レポート
2026.02.25
海外レポート・アメリカ【音楽の友3月号】/Worldwide classical music report, "U.S.A."

リセット・オロペサが大喝采を浴びたメトロポリタン歌劇場の《清教徒》

アメリカの1月の音楽シーンから、ニューヨークを中心に、オペラのレポートやニュースをお届けします。

小林伸太郎
小林伸太郎 音楽ライター

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

METの《清教徒》から。舞台手前の左はエルヴィーラ役のオロペサ、右がアルトゥーロ役のブラウンリー © Ken Howard / Met Opera

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メトロポリタン歌劇場(MET)はニューイヤーズ・イヴのガラ公演として、ベッリーニ《清教徒》を新制作上演した。

もともと舞台美術家として知られ、今回METでの演出デビューとなったチャールズ・エドワードによるプロダクションは、16世紀半ばの清教徒を(いまどき珍しく)時代設定に忠実に描くという点で前評判を呼んでいた。

はたして蓋を開けてみると、主に照明(ティム・ミッチェル)を駆使して登場人物の心理をグラフィックに描こうとする努力が目立つ舞台だった。あまりにも露骨に変化する照明は説明過剰に感じられたが、わかりやすいと受け取った観客も多かったようだ。

去る10月の《夢遊病の娘》に続き、今シーズンはベッリーニ作品が2本も新制作されるという珍しいシーズンになったが、それはベッリーニ作品のようなベルカント・オペラを得意とするスター歌手がそろっているためと考えるのが順当だろう。

実際、エルヴィーラ役のリセット・オロペサは、高音域はもちろん、温かみのある中低音域にいたるまで表情豊かで、大喝采を浴びていた。コロラトゥーラの粒立ちがやや曖昧になる点は気になったものの、劇的にもよく練られた歌唱であったと思う。

アルトゥーロ役のローレンス・ブラウンリーは、ハイFをふくむ高音は言うまでもなく、長いラインを歌う柔らかなフレージングが情感豊かで見事だった。ほぼ同年齢のフアン・ディエゴ・フローレスがより強い声の役を手がけるようになったいま、ブラウンリーこそがベルカント最大のスターと言えるかもしれない。クリスチャン・ヴァン・ホーンのジョルジオ、そしてライブビューイング収録日であったこの日に代役として登場したリカルド・ホセ・リベラのリッカルドも、充実の歌唱であった。指揮はマルコ・アルミリアート(1月10日所見)

公演キャンセルが相次ぐケネディ・センター

ケネディ・センター(正式名称:The John F. Kennedy Center for the Performing Arts)は、昨年トランプ大統領が理事長に就任して以来、同センターでの公演をキャンセルするアーティストや団体が相次いでいる。さらに先月(2025年12月)、同センターが「トランプ・ケネディ・センター」に改称されて以降、その動きはいっそう顕著になっている。

ケネディ・センター©小林伸太郎
トランプ大統領が理事長を務めるケネディ・センター©小林伸太郎

同センターはオペラハウス、コンサートホール、演劇場など大小さまざまなスペースを擁する総合文化施設だが、1月9日にはオペラハウスを本拠地としていたワシントン・ナショナル・オペラが退去を発表した。芸術監督フランチェスカ・ザンベッロによると、トランプ大統領の理事長就任以降、チケット売上が急落しているという。3月以降の公演はジョージ・ワシントン大学の劇場で行われる。

このほか、ソプラノ歌手ルネ・フレミングやマーサ・グラハム舞踊団など、著名アーティストや大小の団体によるキャンセルが続いているが、フィリップ・グラスは1月27日、ケネディ・センターで6月に予定されていた彼の「交響曲第15番」の世界初演を取り下げると発表した。同曲はケネディ・センター50周年を記念してワシントン・ナショナル交響楽団が委嘱した作品で、グラスによれば、リンカーン大統領のポートレートを描いたという同曲のメッセージが、現在の同センターの価値観と相容れないことが理由だという。

そして2月1日、トランプ大統領は、建国250周年記念日となる今年の7月4日から2年間、ケネディ・センターを改修のために閉鎖する計画を発表した。この改修によって、彼が「疲れはて、壊れ、荒れはてたセンター」と呼ぶ施設を、「同種の施設として世界最高のパフォーミングアーツ拠点」へと生まれ変わらせることができるのだという。計画実行には理事会の承認が必要だというが、その理事会はトランプ氏が掌握している。ちなみに同センターは2019年に大規模な改修・拡張工事を行ったばかりである。

米国建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトンの生涯を、ヒップホップやR&Bなど多彩な音楽と多人種キャストで描いたミュージカル《ハミルトン》が同センターでの公演をキャンセルして以来、同大統領は《ハミルトン》のような作品よりも、メガヒットミュージカル《レ・ミゼラブル》のような演目を呼び込みたいと語っている。《レ・ミゼ》がイギリス製の、フランス革命前後を題材とした作品であることを思えば、なんとも皮肉な話である。

なおワシントン・ナショナル交響楽団(ジャナンドレア・ノセダ音楽監督)は、動員が昨シーズン比で5割落ち込んでいると報じられているが、トランプ大統領の同センター・プレジデント就任に続き、昨年10月からすべてのコンサート冒頭で米国国歌を演奏するようになっている。

小林伸太郎
小林伸太郎 音楽ライター

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...

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