読みもの
2023.03.18
音楽ホール 最新事情2023~フェニーチェ堺

フェニーチェ堺~音響も空間も美しいホールで子どもから大人までクラシック・ファンに

「不死鳥」の名を持つフェニーチェ堺は、オープン5年目にして今や大阪府南部を代表するホール。聴衆や演奏家とともに育っていこうという雰囲気の中で、ステップ・バイ・ステップでクラシック音楽に親しんでいくことができます。企画制作と広報・営業担当のお二人に、2023年度のラインナップを中心にお話を伺いました。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

フェニーチェ堺のホール内観 ©石川拓也

この記事をシェアする
Twiter
Facebook
続きを読む

「フェニーチェ堺」(堺市民芸術文化ホール)は2019年10月にオープンし、これまでにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団やロンドン交響楽団が来演するなど、今や大阪府南部を代表するホールとなっている。

「フェニーチェ堺」の名称は、南蛮貿易の時代から「東洋のヴェニス」と呼ばれるほど自由自治都市として栄え、その後、幾度の戦火から不死鳥のように蘇った堺にちなみ、イタリア語で「不死鳥」を意味する「フェニーチェ」から採られた。

5シーズン目となるフェニーチェ堺の2023年度について、企画制作担当課長の柴坂哲也さんと広報・営業担当主幹の福尾葉子さんにきいた。

お話を伺った企画制作担当課長の柴坂哲也さんと広報・営業担当主幹の福尾葉子さん(撮影:飯島隆)

小さいうちからクラシックに触れてほしい~子どものためのオペラやバレエ、反田恭平との協働も

柴坂「大阪は民間のホールが多く、鑑賞ができる場はたくさんあります。我々は公共のホールですので、鑑賞以外のことにも積極的に取り組んでいきたいと思っています。たとえば、子どもたちへのクラシック、オペラ、バレエの普及、人材の育成などです」

国際的に注目される演出家、菅尾友がザルツブルク音楽祭のために制作した60分版《魔笛》である「子どものためのオペラ《まほうのふえ》~パミーナ姫のたんじょうび~」の再演も、子どもたちへの普及、若い人材の育成を考えてのものである。

柴坂 「ホールのオープニングで上演した、『子どものためのオペラ《まほうのふえ》』を再演します。菅尾友さんがモーツァルトの《魔笛》をコンパクトにまとめたものです。サブタイトルに『パミーナ姫のたんじょうび』とあるように、菅尾さんが書き直した台本で、日本語上演します。前回は小ホールで小さな編成のオーケストラでの上演でしたが、今回は大ホールで地域のプロ・オーケストラの大阪交響楽団が演奏します。菅尾さんは、いちばん見てほしいのは小学生で、大人でも楽しめるようになっているとおっしゃっています。

今回はオーディションで若い歌い手を集めました。育成を一つのテーマにしようという演出家からのお話に共感したものです。我々自身が若いホールなので、自分たちも育っていけるようなオペラの制作になればいいなと思っています」

福尾 「オープニングのときは、子どもたちがパパゲーノと一緒になって声を出し、夢中になって参加していたことが印象に残っています。大人の方もオペラをこんな風に声を出して笑って見てもいいんだという感想を持ってくださいました。今回、大ホールに移しても親しみやすいオペラになると思います」

 

『子どものためのオペラ《まほうのふえ》』の舞台

柴坂さんは、「子どもたちのための事業をできるだけ多く作っていきたい」と言う。

柴坂 「市民団体の堺シティオペラとは、『小ホールで愉しむオペラ』という事業を2022年度から共同で実施しています。昨年11月に《あまんじゃくとうりこひめ》をコンパクトにして上演しました。今年もわかりやすく、観やすい短編オペラができたらいいなと思います。また、『子どものためのバレエ』として東京バレエ団と一緒に《ドン・キホーテの夢》を上演します」

