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2026.04.12
海外レポート・イギリス【音楽の友5月号】/Worldwide classical music report, "U.K."

F.P.ツィンマーマン(vn)&チョニ(p)、ウィグモア・ホールでシューベルトと新ウィーン楽派の公演

3月のイギリス・ロンドンにおける注目のコンサートをレポートします。

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ヴィグモア・ホールで演奏するフランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)とドミトロ・チョニ(ピアノ) © Darius Weinberg / Wigmore Hall

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聴き手にとってのロンドンの魅力は、古今東西の多様な音楽を聴けることだ。本稿はその包容力の一端をお伝えすべく、室内楽の殿堂ウィグモア・ホールにおける公演、そしてメキシコの現代音楽に焦点を当てた演奏会と、二つの演奏会レポートで構成する。

さて、世界の名手が王道の曲で腕を振るうのがウィグモア・ホールだ。3月22日はフランク・ペーター・ツィンマーマン(vn)がドミトロ・チョニ(p)と共にシューベルト新ウィーン楽派を交互に組んだプログラムに臨んだ。

「ヴァイオリンとピアノのための作品」から「ソナチネ第2番」イ短調D385で楚々と始めたが、前半トリにはフルートのための「《しぼめる花》の主題による序奏と変奏曲」D802で変化球。直前のウェーベルン「4つの小品」作品7から継ぎ目なく続け、シューベルトらしい上行音階が現れてやっと聴衆はその目論見に気づく。弦楽器には難儀な音型も、この日の奏者は眉一つ動かさずに弾ききった。

ツィンマーマンの音色はシューベルトに対して情報過多の感があり、潤いがたっぷりありながら清濁併せ吞むような音は、新ウィーン楽派の曲では効果的に響いた。対してチョニのピアノは澄んだ湧水のようでシューベルトによく合う。アンサンブルは不思議と均衡が取れていた。

後半はまずシェーンベルク最後の器楽曲こと「幻想曲」作品47。鋭い音程感覚を要する12音技法の旋律の壁を、ツィンマーマンはやすやすと越える。舞台袖には下がらずそのままシューベルト「幻想曲」ハ長調D934へ。ヴァイオリンはやはり近現代向きの音だと思ったが、両者の見事な弾き様が筆者の雑念を吹き飛ばす。客席では感嘆の声が漏れ聞こえた。

アンコールはブラームス「クラリネット・ソナタ第2番」変ホ長調の、作曲者によるヴァイオリン編曲で第1楽章と、シェーンベルク「小品」ニ短調。ブラームスはこの日もっとも伸びやかな演奏、そしてシューベルトふうに響くシェーンベルクの習作で粋に締めた。

世界中のものが集う街で、思いがけない組み合わせに出会い、新しい感覚を得る。その振り幅を心地よく感じつつ、文化資本あふれるこの王国の特権性にも思いを馳せ、音楽がはたせる社会的責任を考える。

フィルハーモニア管団員による現代音楽シリーズ「Music of Today」

ガブリエラ・オルティス
「Music of Today」で作品が演奏されたガブリエラ・オルティス

ヘゲモニー(覇権)ではなく、帝国主義への抵抗としてのクラシック音楽を聴いた。入場無料とはいえ、本編の開演90分前にしては客入りがよく、市民の関心の高さがうかがえる。

フィルハーモニア管弦楽団はプレ・コンサートとして「Music of Today」と題した現代音楽のシリーズを展開しており、団員が若手作曲家の新作や話題の音楽家が構成するプログラムを演奏する。

3月12日の公演では、今期の同団「注目の作曲家」ガブリエラ・オルティスが自作をふくむメキシコ系作曲家の4作品を選んだ(ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)。なおこの日の演奏会本編では、オルティス「チェロ協奏曲」のロンドン初演が行われた(『音楽の友』2026年5月号でレポート)

テーマは二面性。ディアナ・シルセ・バルデス「バスクラリネット五重奏《エロスの弁証法》(La Dialéctica de los Erotes)」はギリシャ・ローマ両神話の愛にまつわる神々を描く。続くクラリネット五重奏はエベルト・バスケス《彼らは薄明かりの中にいる》(Son Crepuscular)、夕暮れをモティーフに明暗や生死のあわいを表現する。

フランシスコ・コルテス=アルバレスによる《Transcending walls》は管弦打八重奏で、メキシコと米国との国境の壁にある3つのアート(『逆さの星条旗』、フランス人アーティストJRによる『Kikito』、エンリケ・チウの『きょうだい愛の壁画』)を各楽章の主題に据える。最後にオルティスが書いた《Corpórea(肉体的な)。スピリチュアルの対義語にあたる表題通り、身体と精神の二面性を探る。総勢10名で奏でるこの曲は、スペイン内戦や第二次世界大戦の亡命者を救ったメキシコの外交官ヒルベルト・ボスケス・サルディバルに捧げられている。

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

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