読みもの
2022.12.26
1万円で始めるオーディオ道 #6

今CDを楽しむチャンス~配信で聴けなくても大丈夫。優秀プレーヤーで手軽に良い音を

好きな音楽を好きな音で、お金をかけずに楽しみたい――そんな贅沢な願いにオーディオ暦40年の筆者が応えます。実はたった1つのアイテムからでもスタートできるオーディオ道を、ゆっくり気ままに歩いてみませんか?

澤村 信
澤村 信

中高校生の時にオーディオブームの洗礼を受け、それが高じて2000年以前の国産オーディオを中心に取り上げるオーディオ雑誌『ステレオ時代』の編集長に。お金をあまり使わない...

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2022年はCDが誕生してからちょうど40年でした。今回は私なりのCDの楽しみ方をご紹介したいと思います。

「CD」はソニーフィリップス(オランダの電機メーカーです)が共同開発したものです。CDが誕生した頃はまだ、デジタル・オーディオといえば、音をデジタル信号に変換してビデオテープに記録するPCMレコーダーがあるだけでした。

このPCMレコーダーは、もともとNHK放送技術研究所でデジタル録音機の研究をしていた中島平太郎氏が、ソニーに移籍して完成させたものです。一方フィリップスは、同時期にレーザービジョン(日本ではレーザーディスクとして知られています)を開発したメーカー。

つまりCDは、この2社がそれぞれ得意分野の先端技術を持ち寄って完成させたものだったのです。もっとも両者とも世界有数のメーカーですから、お互いのプライドをぶつけあう開発になりました。完成までのストーリーは紆余曲折、双方の技術者による壮絶なドラマがあってとても面白いのですが、それはまた機会があればご紹介するとして、ここでは生誕40年を迎えたコンパクトディスク、CDの今どきの楽しみ方と魅力を、ハードとメディアの両面で考えてみましょう。

CDは過去のメディア?

まずはCDというメディアそのものについて考えてみましょう。

以前、レンタルビデオチェーンのゲオがCDの買い取りを止めるということがニュースになりました。このニュースを聞いたオーディオ・ファンは、「いよいよCDもオワコンだな」などとSNSなどで発信していましたが、本当にそうでしょうか。

確かに進化の早いデジタル技術の世界では、40年も前にできたメディアであるCDのスペックは時代遅れといえなくもありません。ですが、そんなデジタル系のメディアや規格で、こんなにじっくりと、しかも世界中のメーカーが腕によりをかけて熟成させていったメディアは他にありません。

ハイレゾというものを知ってしまった今でも、CDをちゃんとしたプレーヤーで聴くと、うっとりするほど美しい音楽を奏でてくれます。そんなCDを個人的に見直すできごとが最近ありました。

配信ですべてのアーティストが聴けるとは限らない

正直に白状してしまうと、私自身の音楽の楽しみ方も、今では7、8割は配信です。Apple MusicやAmazon Musicは本当に便利。スマホがあればどこでも好きな音楽が聴けるのですから。最近では、ラジオを聞いていて気になった曲を配信で、そのアーティストを掘り下げて聴く、というのが標準のスタイルになってしまいました。

ある日、とても好みの曲がラジオでかかりました。「婦人倶楽部」というアーティストでしたが、いつものように配信で探してみると見つかりません。Googleで検索してみると、インディーズ・レーベルであることがわかりました。そう、どこでも配信されていないアーティストだったのです。マイナーなので中古でも出回っておらず、久しぶりにネットで探しまくってようやく在庫のあったショップで入手しました。

インディーズに限らず、ジャニーズ系アーティストなどは今でも配信をしていないので、CDなど物理メディアで聴くのが唯一の手段になっています。

ラジオで流れてきた「婦人倶楽部」は、かつてのシティポップを思い出させる爽やかで明るい音楽が特徴。全盛期のピチカート・ファイヴみたい。CDもなかなか売っていません。やっと2枚入手しました。

CDバーゲンで未知の音楽と出会う

この婦人倶楽部をきっかけにCDを見直したのですが、あらためて見回すと、今こそCDを楽しむチャンスなのではないか、という状況でした。

先のゲオの例を出すまでもなく、よく行くハードオフでは、CDはすでに棚にすら並べられておらず、プラスチックのコンテナにドサッと詰め込まれ、分類もされずに「ジャンク」として売られていました。