反田恭平は、ジャパン・ナショナル・オーケストラの演奏会をフェニーチェ堺で開くだけでなく、子ども向けの教育プログラムができないか模索中である。

柴坂 「反田さんとは、ホールが開館する前の音響測定イヴェントなどから演奏していただき、ホールとしては深い縁を感じています」

反田恭平は、ジャパン・ナショナル・オーケストラの演奏会を開く ©Kenryou Gu

大阪交響楽団のメンバーに親しみ、名曲を聴くシリーズ

また、クラシック音楽の普及に、堺を本拠地としている大阪交響楽団との協力も進めている。

柴坂 「大阪交響楽団の小編成のアンサンブルに、ホールだけでなく、スタジオ、ホワイエ、レストランなど館内のいろいろな場所で演奏していただいて、オーケストラとホールの両方を市民に認知していただく企画として、『音楽のあるひととき』という60分1,000円のコンサートを1年に4回開いています。大阪交響楽団の個人を前に出して、メンバーを紹介して、まずはファンを作ろうと思っています」

福尾 「そして次のステップとして大阪交響楽団『フェニーチェ堺名曲シリーズ』を今年から大ホールで始めます。山下一史さんの指揮で《幻想交響曲》、南紫音さんの独奏でサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を予定しています」

川口成彦のユニークなリサイタル・シリーズ

オリジナル企画には、フォルテピアノの川口成彦のリサイタル・シリーズもある。

柴坂 川口成彦さんには、2020年から3年連続で、小ホールでリサイタルを開いていただいて、今年は3回のリサイタルのほか、18世紀オーケストラとの共演もあり、堺の古楽ファンにとって素晴らしい機会になると思います。

今年の3回のリサイタルは、『J.S.バッハと息子たちの饗宴』、『カラフルな変奏曲の世界』、そして『歌曲で辿るショパンへの旅路』というプログラムが予定されています。もちろん、ピリオド楽器(フォルテピアノ)での演奏ですが、堺のピアノ修復家であり収集家の山本宣夫さんのヤマモトコレクションの楽器も弾いていただきます」

福尾  「川口さんは、これまでのコンサートでも300席の小ホールで、お話を交えながら19世紀のサロンのような、耳を澄ませて聴く空間を再現してくださいました」

フォルテピアノの川口成彦は、2020年から3年連続で小ホールでリサイタルを開いている

毎年違う海外オーケストラが来演、聴き比べも楽しい

今年の海外オーケストラとしては、ラハフ・シャニ&イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団が来演する。

柴坂 「以前の堺市民会館からフェニーチェ堺に建て替わり、座席数や舞台の大きさ、音響などもスケールアップし、それまで聴けなかった海外のオーケストラを呼ぶようになりました。今年は、イスラエル・フィルが来ます」

福尾 「昨年は、ロンドン交響楽団とNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団のコンサートがあり、聴きに来てくださったお客さまの多くが、その音の違いを発見したという感想をアンケートに書いておられました。今年も、イスラエル・フィルからはどんな音が聞こえたのか、またお客様の感想をうかがうのが楽しみです」

柴坂 18世紀オーケストラでは、川口さんのほかに、トマシュ・リッテル(第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者)にも来ていただきます」

昨年来演したロンドン交響楽団。海外から毎年違うオーケストラが来演するので聴き比べが楽しめる©S.YAMAMOTO

音響も空間も美しいホール

最後にフェニーチェ堺についてPRをしていただいた。

柴坂 「新国立劇場を手掛けられた柳澤孝彦さんの事務所に設計していただいたので、よく似ているといろいろな方が言われます。側壁、天井も音響的に計算されていまして、ホール全体がダークウッドの色で椅子の生地に赤を使っていて、落ち着いた空間にパッと目を引くような赤なので、来ていただいたアーティストさんには音響も含めてきれいなホールだと褒めていただいています。ぜひお越しください」

福尾 「兵庫、京都、滋賀、奈良からもお客さまに来ていただいています。お越しになったことのない方にとって堺は遠いイメージをお持ちかもしれませんが、難波から15分ぐらいで近いです。ぜひ一度、足をお運びください」

フェニーチェ堺は大阪だけでなく、兵庫、京都、滋賀、奈良からも多くの人が訪れる©石川拓也
フェニーチェ堺

[運営](公財)堺市文化振興財団

[座席数]大ホール2000席、小ホール312席

[オープン]2019年

[住所]〒590-0061  堺市堺区翁橋町2-1-1

[問い合わせ]Tel.072-223-1000

https://www.fenice-sacay.jp/

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