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2023.03.18
音楽ホール 最新事情2023~東京文化会館

東京文化会館~人生の各ステージに多彩な企画で寄り添う「クラシック音楽の殿堂」

東京文化会館は、1961年の開館以来、日本の「クラシック音楽の殿堂」であり続けています。東京都の文化施設でもあるので、若手演奏家の支援や多彩なワークショップ、ボーダーレスな公演など、すべての人に開かれていて、上野駅からすぐのアクセスも便利。副館長の猪俣聖人さんに、2023年度の主催事業ラインナップについてを中心に伺いました。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

東京文化会館大ホールの内観

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東京文化会館は、1961年の開館以来、東京の、いや日本の「クラシック音楽の殿堂」であり続けている。ホール自体は、主催事業以外に貸館として、世界の一流オーケストラから在京のオーケストラまでが演奏し、あるいはオペラからバレエまでが公演を行ない、東京でのパフォーミングアーツの中心的な役割を果たしている。

東京文化会館は、東京都の文化施設であるため、幅広い年齢層の、クラシック音楽のコアなファンからビギナーまで、あらゆる人々に向けて主催事業を行なっている。東京文化会館副館長の猪俣聖人さんに、2023年度の主催事業ラインナップについて説明していただいた。

 

お話を伺った東京文化会館副館長の猪俣聖人さん(撮影:ヒダキトモコ)

猪俣「2023年度は、舞台芸術創造事業として、現代人形劇とクラシック音楽を融合させた《曾根崎心中》と現代音楽プロジェクト《かぐや》の2本の新作を初演します。

青少年向けのシアター・デビュー・プログラムの音楽劇《シミグダリ氏または麦粉の殿》と《ラヴェル最期の日々》も新作です。オペラ初心者も楽しめる東京文化会館オペラBOXの《Help! Help! グロボリンクスだ!~エイリアン襲来!!~》は2017年以来の再演になります」

知名度を増す東京音楽コンクールの入賞者がさまざまに活躍

2023年で21回目となる東京音楽コンクールは、ピアノ、弦楽、木管の3部門で開催される。入賞者は、コンクールのあともさまざまな東京文化会館の主催公演で演奏の機会を与えられるのが、このコンクールの特色となっている。

東京音楽コンクールからは多くの若手精鋭が巣立ち、音楽界で活躍の場を広げている ©堀田力丸

猪俣「『上野deクラシック』は、東京音楽コンクール入賞者たちに活躍の場を提供しています。

東京文化会館チェンバーオーケストラも東京音楽コンクール入賞者を中心に編成され、小ホールでは3年連続の公演です。東京フィルハーモニー交響楽団の依田真宣さん(第4回弦楽部門第2位)にコンサートマスターを務めていただいています。2023年度は、野平一郎東京文化会館音楽監督に自作などを指揮していただきます」

実験的で話題性のあるジャンル横断的な公演の数々

猪俣副館長に聴きどころやおススメの公演をきいた。

猪俣「《曾根崎心中》は、平常さんに脚本・演出・人形操演をお願いしています。

現代音楽プロジェクト』では、フランスで注目を浴びている作曲家のジョセフィーヌ・シュテファンソンに新作《かぐや》を書いていただきます。前半にカイヤ・サーリアホほかによる室内楽作品を演奏して、後半のシュテファンソンの新作は森山開次さんのダンスも入る舞台作品となります。

《シミグダリ氏または麦粉の殿は、ギリシャ民話を原作とした音楽劇です。新垣隆さんに音楽監督、作編曲、ピアノ演奏をしていただきます。《ラヴェル最期の日々》加藤昌則さんが音楽監督、作編曲、ピアノ演奏です。

オペラBOXの《Help!  Help! グロボリンクスだ!》にも、東京音楽コンクールの入賞者に出演していただいています(種谷典子[第16回声楽部門第2位]、岡昭宏[第12回同第1位]、ヴィタリ・ユシュマノフ[第14回同第2位]、ほか)。オペラBOXと連動して『オペラをつくろう!』というワークショップも開催します。なかでも、子ども向けの体験型のワークショップは人気があります。お子さんに、舞台作りに携わったり、歌やダンスで出演したり、いろいろな体験をしていただいています。