アルバムはすべて100円。8cmシングルにいたっては50円でした。思わず昔好きだったアーティストや、学生の頃レンタルCDで借りてカセットに落として楽しんでいたアルバムを、山ほど買ってしまいました。

こちらはCD。
こちらはCDシングル。なにしろシングルなど駄菓子みたいな値段ですから、知っている曲、気になった曲を手当り次第買っても1000円いくかいかないか。アルバムだって100円なら迷ったら買う。ただし未分類だったので、探すのは大変です。

おかげで私のCDライブラリは最近急に充実してきました。とはいえ、かつてCDの新譜を買うのが一大イベントだった学生時代を思うと、こんなないがしろな扱いを受けているのは、ちょっと悲しいですね。いずれレコードのように復権することがあるのでしょうか。

周りのオーディオ・ファンと話すこともあるのですが、意見は五分五分です。レコードはちゃんと聴くためにいくつもの手順が必要ですが、CDはとても手軽です。その分趣味性が薄い、と言えなくもありません。そのため復権は難しいのでは、という意見がある一方で、私自身はCDが見直される可能性は十分にあると思っています。その根拠が、これからお話しするプレーヤーの魅力です。

ウォークマンのCD版~ソニーのポータブル・プレーヤーD-50

CDはもともとソニーとフィリップスが作ったということもあって、ソニーのお膝元である日本では優れたCDプレーヤーが数多く誕生しました。

まずはポータブル・プレーヤー。手軽に使えるCDですが、誕生した当初のCDプレーヤーは大きくて重く、値段も15~20万円くらいが主流でした。

そんななかで、ソニーが作ったポータブルCDプレーヤーD-50は4万9800円と、頑張れば学生でも買える値段で登場。CDが普及するきっかけを作りました。その後D-50は「ディスクマン」というウォークマンのCD版のような位置づけで発展し、若者の必需品となっていきました。

CDの生みの親と言える中島平太郎氏も、以前お話をうかがった際に「ポータブルこそCDプレーヤーの理想形だった」と話されていました。ソニーはすでにポータブル・プレーヤーから撤退してしまいましたが、ポータブルCDプレーヤー自体は今でも量販店などで手に入りますね。

D-50と後期のディスクマン。CD普及の立役者、D-50は1984年の発売です。CDケースをいくつか重ねた程度の大きさは衝撃的でした。ただし電池ボックスは外付けでしたから、持ち出して使うときはもう少し大きくなります。手前は最後期のCDウォークマン(1997年からディスクマンではなくCDウォークマンと名前が変わりました)D-NE241。2012年頃のもので軽くて、しかも意外と壊れません。

また、前回もこの連載で活躍しましたが、CDラジカセのようなスタイルも楽しいですね。CDが十分普及したあとは、CDラジオ(カセットなし)やアンプとスピーカーを内蔵したポータブル機も登場。中にはデザイン・コンシャスなモデルもあって、置いてあるだけでインテリアがおしゃれになるものもあります。ルックス優先で探してみるのもよいですね。

これはビクターのQP-3というCDラジオ。コロンとしたスタイルと前面はスピーカーだけという思い切ったデザイン。1992年に発売され、この年のグッドデザイン賞を受賞しています。カセットがない分、故障箇所が少ないのもありがたいです。

CDショップの試聴用プレーヤーも今なら手に入る

変わったところではナカミチMB-K300sというプレーヤーも「今なら」入手可能です。「今なら」と断ったのは、本来一般向けには販売されていなかったモデルで、CDショップの試聴用として作られたモデルだったのです。CDショップが減って放出されたのでしょう、ネットオークションなどで時々見かけます。

ナカミチといえばカセットデッキが有名ですが、カセットが下火になると、CDプレーヤーにも力を入れていました。とくに「ミュージックバンク」という、CDを何枚か入れておいて、ボタンひとつでCDをスイッチできるシステムは、高音質なCDチェンジャーとして人気でした。

このMB-K300sも3枚のCDが装填できて、ボタンひとつで演奏するCDを選べるチェンジャーです。また、このモデルは本来店内でヘッドホンで試聴するためのもので、スピーカーは内蔵されていません。

