バレエ・ピアニストってどんな仕事?~音楽とダンスを結ぶ舞台裏のプロフェッショナル
昨今専門クラスを設ける音楽大学も増え、ようやくその存在が知られるようになってきた“バレエ・ピアニスト”という職業。しかし、バレエ公演に欠かせない重要な存在であるという点はまだ十分に理解されているとは言えません。そこで、新刊『バレエ伴奏者の歴史』を著した永井玉藻さんに、パリ・オペラ座バレエ団でバレエ・ピアニストを務めるミシェル・ディートランさんのお話も交えて、その役割や必要とされる技能についてご紹介いただきました。
皆さんは、「バレエ・ピアニスト」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。「ピアニスト」はすぐに分かっても、そこに「バレエ」がつくと、具体的なイメージを描きにくいかもしれません。実際、バレエ・ピアニストは、バレエに接する機会がないとなかなか馴染みのない存在でしょう。というのも、彼ら・彼女らの仕事は、一般的には稽古場で完結することがほとんどなので、公演にやってくる観客の目に触れることはめったにないからです。
しかし、バレエ・ピアニストの仕事は、日々の稽古、そして公演のための準備を円滑に進めるにあたり、とても重要な役割を担っています。また、バレエ教師やダンサーにとっては、音楽に関しての「教育者」という一面もある、と語る人も。では、バレエ・ピアニストの日々の仕事、そして役割や必要とされる技能とは、どのようなものなのでしょうか?
バレエ・ピアニストとオペラのコレペティトゥアはどこが違うのか
ごく簡潔にいうと、「バレエ・ピアニスト」とは、バレエに必要な稽古の際にピアノで音楽伴奏をする演奏者のことです。バレエ・ピアニストは、公演のリハーサルや個別のレッスンでオーケストラの代わりにピアノ伴奏をするほか、ダンサーの日常的なトレーニングであるクラス・レッスン(しばしば「クラス」と略されます)での伴奏も担当することが多いです。
こうした仕事は、オペラのコレペティトゥア(コレペティートル)とよく似ています。しかし、バレエ・ピアニストの仕事において極めて独特なのは、基礎練習であるクラス・レッスンの伴奏を即興で演奏することが多い、という点です。レッスン内容の大まかな流れはありますが、バレエのクラス・レッスンにおいては、その日のトレーニングの詳細はバレエ教師がその場でダンサーに指示し、ダンサーは音楽を聴きながら練習をします。
つまり、バレエ・ピアニストは、日々異なるトレーニングをその場で瞬時に把握し、動きに即した音楽を演奏しないといけないのです。そのため、バレエ・ピアニストには、即興演奏、楽曲のアレンジ、初見試奏などを得意とする人が比較的多いのが特徴です。
また、バレエ公演の準備段階では、振付の変更などによる曲のカットや追加、曲順の入れ替えなどが頻繁に起こります。本番の公演がオーケストラ演奏の場合、そうした変更をオーケストラ側が事前に把握できることもありますが、オーケストラは常にリハーサルにいるわけではありません。指揮者も、本番の1週間〜数日ほど前になってから、リハーサルにやってくるのが一般的です。
そこで頼りにされるのが、ごく初期から公演リハーサルに参加しているバレエ・ピアニストたち。音楽のこともバレエのことも知り尽くしているバレエ・ピアニストは、ダンサーの音楽性を伸ばし、円滑な公演準備を行なうのに欠かせない、舞台裏のプロフェッショナルなのです。
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