——音楽をソンドハイムが手がけたことも話題です。彼の難解な楽曲を歌うのは、望海さんでも難しいとのことですが……。

望海 最初は音を的確につかむことが難しかったですね。想像を超えたところから音がきたりするので大変でした!そして、曲自体にドラマがありますが、曲だけでドラマが完成するのではなく、言葉の中に込められたメッセージを伝えるための曲だと思います。歌を歌うという感覚では挑めない、お芝居の延長のような曲です。

——お稽古を重ねられて、現在はいかがですか?

望海 慣れてくると、意外に音楽が体に染み込むようになりました。音楽が気持ちを引きだしてくれるようになったんです。(演出家の)熊林さんからは、「音をちゃんと歌うというより楽譜が見えないように。完成形では、セリフを言うように歌うことを目指したい」と言われています。

——とくにお好きな楽曲はありますか?

 望海 最後に歌う「LAST MIDNIGHT(ラスト・ミッドナイト)」です。魔女が本当に思っていたことを明かす、集大成のような曲です。

自分を出し切って挑む魔女役

——熊林さんの演出で、何か新たな気づきはありましたか?

 望海 新鮮な気づきの連続です! まず最初に「魔女っぽくしないでください。自分をさらけだすことが、一番やってほしいこと」とおっしゃられて。退団後のコンサートでは、男役から女性っぽくなっていくことを意識していたのですが、この舞台では男女関係なく、自分をさらけださないと挑めないと感じています。

——お稽古はいかがですか。

 望海 宝塚では“様式美”が大切で、場面をいかに絵として美しく見せるかということに気を付けていました。今回、見え方は熊林さんが考えてくださるので、役者たちはいかに自分を出し切るかです。稽古場はお芝居好きな方ばかりで、みなさんがそのとき生まれたことを惜しみなく出されるので、毎日刺激をもらっています。

——舞台への抱負を一言お願いします。

 望海 いまは稽古中ですが、やればやるほどイメージが広がってきます。最後にそれがまとまったときに、さらに大きな力になるんじゃないかなと思うんです。みんなで大切に作っていますので、ぜひ劇場におこしください。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を聴くと頭がすっきりする!

——私生活ではどんな音楽を聴かれますか? お気に入りのアーティストがいれば、教えてください。

 望海 普段は海外の方の曲をよく聴いています。好きなアーティストはアデル。声がかっこいいなと思います。

 望海 ベートーヴェンも、すごく聴くようになりました。宝塚の退団公演『fff—フォルティッシッシモ—』で彼を演じたことがきっかけです。最初は交響曲やピアノ協奏曲を聴いていたのですが、最近は弦楽四重奏曲を聴いています。

『fff—フォルティッシッシモ—』舞台映像より

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番〜第16番

——どんなときに弦楽四重奏曲を聴かれるんですか?

 望海 私は音が家に流れていないのが嫌なので、何かをかけたいけれどテレビだと情報が多すぎると感じたときに、聴くことが多いです。朝も、この曲をかけながら作業をすると、頭がすっきりするんですよ! 退団公演をするまでは、ベートーヴェンの曲はもっと複雑なのかなと思っていたので、今は出会えて本当によかったなと思っています。

——宝塚時代は、圧倒的な歌唱力と芝居力で、数々の名舞台を残されました。宝塚時代の曲で、とくに思い出の曲はありますか?

 望海 たくさんあってなかなか選べないのですが……『壬生義士伝』という舞台で歌った、「石を割って咲く桜」は好きです。私は(物語の舞台になった)岩手県民ではないのですが、あの曲を聴くと、自分の故郷に帰ってきたような情景が目に浮かぶんですよ。すごく澄んだ空気と山々が見えて、川があって、空気の匂いを感じるような曲だなと思います。初めて聴いたときから、すごく気に入っていました。

『壬生義士伝』制作発表会パフォーマンスより

——クラシック音楽ではいかがでしょうか?

望海 やっぱりベートーヴェンですね。私、ベートーヴェンの曲は、退団公演だけでなく、宝塚の公演で、結構ご縁があるんです。

(トップスターになった)お披露目のときにも「交響曲第九番 希望のうた」を歌いました。デュエットダンスでも使っていて。考えてみると初舞台でもベートーヴェンの曲があったんですよ(笑)。

音楽がない人生は考えられない

——いま、歌ううえで大切にされていることはありますか?

望海 最近、気をつけたいと思っているのは、きれいに歌わないこと。男役時代もそうだったのですが、ちゃんと歌おうと思うと、音楽ばかりが先走ってしまうんです。役として歌う場合はその役の言葉として、音楽を利用しながら表現しなければと思います。

——最後に、望海さんにとって音楽はどんな存在でしょうか?

望海 音楽は自分自身を豊かにしてくれる存在です。なくてはならないというか。聴くのもそうですし、歌うのもそうです。寂しいときも楽しいときも、絶対に私に寄り添ってくれるもの。自分の人生に音楽がないことは考えられません。

撮影:吉原朱美
公演情報
舞台『INTO THE WOODS』

【東京公演】
日時:
 2022年1月11日(火)~1月31日(月)
会場: 日生劇場
※11、12日はプレビュー公演

【大阪公演】
日時: 2022年2月6日(日)~2月13日(日)
会場: 梅田芸術劇場メインホール 

出演: (物語50音順)
<赤ずきん>
赤ずきん 羽野晶紀
<シンデレラ>
シンデレラ 古川琴音、継母 毬谷友子、継姉フロリンダ 湖月わたる、継姉ルシンダ 朝海ひかる、王子 廣瀬友祐、執事 花王おさむ
<ジャックと豆の木>
ジャック 福士誠治、母親 あめくみちこ
<塔の上のラプンツェル>
ラプンツェル 鈴木玲奈、王子 渡辺大輔
<ナレーター/謎の男>
福井貴一
<パン屋>
夫 渡辺大知、妻 瀧内公美
<魔女>
望海風斗
<巨人>
麻実れい *声の出演
ほか

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NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...