なお、本来はCDの盗難防止のため、蓋は鍵を横に差し込んで開け締めします。写真の個体はマグネット固定式に変更(改造)してありますが、鍵のままの個体も売っています。その場合は鍵が付属している個体を選ばないと、買ったけど使えない、ということになりかねません。ご注意を。

CDショップの試聴用として作られたプレーヤー、MB-K300s。HMVやタワーレコードなどで見かけた方もいらっしゃるのでは?  正面のディスクが見える窓の上に一回り小さい円形のくぼみがありますが、ここにショップのロゴが入ったプレートがはまっていました。
MB-K300sの内部。ヘッドホンは2つ接続できます。けっこう良い音がするんですよ。

音の良さにハマった本格的CDプレーヤー3選

そしてCDの醍醐味は、本格的なCDプレーヤーで味わいたいですね。私は、「ステレオ時代」という古いオーディオを中心に取り上げる雑誌を作っています。そこで、これまでいくつも中古のCDプレーヤーを買って取材してきました。

普段は取材が終わると読者プレゼントにしたり、オークションなどで売って次の機材を買う資金に充てたりするのですが、聴いてみたらあまりに音が良くて手放せなくなったプレーヤーも何台かあります。

中でもマランツCD-72a(1993年)、デノンDCD-1650AR(1997年)、ビクターXL-Z711(1988年)の3台は特に素晴らしい音で、しかも個性的。

CD-72aはとても自然な音で、この3台でもっともバランスが取れています。聴き疲れしないし、かける曲に得て不得手のないオールラウンダー。

DCD-1650ARは細かい音までピシッと出してくれて、力強さもたっぷり。本当に良い音だな、と感動します。聴いているといつのまにか背筋が伸びていて、聴き終わると力が抜ける感じです。

XL-Z711はこの中では一番古いプレーヤーですが、艷やかでキレイな音が鳴ります。最新のプレーヤーやDCD-1650ARに比べると、出し切れていない音もあるかもしれません。ですがそれを補って余りある美しい音で、アコースティック系の音楽は自然とこのプレーヤーを使ってしまいます。女性ボーカルもうっとりするような生々しさです(以上、個人的な感想です)。

このように三者三様のCDプレーヤーで、同じCDをかけてもけっこう特色のある音で鳴らしてくれるので、面白いです。このあたりはレコード愛好者が、レコードや気分によってカートリッジを取り替えるのに似ているかもしれません。

また、この3台は新品当時中級機(7~10万円)でしたので、今中古で買っても2~3万円くらいで手に入ります。レコードのカートリッジより安いかもしれません。

なにしろ日本はCDプレーヤー大国です。海外ブランドの高いCDプレーヤーを買わなくても、安くて優秀なプレーヤーがたくさんありました。おかげで中古のCDプレーヤーも豊富なのです。

上からCD-72a(1993年)、デノンDCD-1650AR(1997年)、ビクターXL-Z711(1988年)。据え置き型のCDプレーヤーを楽しむなら、プレーヤーのほかにアンプとスピーカーまたはアクティブ・スピーカーが必要です。場所は多少必要ですが、中古で揃えるなら5~6万で十分音の良いシステムが組めますよ。

日本はCDプレーヤー大国

オーディオに限った話ではないのですが、電化製品はどんどん高くなっているようです。もちろんその分機能もアップしているのですが、ことCDという40年前に登場したメディアの場合、少なくともここ10年くらいは目立った性能アップはないように感じます。SACDやハイレゾに対応している必要がないなら、中古のCDプレーヤーは悪くない選択肢だと思いますよ。

またポータブルから据え置きまで、さまざまなスタイルのプレーヤーが手軽に手に入る、というのも今の日本ならではだと思います。ただし中古のCDプレーヤーの場合、故障というネックがあります。多くのメーカーがサポートを終了したり、パーツが手に入らなかったりで、修理ができないことも多いのが実情です。そこは覚悟のうえ、割り切るというのがCDを安くて良い音で楽しむコツなのかもしれません。

澤村 信
澤村 信

中高校生の時にオーディオブームの洗礼を受け、それが高じて2000年以前の国産オーディオを中心に取り上げるオーディオ雑誌『ステレオ時代』の編集長に。お金をあまり使わない...

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