ハリー・ポッターのワンシーンから冒険! イギリス音楽の「ファンタジーの世界」へ
小説、映画、舞台、そしてテーマパークのアトラクションとして世界中の人々を魅了するハリー・ポッター。そのファンタジーの背景は、イギリス特有のものです。イギリスを訪れたことがない人でも、ハリー・ポッターの世界に足を踏み入れることで、自然とイギリスの文化に触れることができます。そこで今回は、ハリー・ポッターと共通するイギリス音楽の「ファンタジーの世界」へ、旅してみましょう。
ロンドン在住。近年は演奏、作曲、執筆、レクチャーなど、多方面で活躍中。12歳でチューリヒ室内管弦楽団と共演してデビュー。以来、世界各地で演奏。英国王立音楽院の音楽学士...
ハリー・ポッター・ファンの方は、アメリカの作曲家、ジョン・ウィリアムズによるあの有名なメロディを思い浮かべているかもしれません。しかし今回冒険するのは、映画音楽ではなく、イギリスの音楽です。
ハリー・ポッターはファンタジーの世界でありながらも、そこにはイギリスの典型的な表現や考え方が描かれ、実際に存在する文化や風土が物語に織り交ぜられています。イギリスでは昔から神秘的なアイデアが伝承され、人々は伝説の物語に囲まれて成長しました。
このような環境が、イギリス人の考え方に大きな影響を与えています。同様に、音楽の世界でも作曲家たちは伝説のテーマからインスピレーションを受け、音楽で表現しました。
ホグワーツ魔法魔術学校の大広間で校歌が歌われるシーン~「みんなで歌う」イギリスの文化
ハリー・ポッターのシリーズで頻繁に登場するのが、ホグワーツ魔法魔術学校の大広間。ここで生徒たちは毎日食事をし、特別な行事を行ないます。
映画は、オクスフォード大学のクライスト・チャーチの大広間で撮影されました。“The Great Hall”と呼ばれるこちらのホールは、今でもオクスフォードの学生たちの食堂となっています。
小説シリーズの第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』には、学期始めの祝宴にて、こちらの大広間で“Hoggy Warty Hogwarts”というちょっとおかしな校歌が歌われる場面があります。
この歌は、どうやら曲調、テンポや演奏時間も決まりがないようで、アルバス・ダンブルドア教授は生徒たちに「自分の好きなメロディを選んで歌いなさい」と指示し、杖で空中に歌詞を書き始めます。そのため、全員が異なる時間に歌い終えることになり、ウィーズリー兄弟は「ゆっくりとした葬送行進曲」を選んでしまったがために、いちばん最後に歌い終わります。いかにもイギリスらしい皮肉なジョークですね。
実際に、キリスト教国であるイギリスの学校では、毎朝全校生徒と教員が大広間に集まり、賛美歌を歌い、祈りを捧げるという習慣があります。ハリー・ポッターには宗教的要素は含まれていませんが、「みんなが参加して歌う」ことは重要な文化であり、音楽にもその要素が組み込まれています。
例えば、日本でもよく知られるエルガーの《威風堂々》。この行進曲のメロディを使用した《希望と栄光の国》という歌は、イギリスの第2の国歌のように愛されていますが、1901年の初演当初は《威風堂々》には歌はなく、管弦楽曲として演奏されていました。
その後、この曲を聴いたエドワード7世が、そのメロディを歌にすることを提案し、エルガーはアーサー・クリストファー・ベンソンの歌詞を加えて、《希望と栄光の国》として1902年のエドワード7世の戴冠式のために編曲したのです。
以来、ロンドンで毎年夏に開催される世界最大級のクラシック音楽祭、BBC Promsの「ラスト・ナイト」では、観客も参加して歌う習慣があります。5,000人が一斉に合唱する光景は、まさにイギリスを象徴するものです。
BBC Promsの「ラスト・ナイト」では、《希望と栄光の国》を観客も参加してみんなで歌う。まさにイギリスを象徴する風景( 2:04 より)
このように、イギリス音楽の多くの作品が讃美歌のような美しい旋律を持ちます。エルガーのメロディを聴いて、国王が歌いたいと熱心に懇願したのも納得できますね。
2022年のエリザベス女王の国葬や、2023年のチャールズ国王の戴冠式でも、参列者が揃って賛美歌を歌う場面が多々ありました。王室とイギリス音楽は長い歴史の中で親密なつながりを持ち、歌は国民の心を繋げる重要な役割を担ってきたのです。
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