「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第4回 音程2. 転回音程とオーケストレーション
音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。
みなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も「第九」とともに音楽の仕組みを楽しく学んでいきましょう。
今回は音程の第2回「転回音程とオーケストレーション」です。
【楽典】
1、 転回音程と原音程
1オクターヴ以内の音程(単音程)のいずれかの音をオクターヴ上または下に移動して得られる音程を転回音程といいます。すなわち、オクターヴから元の音程を引いた残りの音程のことです。転回する前の音程を原音程といいます。原音程と転回音程は、対になる音程が例外なく決まっています。覚えてしまいましょう。
1度 ⇆ 8度
2度 ⇆ 7度
3度 ⇆ 6度
4度 ⇆ 5度
完全 ⇆ 完全
短 ⇆ 長
減 ⇆ 増
重減 ⇆ 重増
例を3つ挙げると次のようになります。
・完全5度の転回音程 → 完全4度
・増2度の転回音程 → 減7度
・重減6度の転回音程 → 重増3度
2、オーケストレーションの中での転回音程
第1楽章冒頭(譜例1)の第1ヴァイオリンのE5とA4は完全5度です。その上方のEをオクターヴ下に移動したものが次に現れるA4とE4の完全4度です。オクターヴから完全5度を引くと完全4度になります。これが転回音程です。
譜例1 第1楽章冒頭
第164小節(譜例2)からは、冒頭と比べて、形態としては同じ要素からなっていますが、オーケストレーションがだいぶ変化しています。今度は背景の響きであるAとEに着目するために書き出してみました(譜例3)。チェロのA2とE3、ホルン(Cor.)のA3とE4、クラリネットのA4、オーボエのE5、フルートのA5は、完全5度を3オクターヴにわたり重ねています。そして、チェロのE3とホルンのA3、ホルンのE4とクラリネットのA4、オーボエのE5とフルートのA5は完全4度になっていることがわかります。
※クラリネットの実音は記譜音の長2度下、ホルン(Cor.)(D)の実音は記譜音の短7度下です。
譜例2 第1楽章 第164小節~
譜例3 第1楽章 第164~170小節に出てくるAとEの音程関係
【エクササイズ】
1. 原音程と転回音程
①を例に、手順を説明します。
・原音程を考え( )に書きます。→GとHは長3度。
・次に転回音程を考え [ ] に書きます。長は短に、3度は6度になるため、長3度の転回音程 → 短6度。
・下の段の五線に指示された音の上方に、転回音程を書き入れます → H4の上方に短6度を作り、G5を書き入れます。この問題は、ちょうど原音程のGの1オクターヴ上の音になります。
②からも、同じような手順で取り組んでみましょう。
答え:
2. オーケストレーションの中の転回音程
オーケストレーションでは、しばしば2声のパッセージが、オクターヴ違いで異なる楽器に割り当てられています。それらの楽器間には、転回音程が生じています。
たとえば、第1楽章413小節からは(譜例4)木管のみで3小節続く印象的なフレーズです。フルートとオーボエ、クラリネットは414〜416小節は微妙に違う旋律をオクターヴ違いで奏でています。
譜例4
指示された音程の原音程を答え、その転回音程が何度で、隣接するどのパートとの間に生じているか考えましょう。クラリネットの実音は記譜音の長2度下です。また、調号に♭が1つ付いていることを忘れないようにしましょう。
答え:
番号 | 原音程 | 転回音程 | 転回音程が生じているパートと音 |
1 | 短3度 | 長6度 | フルートFis、またはクラリネットA |
2 | 完全4度 | 完全5度 | オーボエD |
3 | 完全5度 | 完全4度 | フルートD、またはクラリネットA |
4 | 長3度 | 短6度 | フルートEs、またはクラリネットG |
5 | 増4度 | 減5度 | オーボエG |
6 | 長6度 | 短3度 | オーボエF |
7 | 完全4度 | 完全5度 | フルートF、またはクラリネットB |
8 | 完全5度 | 完全4度 | フルートEs、またはクラリネットB |
3. 聴いて確かめよう
第1楽章冒頭(譜例1)
第1楽章160小節~(譜例2)
(4:51~)
第1楽章407小節~(譜例4)
(10:57~)
いかがでしたか? 他にも転回音程が生じている箇所を探してみてくださいね。オクターヴ違いで楽器を重ねることにより、音色も響きも豊かになることが実感できると思います。
次回は、音程の第3回「異名同音的音程などの応用」です。お楽しみに。
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