——今回のショパン国際ピリオド楽器コンクールも話題となり、今後の開催ではさらに多くの方に注目されると思います。視聴するにあたって知っておいたほうがいいことはありますか?
川口 まずはモダンピアノとはまったく違う鍵盤の手触りの楽器で演奏している、ということに注目していただきたいです。そして楽器ごとに音色、音量が違います。それぞれが異なる個性を持っているので、演奏する際の楽器選択は絵を描くときの筆選びのようなものです。演奏をご覧になる際は、ぜひ各アーティストのセンスを感じながら、なぜこの楽器でこの曲を弾こうと思ったのか、といったことを想像しながら聴いていただくと楽しいと思います。
青柳 ピリオド楽器は視覚的にも個性豊かですよね。譜面台にもデザインが凝らされていたり、ロゴも飾り文字で書かれていたり……とても美しいです。ライブ配信だと見えないところかもしれませんが、ペダルの数が多いものもありますし、楽器自体をよく見ていただくのも面白いかもしれません。また、楽器の機構が繊細なので、モダンピアノを弾くときのように豪快に腕を振り上げて弾いたりはできません。演奏者の奏法や腕の使い方の違いなどもよく見ていただくと発見があるでしょう。
——今回のコンクールでも素晴らしい奏者がたくさん出場されていました。コンクールの楽しみ方の一つに“推し”を見つけて応援する…というのもあると思うのですが、お二人の心に残ったコンテスタントについて教えていただけますか?
川口 まずは、オーストリアのマルティン・ヌーバウアーさんですね。2016年のブルージュ国際古楽コンクールでご一緒だったのですが(筆者註:川口さんが1位なしの第2位、ヌーバウアーさんは第3位入賞)、7年ぶりに演奏を聴いてものすごく成長されていて衝撃を受けました。実際、今回のコンクールで第1次、第2次審査では審査員から満点をつけられていて、文句のつけようのない演奏をされていました。ファイナルはライブ配信でお聴きした限りではショパンの繊細さに共感した素晴らしい演奏をされていたと思うのですが……入賞されなかったのがとても残念でしたね。
マルティン・ヌーバウアーの第2次審査の演奏
川口 もう一人は同じくブルージュで一緒だったヴィアチェスラフ・シェレポフさん(2016年のコンクールで川口さんと同位入賞)です。非常に個性的な演奏をされる方で、今回の第1次審査でも驚くようなものを聴かせていただきました。あの意志の強さはこれからさらに魅力的な音楽を作り出してくれると思います。彼のように新しいショパン像を生み出そうとしている奏者に出会えるのもコンクールならではの面白さだと思います。
青柳 ヌーバウアーさんが入賞しなかったのは本当に残念でしたね。本選でプレイエルを選択されたのですが、やはり楽器の特性上、音量がどうしてもオーケストラに埋もれてしまうので……。本選はオーケストラとのアンサンブル、かつ会場もフィルハーモニーと大きいので、いろいろと難しいところでしたが、とくに第1次予選では、弱音の美しさを駆使する演奏が印象に残っています。第2次予選には進めませんでしたが、東海林茉奈さんや飯島聡史さんなどの音色はとても魅力的でした。
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コンクールは、入賞者はもちろんだが、素晴らしい才能をもった奏者たちがそれぞれ培ってきたものや魅力的な個性を最大限に発揮する場である。ぜひこれからコンクールをご覧になる方は、それぞれの感性に響く奏者を見つけて応援してほしい。
1989 年に岩手県盛岡市で生まれ、横浜で育つ。第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位、ブルージュ国際古楽コンクール最高位。フィレンツェ五月音楽祭や「ショパン...
安川加壽子、ピエール・バルビゼの各氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業、東京藝術大学大学院博士課程修了。武満徹・矢代秋雄・八村義夫作品を集めた『残酷なやさし...
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...