかりだ。先輩たちの優しさに決して甘えることなく皆、一緒にできている感覚があるという。
来シーズンでは、11月オペラシティシリーズのR.シュトラウス「オーボエ協奏曲」が待ち遠しい。ノット氏の信頼の厚いもう一人の首席オーボエ奏者・荒絵理子さんを迎えてのプログラムがある。
「私が初めて聴いたオーボエの女性奏者が荒さん。水戸の室内管弦楽団です。憧れて、ずっと励みにしてきたかた。『乗り番』(註・その演奏会に出演すること)で一緒のときなどに、ご飯にも行くこともあります。入団時からいろいろ心配してくださって、オケの中の立ち位置などをアドバイスしてくださった」(荒木さん)
毅然と、あまり気にしないように。それが、荒さんのアドバイスだ。それを踏まえ「芯(意志)をもちつつ、うまく流されるように」が今では荒木さんの座右の銘となった。
荒木さんには、音楽監督ノット氏の忘れられない言葉がある。
「モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》の最終練習日、ノット監督はこう言ったんです。『一番大切なことは、心から楽しむこと』。とても印象的でした。3日間のリハーサルで細かい指導をしてくださったけれど、一番大切なのは楽しんでやること、と。音楽を本当に楽しむのが大事。細かいことをいちいち気にしていたら萎縮しちゃう。それを汲み取り、彼は私たちの心を解放してくれた。皆の士気が上がりました」(荒木さん)
モーツァルト:オペラ《フィガロの結婚》演奏会形式より(2018年12月サントリーホール)
©N. Ikegami/TSO
17時:撤収、退館
首席ティンパニ奏者の清水さんは、この日最初の食べ物を口にする。集中が解かれてリラックスする時間だ。清水さんにとって、そこまでストイックに心を傾ける東響の魅力はどこにあるのだろうか。
「音大時代はクラシックを日本で演奏する難しさを感じていたんです。各セクションのアンサンブルがいい形で絡み合えばいい音楽につながると思うのだけど、意思の疎通がなかなかうまくいかない。オーケストラの音楽はアンサンブルありきではなく、お客さんは弦楽器の向こうにいて、そちらにある音楽が正解。卒業後に行ったドイツではそこで悩まなかったんです。でも、帰国したらまた悩むことがありました」
その後、東響のオーディション前に、エキストラ奏者としてこのオーケストラで演奏した。
「すごく悩んでいたことが霧が晴れるように感じました。良くしようって、みなさんが努力して前に進んでいる空気感があって。そのときに『自分の人生をかけて、みなさんと一緒に音楽づくりをしたい』と思ったんです」
“第二の指揮者”ともいわれるティンパニゆえに、清水さんは普段からよくノット氏に話しにいくそうだ。
「いつも奏者を尊重してくれて、ノット監督の音楽をエゴイスティックに押しつけることがないですね。でも、ノット監督の中にある音楽性はものすごく強くて、その日その場所で出てくる音と対話しながら、それを東響と共有して、お客さんも巻き込んで、ひとつの音楽の空間を共有させられる力がある。常に変化があるので、緊張感もあるし、恐怖心もある。世界の超一流の指揮者が音楽監督をやってくださっているんです。それって奇跡的なこと。その空気に触れているだけで、どんどん変化・成長していくと思います」
そして、こう付け加えた。
「みなさん、事務局の方のすごい努力で成立していることもわかっていて、そこもまた東響の魅力ですね」
©T. Tairadate/TSO
19時:オフの時間
荒木さんたちが「田端会」の乾杯の発声を上げるころ、ヴァイオリン福留さんは娘と同業者の妻と共に自宅で食卓を囲む。
「奥さんがレッスンをしているので、僕が娘をお風呂に入れて、ご飯を食べさせて。料理と寝かしつけは奥さんがやるんですけど」(福留さん)。お風呂から上がったら、絵本の読み聞かせだ。
「娘は『バーバパパ』がすごく好き。図書館に連れて行くと、娘が本を選ぶそばで、僕が懐かしくて手に取っちゃうんです。『これ、面白いよ!』『じゃあ、借りる!』 僕も懐かしく思いながら読んでいます」(福留さん)
21時:1日の終わりに
娘が眠ったあとの福留さんは自宅の練習室にこもり、譜読みに没頭していた。オーケストラの楽譜はPDFにして、iPadで見る。譜読みは、演奏会の立て込むときは午前2、3時まで続く。
日付が変わるころ、オーボエ荒木さんは、自宅で大好きな朝ドラ「まんぷく」の録画チェックを終え、眠りにつく。
ヴァイオリン福留さんが譜読みを終え、iPadの電源を落とす。
明け方、ヴィオラ青木さんの自宅では、息子のお弁当箱に入れる玉子焼きの匂いが立ち込めてきた。
東響の、また新しい朝が始まる。
楽団員アンケート!「2019/2020シーズンで聴くべき演奏会ベスト3」
楽団員のみなさんに2019/2020シーズン公演から特にオススメする「ベスト3」を選んでいただきました。回答は34名。1票につき1位を10ポイント、2位を6ポイント、3位を3ポイントとして集計した結果を発表!
