田代万里生の音楽ヒストリー⑤ ミュージカルの世界へ
ミュージカルをはじめ、多彩なフィールドで活躍を続ける田代万里生さんが、自身の音楽のルーツをたどりながら、愛するクラシック音楽や音楽家たちと語り合う連載。第5回は、ついに音楽ヒストリー最終回! ミュージカルの初舞台へとつながる大きな転機と、クラシックとの違いによる戸惑い、そして演技について……今だから語れる音楽観も明かします。
ターニングポイントは1通のメール
「ESCOLTA」での活動が2年目に入ったとき、僕の人生に転機が訪れます。きっかけは、ある日突然、送られてきた1通のメールでした。送り主はホリプロ。「ホリプロの○○です」と名乗るそのメールは、当時流行っていたチェーンメールのようにしか思えず、何度もゴミ箱に放り込んでいました(笑)。でも、4度目に届いたとき、なぜか開いてみたら、そこには「新作ミュージカル『マルグリット』のオーディションに興味はありませんか?」という内容が丁寧に書かれていたんです。
正直、クラシック出身の僕にとって、ミュージカルは遠い存在でした。でも、 《椿姫》をベースにした作品で、『シェルブールの雨傘』で有名な、世界的作曲家ミシェル・ルグランの新作。しかも僕が演じるアルマンはジャズピアニスト。劇中で実際にピアノも弾く役柄で、ジャズピアノの速弾きや弾き語り、さらには2オクターブ以上の旋律をクラシカル発声で歌う必要もあるという……。これには僕のアンテナがビビッと反応しました。オペラでいうと《椿姫》の「アルフレード」をやれる!? しかも大好きなピアノを弾きながら……。クラシック出身の僕にとって、それは大きな魅力でした。
東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科声楽専攻(テノール)卒業。音楽の教員免許(中学・高校)資格を取得。絶対音感の持ち主でもある。3歳から母よりピアノを学び、7歳でヴァイオリン、13歳でトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。ピアノを三宅民規、御邊典一、川上昌裕、吉岡裕子、声楽を直野資、市原多朗、岡山廣幸、野口幸子に師事。13歳のとき、藤原歌劇団公演オペラ《マクベス》のフリーアンス王子役に抜擢。大学在学中の2003年東京室内歌劇場公演オペラ《欲望という名の電車》日本初演で本格的にオペラデビュー。その後09年『マルグリット』でミュージカルデビューを果たす。
近年の主な出演作に『キャプテン・アメイジング』『イノック・アーデン』『ラブ・ネバー・ダイ』『モダン・ミリー』『カム フロム アウェイ』『アナスタシア』『マチルダ』『マタ・ハリ』『マリー・アントワネット』等。第39回菊田一夫演劇賞受賞。ミュージカルデビュー15周年記念アルバム「YOU ARE HERE」発売中。10月より『エリザベート』出演予定。
オーディションの前に、ロンドンで世界初演の『マルグリット』を観る機会をもらったんです。「ロイヤル・ヘイ・マーケット」という歴史ある劇場で、主演のルーシー・ヘンシャルさんや、アルマン役のジュリアン・オヴェンデンさんの歌や芝居に圧倒されました。マイクがあると感じさせない自然な歌声、そして何よりクラシカルな発声。「これなら自分もチャレンジしてみたい」「この年齢で主役級を演じられるかもしれない」……そんな希望を抱いたのを今でも覚えています。オペラだと声の成熟のために主役級は40代前後からと、もっと年齢を重ねてからというイメージが強かったので、まだ当時24歳の僕にとっては衝撃的でした。
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