2020.05.02
井内美香の「カプリッチョな音楽手帖」vol.6
私にバロックを開眼させたステファノ・モンタナーリのヴァイオリン
井内美香 音楽ライター/オペラ・キュレーター
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
私がバロック音楽を“発見”したのは、イタリア出身のバロック・ヴァイオリンの名手ステファノ・モンタナーリを聴いたときでした。それまで、どうしても好きな演奏に巡り会えなかったヴィヴァルディ作曲『四季』を、モンタナーリ氏がソロを務めるアカデミア・ビザンティーナの録音で聴き「探していたのはこれだ!」と感じたのです。
密度が高い美音、曲への没入度の深さ、時代の様式をリスペクトした演奏、ファンタジーあふれる装飾の使い方……。バロック音楽の醍醐味は、演奏者の妙技と解釈を味わうことでもあります。彼のおかげで、ヴィヴァルディのオペラの素晴らしさも理解できるようになりました。
その後、当時イタリアに住んでいた筆者は、なぜかなかなか開かれないモンタナーリのコンサートを探しては通うようになりました。そして何年も待ったあと、ミラノで開かれた2日間に渡る彼のソロ・コンサートで、J.S.バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』全曲を聴いたのです。
バッハの宇宙の広大さ、そしてモンタナーリの演奏の真実味には、ただ涙するしかありませんでした。幸いなことにモンタナーリは、この曲を2011年に録音しており、最近その録音は彼自身のYouTubeでかなり良い音質で聴くことができるようになっています。
一度きりの生演奏はプライスレス。でも、録音という現代の奇跡が存在して良かった。そう、しみじみ感じながら、モンタナーリのバッハを聴いています。
井内美香の「カプリッチョな音楽手帖」
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