連載
2025.01.15
聴く耳と演奏力が育つ

「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第4回 音程2. 転回音程とオーケストレーション

音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

イラスト:駿高泰子

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みなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も「第九」とともに音楽の仕組みを楽しく学んでいきましょう。

今回は音程の第2回「転回音程とオーケストレーション」です。

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【楽典】

1、 転回音程と原音程

1オクターヴ以内の音程(単音程)のいずれかの音をオクターヴ上または下に移動して得られる音程を転回音程といいます。すなわち、オクターヴから元の音程を引いた残りの音程のことです。転回する前の音程を原音程といいます。原音程と転回音程は、対になる音程が例外なく決まっています。覚えてしまいましょう。

1度  ⇆  8度

2度  ⇆  7度

3度  ⇆  6度

4度  ⇆  5度

 

完全  ⇆  完全

短  ⇆  長

減  ⇆  増

重減  ⇆  重増

例を3つ挙げると次のようになります。

・完全5度の転回音程 → 完全4度

・増2度の転回音程 → 減7度

・重減6度の転回音程 → 重増3度

2、オーケストレーションの中での転回音程

第1楽章冒頭(譜例1)の第1ヴァイオリンのE5とA4は完全5度です。その上方のEをオクターヴ下に移動したものが次に現れるA4とE4の完全4度です。オクターヴから完全5度を引くと完全4度になります。これが転回音程です。

譜例1 第1楽章冒頭

第164小節(譜例2)からは、冒頭と比べて、形態としては同じ要素からなっていますが、オーケストレーションがだいぶ変化しています。今度は背景の響きであるAとEに着目するために書き出してみました(譜例3)。チェロのA2とE3、ホルン(Cor.)のA3とE4、クラリネットのA4、オーボエのE5、フルートのA5は、完全5度を3オクターヴにわたり重ねています。そして、チェロのE3とホルンのA3、ホルンのE4とクラリネットのA4、オーボエのE5とフルートのA5は完全4度になっていることがわかります。

※クラリネットの実音は記譜音の長2度下、ホルン(Cor.)(D)の実音は記譜音の短7度下です。

譜例2 第1楽章 第164小節~

譜例3    第1楽章 第164~170小節に出てくるAとEの音程関係

【エクササイズ】

1. 原音程と転回音程

①を例に、手順を説明します。

・原音程を考え(  )に書きます。→GとHは長3度

・次に転回音程を考え  [            ] に書きます。長は短に、3度は6度になるため、長3度の転回音程 → 短6度

・下の段の五線に指示された音の上方に、転回音程を書き入れます → H4の上方に短6度を作り、G5を書き入れます。この問題は、ちょうど原音程のGの1オクターヴ上の音になります。

 

②からも、同じような手順で取り組んでみましょう。

答え:

2. オーケストレーションの中の転回音程

オーケストレーションでは、しばしば2声のパッセージが、オクターヴ違いで異なる楽器に割り当てられています。それらの楽器間には、転回音程が生じています。

たとえば、第1楽章413小節からは(譜例4)木管のみで3小節続く印象的なフレーズです。フルートとオーボエ、クラリネットは414〜416小節は微妙に違う旋律をオクターヴ違いで奏でています。

譜例4

指示された音程の原音程を答え、その転回音程が何度で、隣接するどのパートとの間に生じているか考えましょう。クラリネットの実音は記譜音の長2度下です。また、調号に♭が1つ付いていることを忘れないようにしましょう。

答え:

番号 原音程 転回音程 転回音程が生じているパートと音
1 短3度 長6度 フルートFis、またはクラリネットA
2 完全4度 完全5度 オーボエD
3 完全5度 完全4度 フルートD、またはクラリネットA
4 長3度 短6度 フルートEs、またはクラリネットG
5 増4度 減5度 オーボエG
6 長6度 短3度 オーボエF
7 完全4度 完全5度 フルートF、またはクラリネットB
8 完全5度 完全4度 フルートEs、またはクラリネットB

3. 聴いて確かめよう

第1楽章冒頭(譜例1)

第1楽章160小節~(譜例2)

(4:51~)

第1楽章407小節~(譜例4)

(10:57~)

いかがでしたか? 他にも転回音程が生じている箇所を探してみてくださいね。オクターヴ違いで楽器を重ねることにより、音色も響きも豊かになることが実感できると思います。

次回は、音程の第3回「異名同音的音程などの応用」です。お楽しみに。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

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