——たくさんの人気キャラクターが歌い踊る舞台で、剣心の最大の敵・志々雄真実(ししお・まこと)を愛する駒形由美を演じますが、彼女の魅力は?

伶美 艶っぽくて一途な女性だなと。つらい過去を乗り越える過程で志々雄と出会い、彼のためなら死んでもいいという強い覚悟がある。宝塚時代にも芯の強い女性は演じましたが、由美のように“誰かのために生きる”という役は初めてで、そこが新鮮ですし、挑戦だと感じます。

——退団後、初のミュージカルのお稽古場はいかがですか?

伶美 宝塚と一番違うのは、やっぱりリアルな男性がいることですね(笑)。本読みでも広い稽古場に男性の声が響いて、一人ひとりのキャラクターの個性を強く感じて、すごいところに来たなと思いました。私も自分にしか出せない声の質や個性で、役作りできたらと思います。

——由美が愛する志々雄役の黒羽麻璃央さんとはいかがですか?

伶美 黒羽さんにはオーラを感じます。声の表現が素晴らしいので、稽古でもキャラクターの気持ちがガンと伝わってくるんです。原作に、“由美は誰よりも志々雄を理解し、志々雄は誰よりも由美を理解している”、というようなセリフがあって、二人の関係性はそれがすべてだなと感じます。

志々雄への寄り添い方や視線の使い方など、セリフのないところでも想いを表現できればなと思っています。

——客席を360度取り囲む巨大なステージに立つ伶美さんが楽しみです。

伶美 個性豊かなキャラクターがどんどん出てきて、舞台にザッと勢ぞろいするシーンを想像して、今からワクワクしています。ショーシーンもあって、私も登場するときに少し歌うんですよ。由美というキャラクターを歌と共に表現したいと思いますので、楽しみにしてください

音楽のエネルギーとパワーを浴びて「人に明日への活力を与える仕事をしたい」という気持ちに

——普段はどんな音楽がお好きなんでしょうか?

伶美 小さい頃、家にCDがたくさんあったので、クラシック音楽はよく聴いていました。バレエを習うようになったのも、そんな環境がきっかけです。今も時間があって落ち着きたいなというときには、クラシックを流すこともあります。

伶美 宝塚でも貴族が出てくるシーンやダンスの場面などに、よくクラシック音楽は使われていたんです。チャイコフスキーの「花のワルツ」が好きで、舞台でも踊りました。最近はフジコヘミングさんの「トロイメライ」をYouTubeで発見したので、繰り返し聴いていますね。宝塚でクララ・シューマンを演じたときは、ブラームスやシューマン、リストの曲をよく聴きました。

チャイコフスキー:バレエ『くるみ割り人形』より「花のワルツ」

フジコヘミングによる「トロイメライ」

——伶美さんの舞台『翼ある人々―ブラームスとクララ・シューマン』は、1幕が終わったあと、しばらく席から立てないほどの衝撃を受けました。上田久美子さん作・演出の物語の素晴らしさと、伶美さんの美しさと演技が評判になった作品です。曲の感想を教えてください。

伶美 それまでもシューマンやブラームスは聴いていたのですが、改めて聴くと、作曲家の個性が楽曲に現れているのが面白かったです。特にシューマンの曲にはグッときました。歌詞ではなく、音自体が持つメッセージがこんなに心に響くものなんだと……。クラシックは音楽の根本であり、原点だと改めて感じました。

特に「暁の歌」は、クララを演じてこの曲を作ったときのシューマンの状況をわかっていたので、余計に思い入れがあります。ほかにもブラームスの交響曲第3番第3楽章も好きです。

ブラームス:交響曲第3番第3楽章

——宝塚時代の曲で、ほかに心に残った曲はありますか?

伶美 先日、星組の『王家に捧ぐ歌』を配信で観たんです。楽曲のメッセージ性と作品のテーマに、なんてすごいんだろうと感動しました。

『王家に捧ぐ歌』過去の公演より

——『王家に捧ぐ歌』はヴェルディの《アイーダ》を宝塚歌劇団で脚色したミュージカルで、これまで違うキャストで3度上演されました。伶美さんは2度目の上演時に、エジプトの女王アムネリス役で出演していますね。

伶美 演じているときは歌うことで必死でしたけれど、世界で戦争が起こっている今の現状とこの物語のテーマが重なって、改めてこの作品のすごさを感じました。台詞の中にある「世界はこれからも戦争を繰り返すだろうけれどそれでも未来に向かって進んでいこう」というメッセージに、明るい光が見えるような希望を感じました。

当時は私もスモークが焚かれるなか、アムネリスの重厚な衣裳を着て、セリで上にあがって客席に向かって歌いました。衣裳が重いのは彼女の立場の重さでもあるんだと感じましたね。

——退団されて5年。今、伶美さんにとって音楽とは?

伶美 音楽はエネルギーです。それを一番感じたのは、宝塚受験のためのレッスンでうまくいかなくて悩んでいたとき。劇場に行ってショーを観たんですが、音楽のエネルギーとパワーを浴びて、「こんなことでくじけられない、明日も頑張らなきゃ!」と思いましたし、「人に明日への活力を与える仕事をしたい」という気持ちになれたんです。

今はこんなご時世だからこそ、余計に音楽の持つエネルギーやメッセージ性に救われる人は多いんじゃないかと思います。

——最後に、今回の舞台を見に来てくださる方に一言お願いします。

伶美 宝塚を退団して、久しぶりに大きな舞台に挑戦します。生き生きと役を演じられるように強い心を持って挑みますので、観に来ていただけたら嬉しいです。

公演情報
ミュージカル『るろうに剣心 京都編』

日時: 2022年5月17日(火)~6月24日(金)

会場: IHIステージアラウンド東京

原作: 『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』和月伸宏(集英社 ジャンプ コミックス刊)

脚本・演出: 小池修一郎(宝塚歌劇団)

出演: 小池徹平、黒羽麻璃央、松下優也、加藤清史郎、岐洲匠、奥野壮

井頭愛海、鈴木梨央、伶美うらら、山口馬木也、加藤和樹、ほか

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...