——『20年後のあなたに会いたくて』は、ミュージカルプロデュースカンパニー「TipTap」の上田一豪さんが演出するミュージカル。仙名さんは、2度目の出演ですね。
仙名 「TipTap」は、演出の上田さんをはじめ、みんなの仲が良くて、すごく居心地がいいカンパニーです。私が演じるのは余命宣告を受けた「妻」で、子どもが生まれたばかり。夫と3人でこれからというときに、宣告を受けます。自分ならどうするだろうと考えていますが、最後まで悩む気がしますね。ただ、本人はイラストレーターの仕事をしていて、たくさんの人に助けられながら前向きに生きようとします。
——妻に生きる希望を与えたくて未来から夫がやってくるというタイムワープ的な展開も楽しみです。
仙名 旦那さんは、妻との約束や家族の夢を叶えようと精一杯尽力してくれます。妻の病気を常にポジティブに考えてくれます。そんな旦那さんの気持ちに救われながら、家族で生きていこうと思える「妻」は、幸せな役だなと。人にとって一番の幸せは心を許せる人と長く生きていくことでは、と改めて感じますね。
——舞台では、仙名さんののびやかで美しい歌声も堪能できますね。書き下ろしの楽曲が14曲もあるとか。
仙名 私は小澤時史さんの曲が大好きなんですよ。今回、冒頭から歌いますが、芝居は音楽に助けられるところがたくさんありますし、役の心情に寄り添ってくれる曲ばかりです。登場人物それぞれに素敵な曲があると思います。
——クリスマスシーズンにふさわしい、心が温まる舞台になりそうですね。
仙名 見ていただく方それぞれが、大切な人を思い浮かべられるような作品だと思います。生きることはあたり前ではなく、それだけで奇跡的ですごく幸せなことなんだと感じていただけたら嬉しいです。
——音楽を好きになったきっかけを教えてください。
仙名 小さい頃から『ちびまるこちゃん』のエンディングテーマを歌ったり踊ったりしていたそうです(笑)。家族も歌が好きで、ドライブではよく井上陽水さんや松任谷由実さんのCDが流れていました。成長してからは、ドラマの主題歌が好きになって。『ガラスの仮面』の「Calling」は、今も聴いているほど好きです。
B’z「Calling」
——普段はどんな音楽を聴くのですか?
仙名 やっぱり昔のドラマの曲ですね(笑)。『チャングムの誓い』や『冬のソナタ』のサントラをよく聴いています。どの曲もドラマを見たときの自分にタイムスリップできて、温かい気持ちになれて。携帯の目覚ましもチャングムなんです(笑)。
『冬のソナタ』サウンドトラック
仙名 葉加瀬太郎さんの「シシリアンセレナーデ」も。宝塚時代、「BEAUTIFUL GARDEN -百花繚乱-」というショーで明日海りおさんと共演した際に、この曲が好きだと教えてくれて、知りました。切なさと美しさのある曲で、車の中でこの曲ばかりリピートするほど好きな曲です。
葉加瀬太郎「シシリアンセレナーデ」
——宝塚時代は、歌も芝居もダンスも素敵なトップ娘役として活躍されていました。思い出の曲はありますか?
仙名 『ポーの一族』のフィナーレ・ナンバーで歌った「時の旅人」の三重唱は、大切な曲です。もともと人とハモるのが好きで、『太王四神記』という舞台の「何故」という三重唱を見たときから、自分も歌いたいと思っていました。三重唱は、心の深いところに沁みていくような感覚になれるんですよ。
『ポーの一族』制作発表会より
——クラシックでお好きな曲は?
仙名 平原綾香さんの『my Classics!』というCDですね。有名な「ジュピター」も収録されていて、おすすめは「ロミオとジュリエット」。
平原綾香『my Classics!』
仙名 オペラでは、プッチーニの《ラ・ボエーム》の「Quando me’n vò(私が街をあるけば)」は、宝塚音楽学校時代の十八番でした。
《ラ・ボエーム》より「Quando me’n vò(私が街をあるけば)」
——来年は、コロナ鍋で延期した『ミス・サイゴン』にエレン役で出演されますね。
仙名 『ミス・サイゴン』は、2008年に初めて見て感動した憧れの舞台でした。昼夜、当日券で見て、みんなに「そんなにハマる?」と言われたほど(笑)。決まったときは「頑張ってきてよかった!」と思いました。
ただ去年、3週間だけできた稽古は、宝塚を卒業して以来の衝撃でした。みなさんが命を削って歌っていると感じたんです。演出家の方にも、「サイゴンは極限状態の話だから、歌っているほうもそうじゃないとできない」と言われて。「これがこの人たちにとってはあたりまえのことなんだ」と知って、「なんということだ!」と思いました。これがミュージカルの世界なんだと。
『ミス・サイゴン』2022PV
——命を削って歌う……出演されている方々はそんな状況なのですね。
仙名 本当に、1曲歌うと頭が痛くなるんですよ。心の叫びのような歌を歌う時は、体を全部使ってあらゆるところを開かせないといけないので、ギリギリの状態です。
最初は知らないことばかりでつらかったのですけど、続けていくことで成長できると思いました。来年はリベンジです!(笑)
——エレンという役は、「MAYBE」という歌が有名です。
仙名 いい歌ですよね。エレンはアメリカ人の女性で、夫を愛しているからこそ別れなきゃいけないと思って歌うんです。心を引き裂かれながら決心をしていく夫への強い愛を表現できればと思っています。
『ミス・サイゴン』より「MAYBE」
——いま仙名さんにとって音楽とは?
仙名 音楽は大事な記憶を蘇らせてくれるものです。想い出そのものですし、自分の軌跡を一緒にたどってきたもの。お料理の香りで、懐かしい母の手料理を思い出す感覚と似ているかもしれません(笑)。
——最後に、今後の抱負を。
仙名 歌は続けたいですね。歌の中に散りばめられた言葉は、自分自身もそうですし、お客さまにとっても大切な記憶を蘇らせてくれると思うんです。歌うことで、みなさんに活力を与えられる人でありたいです。