おススメは、東京音楽コンクールの入賞者をぜひ聴いていただきたいと思っていますので、『上野deクラシック』ですね。廉価(¥1,100~)で短い時間で、気楽に若手音楽家の演奏を聴いていただけます。あとは、野平一郎音楽監督が指揮する東京文化会館チェンバーオーケストラです」

東京文化会館チェンバーオーケストラは、東京音楽コンクール入賞者をはじめとする新進音楽家が出演する ©堀田力丸

0歳児から大人まで多彩なワークショップが揃う

東京文化会館では、0歳児から大人に至るまで、さまざまなワークショップのプログラムが提供されている。

猪俣「コロナ禍になってからは、参加中心よりも鑑賞型に参加が付随するワークショップが増えました。6か月のお子さんからの『はじめましてクラシック』というプログラムもそうです。『One Day セッション』は小学生から大人まで参加できますし、『Shall we シング?』という50歳以上に向けたワークショップもあります」

ワークショップ・コンサート「クラシックであそぼう!」より。東京文化会館はワークショップ・リーダーの育成も行なっており、ワークショップは乳幼児向けから認知症の方向けまで種類も豊富。人生のあらゆるステージで音楽と親しむことができる ©WATABE Shinya

親子が音楽を通して触れ合う公演が人気

子ども向けのコンサートとしては、『夏休み子ども音楽会』や『3歳からの楽しいクラシック』がある。

猪俣「親子向けの公演は堅調で完売になるものが多いです。コロナ禍になっても、親子が触れ合う場としてご利用いただいているという印象があります。上野動物園の流れのなかで来ていただいている方もいらっしゃるでしょう」

「夏休み子ども音楽会」は、小中学生が1.100円と参加しやすい料金で、完売になることも多いという。2023年は7月23日に開催、大友直人指揮東京都交響楽団、若手チェリストの中でも注目度が高い笹沼樹が出演(写真は東京文化会館の外観)

ホールでの鑑賞に不安のある方には「東京文化会館 リラックス・パフォーマンス」

自閉症や発達障害などがある方や4歳以上の未就学児もリラックスして音楽を鑑賞できるコンヴィアル・プロジェクト「東京文化会館 リラックス・パフォーマンス」も人気が高い。

猪俣「東京文化会館では、障害のある方に気軽に音楽を楽しんでいただくことに力を入れています。このリラックス・パフォーマンスは、演奏中に声を出してはいけないなどの制約もなく、出入りも自由ですから、障害のある方も4歳以上の未就学のお子様も、リラックスして音楽を楽しんでいただけるかと思います。今年は3年ぶりに大ホールで開催します」

ホールから飛び出して音楽を届ける

東京文化会館は東京都の文化施設であり、そのコンテンツは、ホールを離れて、都内各所でも提供される。

猪俣「『まちなかコンサート』は、都内文化施設に出かけて行って、東京音楽コンクール入賞者の演奏を無料で気楽にお楽しみいただきます。また、『フレッシュ名曲コンサート』を、都内の区市と連携して開催しています。東京音楽コンクール入賞者がオーケストラと共演します。

そのほかアウトリーチにも取り組んでいます。たとえば、都営住宅にいらっしゃるウクライナから避難された方々と地域の方々の交流をはかるために、都営住宅の集会室などを使って音楽のワークショップを開き、ウクライナの方々になじみのある音楽も提供させていただきました」

最後に、東京文化会館に行ってみようかなと思っている方へひとこと。

猪俣「東京文化会館は、『音楽の殿堂』といわれていますが、良い音楽を聴いていただくのに適ったホールですので、素晴らしい演奏、オペラ、バレエを一度聴いていただきたい、見ていただきたいと思います。上野駅前ですので、ぶらっと寄っていただけたら、うれしいですね」

東京文化会館

[運営](公財)東京都歴史文化財団

[座席数]大ホール2303席、小ホール649席

[オープン]1961年

[住所]〒110-8716 東京都台東区上野公園5-45

[問い合わせ]Tel.03-3828-2111

https://www.t-bunka.jp/

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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