小さな楽器をひとつ買う ~サカキマンゴーさんが奏でるアフリカの親指ピアノと「ンゴマ」を慕って
音楽からイメージして楽譜の表紙絵を描くという、本間ちひろさんによる詩とエッセイ。アーティスティックな世界に往ったり、超現実の生活に戻って来たり……揺れ動く日常を綴ります。
第3回は、アフリカと鹿児島の音楽を奏でるサカキマンゴーさんのライブに行き、親指ピアノと呼ばれるリンバを手に入れた本間さんが、楽器と対話しています。
1978年、神奈川に生まれる。東京学芸大学大学院修了。2004年、『詩画集いいねこだった』(書肆楽々)で第37回日本児童文学者協会新人賞。作品には絵本『ねこくん こん...
歌
千の言葉を並べても 言いつくせない時
ひとは想いを託すのだ
一曲の演奏 一篇の詩
一皿の料理 一瞬のまなざしに
「どうやって、弾くんですか?」と尋ねたら、マンゴーさんは、ちょっと弾いてみせてくださった。鍵が弾く親指の爪の先がへこんでいる。
「左手で同じフレーズを繰り返して、右手で好きなように弾いてみると、ま~あ、らしく聴こえますよ」
6月、サカキマンゴーさんのライブに行った。マンゴーさんは音楽を踊る。喜びを、切なさを、冗談を、体中で踊る。演奏というより、踊る。「ンゴマ」とはこのことだろうか。
リンバをはじめアフリカの伝統楽器と、薩摩のゴッタンを弾き、エレクトリックな機材を足で操り、アフリカと薩摩の言葉で歌う。ライブは、それはもう、ものすごいのだが、楽しむということなら、近づける気がして、会場で私は小さなリンバを買ってみた。
家に帰って弾いてみると、音はよく響くのに私は私の音を好きじゃない。なぜだ。
マンゴーさんのFacebookを見ると、夏の間、全国を車で巡るライブツアーの所々で、カヌーで川を下ったり、テントで野宿をしている。
*
そうだ、野にでよう。そこで、長野の友人の田んぼを手伝わせてもらうことにした。
長靴を履き、田んぼで草を引いていると、夕立がくる。
雷から逃げて軽トラで縮こまっていると雨はやみ……。
また田んぼで作業、また夕立。
いつしか風の変化や鳥の声に、夕立の気配がわかるようになった。
数日の農作業でクタクタ。東京に戻って、リンバを鳴らすと。愛おしい音になった。
夏の田んぼで
風が匂う 鳥が羽ばたく 「夕立が来るよ」
車の屋根を 雨粒が叩く 稲妻が光る
雷雲はやがて去り 太陽が顔を出す
私は外に出て歌う 大地を 空を
*
7月末、書店のイベントで詩を朗読することになり、たどたどしくもリンバも鳴らした。数人のお客さまから「美しい音ですね」と。ポロンポロン!
ほめられて調子に乗り、今はマンゴーさんの本でリズム練習を始めた。
リンバは木の箱に、自転車のスポークや傘の骨を叩いて作った鍵が並び、鍵の上のほうに缶を小さく切った筒がついている。弾くと、鍵がポロ~ンと響く向こうで、筒が小さく「ジー」という。その微かなジージー音に私は蝉を想う。
今日も窓をあけて、ポロンポロン。蝉の声に合わせれば、夏の小さな大合奏だ。
アフリカ各地の伝統楽器や音楽をめぐるフィールドワーク、師事した演奏家のことなど、紹介されています。
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