イチオシした理由も、一部抜粋してご紹介します。
※以下、敬称略
■第1位(166ポイント/1位13名、2位4名、3位4名)
首席ヴィオラ 青木篤子「ヴィオラの性格を、マーラーの《夜の歌》に出会うまではもっと温かいもの、包容力のあるものでなければいけない、という感覚があった。でも、この曲はダークサイドな部分……スケルツォの楽章なんか、ヴィオラ自身が悪魔になって弾くような部分もあって、意識が変わった。コントラストが激しいんです、ノットさんのマーラーは」
首席ティンパニ&打楽器 新澤義美「《夜の歌》と呼ばれるマーラーの交響曲ですが、壮大な曲の中で、時折優しく差す光を感じる。打楽器もカウベルの柔らかい響きなどが効果的に使われているところが聴きどころ」
バストロンボーン 藤井良太「現代曲を得意とするノット監督の指揮するベルク。そして音楽監督の任期中、マーラー全曲を振ると明言しているノット監督のマーラー7番は聴き逃せません」
第2ヴァイオリン 鈴木浩司「マーラーの交響曲第7番では、テノールホルン、マンドリン、ギターなどの楽器が使われている点も楽しんでいただけたらと思います」
■第2位(143ポイント/1位11名、2位4名、3位3名)
コンサートマスター グレブ・ニキティン「私はノット監督が、それぞれのプログラムで仕掛けている謎かけの数々を理解し始めています。でも今は自分の考えはすべて明かさないほうが良いだろうと思っています。聴衆の皆さまが、それぞれに想い巡らすことができるように、今回はいくつかのヒントを残したいと思います。
1)それぞれの曲のタイトル! 2)昨シーズンに演奏した「ゲロンティアスの夢」との関連性! 3)聴衆の皆さまに、亡くなられた方々の面影等を思い起こさせることができるのでは!?
謎解きのパズルのピースとしてはとても少ないかも知れませんが、皆さまがそれぞれに考えてみていただきたいと思います。きっと何かが見えてくると思います」
第2ヴァイオリン・フォアシュピーラー 福留史紘「ノット監督のプログラミングは『生と死』――たとえばリゲティの『ポエム・サンフォニック』で始まった、ショスタコーヴィチの交響曲15番をやったときも(2015年11月定期)、やはり生と死を感じましたし、マーラーの9番もそうです。存在意義、音楽の哲学的な部分を探求していると僕は感じています」
首席ティンパニ&打楽器 清水太「ドイツの劇音楽で、ティンパニは死の表現によく用いられるのですが、《死と変容》はその代表的な作品。死の場面で強烈な打撃がある。他にも、静寂のなかでティンパニがトトトト……トトトト……と入ってきたりして魅力的なのです。昨年の第659回定期でもマーラー10番とブルックナー9番という2人の大作曲家の最期を意識した作品があり、続いてこの演奏会。永遠のテーマ『生と死』そして人生について演奏会を跨ぎながら表現する、ノット&東響のプログラミングの真骨頂だと思います」
首席ホルン 大野雄太「この組み合わせには戦慄しました。ユダヤ人収容所に入れられたリゲティの《レクイエム》は、生で聴いたらどんな気持ちになるのか想像できません。全欧で600万人の犠牲者を出したとされるホロコーストにはもちろん及びませんが、40声という途方もない声体で構成されたタリスのモテット(註:多声の宗教声楽曲)は、数多の人がその数だけの生を持っていることを迫るでしょう。《死と変容》は度々『死』をテーマにした演奏会で取り上げられますが、今回は特に深遠なものになるかもしれません。それにしてもノット監督は人間として愉快な人ですが、恐ろしい人です。このテーマで《芸術家の生涯》なんて思いつきますか?」
■第3位(69ポイント/1位3名、2位4名、3位5名)
第670回 定期演奏会
2019年05月25日(土)18:00開演
サントリーホール 詳細はこちら
曲目
ブリテン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番
出演
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:ダニエル・ホープ
チェロ 大宮理人「ノット監督の振るショスタコーヴィチは、東響70周年記念公演のヨーロッパツアー以来だと思いますが、監督の熱い指揮で今まで聴いたことのない、弾いたことのないショス5になるのでは!! と個人的にスーパー楽しみです!!」
首席クラリネット エマニュエル・ヌヴー「ノット監督の指揮でのショスタコーヴィチは、どのように曲を作り上げていくのかとても楽しみな公演の一つであり、斬新かつバランスの良いプログラミング」
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