連載
2024.12.21
1月のオペラ・コンサート予想/12月のオペラ・コンサート報告

【音楽が「起る」生活】フォルクスオーパー響、佐渡裕のマーラー9番、仏の新星2人

音楽評論家の堀内修さんが、毎月「何かが起りそう」なオペラ・コンサートを予想し、翌月にそこで「何が起ったのか」を報告していく連載。1月の予想はウィーン・フォルクスオーパー交響楽団、バンジャマン・ベルナイムT、ジュスタン・テイラーcemb、佐渡裕指揮新日本フィルのマーラー「第9番」。12月の結果報告は、ファウストvn&アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコ、ノット指揮東響《ばらの騎士》の2つです。

堀内 修
堀内 修 音楽評論家

東京生まれ。『音楽の友』誌『レコード芸術』誌にニュースや演奏会の評を書き始めたのは1975年だった。以後音楽評論家として活動し、新聞や雑誌に記事を書くほか、テレビやF...

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何かが起りそう(1月のオペラ・コンサート予想)

1.サントリーホール ニューイヤー・コンサート 2025 ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団(1/1~3・サントリーホール)

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団 ©サントリーホール

めでたい正月はウィンナ・ワルツで明るく祝う。これはもう日本の習慣になったのではないだろうか。その証拠にウィーン・フォルクスオーパーのオーケストラは、正月にウィーンでのんびり過ごしてなどいない。東京はサントリーホールにやってくるのが決まりになっている。ありがたい。

聴きに行かずにどうする?というわけで出かけると、2025年はおなじみの《こうもり》序曲で始まり《春の声》や《皇帝円舞曲》とウィンナ・ワルツの数々が並んでいる。歌手も揃えていて「君はわが心のすべて」なども聴ける。演奏会形式でもいいからオペレッタまるごとがいいかな?という気もするけれど、めでたい正月には色とりどりの曲目がふさわしいのかもしれない。はっきり言って「何か」はまったく起こりそうにない。それがいい。いま、誰が何も起こらない年を願わずにいられるだろう?

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2. バンジャマン・ベルナイム テノール・コンサート(1/14・東京文化会館、1/19・サントリーホール)

バンジャマン・ベルナイム photo: Julia Wesely

さあどうなるか? ついに理想のテノールが現れた!と騒ぐのか、それともアラーニャやフローレスをなつかしむのか? 騒ぐ可能性は大いにある。このあいだメトロポリタン・オペラのライブビューイングで、この秋にニューヨークで上演されたオッフェンバック《ホフマン物語》が上映された。ホフマンを歌ったのがベルナイムだった。春のスカラ座でのマスネ《ウェルテル》での評判も高かった。フランス・オペラではまちがいなくいま1番らしい。そのへんを直接聴き、イタリアものはどうかな?と確認する。これだけだって十分楽しい。新しいテノールのスターの出現はいつだって大きな事件だ。

3. ジュスタン・テイラーcemb「バッハとイタリア」(1/15・王子ホール)

ジュスタン・テイラー ©Julien Benhamou

さて評判通りなのだろうか?ジュスタン・テイラーがコンクールで賞を取り、デビューして注目されてからやっと10年だ。まだ30代に入ったばかりの若いチェンバロ奏者の真価はどうか?プログラムはバッハとスカルラッティやマルチェッロを組み合わせた、最新流行の曲目で、そそられる。地味な楽器というほかないチェンバロのイメージが変わるかもしれない。

4. 新日本フィルハーモニー交響楽団 佐渡 裕指揮 マーラー/交響曲第9番(1/25・すみだトリフォニーホール、1/26・サントリーホール)

佐渡 裕 ©Peter Rigaud c/o Shotview Artists

佐渡 裕が新日本フィルの音楽監督になって2シーズン目を迎える。その大本命がこのコンサートだというのだから、聴きたくなる。マーラーの「交響曲第9番」は、ブルックナーの「9番」と違って、遺作となったわけではないが、やっぱりおしまい、あるいは死を強く意識している。「第8番」のように巨大ではなく、声も入っていないけれど、聴くほうにも演奏するほうにも特別な交響曲と感じさせる何かがある。バーンスタインの直系を自認する佐渡 裕の演奏が、特別な結果を生むかどうか、耳を傾けてみよう。

何が起ったのか(12 月のオペラ・コンサートで)

1. イザベル・ファウストvn、ジョヴァンニ・アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコ~モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会(12/10、11・東京オペラシティ・コンサートホール)

「ロココのモーツァルト」が葬られた。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲の、一昔前、いやついこの間までの演奏になじんでいる者には思わず口を開けてしまう出来事が起った。覚悟はしていたけれど、実際に聴くとやっぱり驚く。ピアノ協奏曲はともかく、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は機会音楽の仲間に入れてもいいくらいで、優美なロココ風演奏が愛でられてきた。これがひっくり返った。

2日で全5曲他が取り上げられたコンサートの、2日目しか聴けなかったのは残念だが、第2番と第5番が聴けた。第5番のメヌエットが戦闘態勢に入ってからの演奏なんて手に汗握って聴き入ってしまう。ファウストの細く強靭な音色と敏捷な動きもさることながら、アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコの精確な攻撃力もものを言った。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲はサロンで演奏されるのがふさわしい、優美なロココの音楽ではなく21世紀のスリル満点の音楽になった。

ヴァイオリンとヴィオラは立って演奏するので独奏者と同じように並ぶ。コンサートの風景も以前とは変わりました。

(2024年 12/11・東京オペラシティ・コンサートホール)

2.東京交響楽団 特別演奏会《ばらの騎士》~ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団、ミア・パーションS、カトリオーナ・モリソンMs、アルベルト・ベーゼンドルファーBs、他 (12/13・サントリーホール、12/15・ミューザ川崎シンフォニーホール)

2人の甘い一夜、というより激しい一夜の音楽で始まった。遠慮などしない。クラウスからクライバーまで、歴代の指揮者たちが精出してきたウィーン的優雅に目をくれず、力あふれる《ばらの騎士》へと突き進む。情緒纏綿のウィーンが東京に移って、スペクタクルのオペラになった。確かに《ばらの騎士》は強大な《エレクトラ》の次に作られた作品に違いなかった。

舞台上のオーケストラのたくましい響きにはそれに見合う歌手がいる。確かに、見合った歌手たちが集められていた。タイトル・ロールはオクタヴィアンで、この役を歌うメゾ・ソプラノこそ主役となるべきだと主張されるような配役だが、カトリオーナ・モリソンはその豊かな声と堂に入った演技力とでその役を見事に果たした。さらに、元帥夫人もオックス男爵もソフィーも、よく揃えたと感心するくらい、力のある歌手たちで、ノットと東響は堂々たるスペクタクルの《ばらの騎士》で、成功したシリーズをしめくくった。

(2024年 12/13・サントリーホール)

 

堀内 修
堀内 修 音楽評論家

東京生まれ。『音楽の友』誌『レコード芸術』誌にニュースや演奏会の評を書き始めたのは1975年だった。以後音楽評論家として活動し、新聞や雑誌に記事を書くほか、テレビやF...

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