読みもの
2024.09.13

ト音記号を徹底解剖! 意味・正しい書き方・大作曲家の自筆譜を検証

「ト音記号」は、音楽の仕事をしていればほとんど空気のように当たり前の存在。音楽の授業で習う関係上、楽譜が読めなくても目にしたことがある音楽記号ではないかと思います。そんな身近な存在「ト音記号」ですが、そもそもどういう意味? なんであの形? と疑問が湧いてきます。今回はト音記号の意味、成り立ち、正しい書き方から大作曲家たちの手書きのト音記号コレクションまで、ト音記号を徹底解剖していきます!

川上哲朗
川上哲朗 Webマガジン「ONTOMO」編集部

東京生まれの宇都宮育ち。高校卒業後、渡仏。リュエイル=マルメゾン音楽院にてフルートを学ぶ。帰国後はクラシックだけでは無くジャズなど即興も含めた演奏活動や講師活動を行な...

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ト音記号は何ものなのか

まずは「ト音記号」の意味をおさらしておきましょう! 分厚い「新訂 標準音楽辞典」(音楽之友社)の下巻が「ト」から始まっていたので、紐解いてみました。

譜表上の〈1点ト音〉の位置をきめる記号。こんにちでは一般に譜表の第2線におかれる。

「新訂 標準音楽辞典」(音楽之友社)なかなか危険な分厚さです

「ト」とは日本音名の「ソ」、英語でいうと「G」のこと。ピアノの鍵盤の真ん中のドが〈1点ハ音〉なので、ト音記号はそこからドレミファ「ソ」の位置をあらわす記号のようです。

記号の由来はアルファベットの「G」!?

続きを読む

さらに、この辞典の中には衝撃の事実が! もう一か所、引用してみましょう。

むかしト音の位置をしめすのに、Gの文字を使用したのが、のちに様式化されて、現在のような記号になった

!?!?

あのト音記号、どこかにG要素ありましたっけ?

というわけで、ト音記号の「進化」の様子をご覧ください。

「新訂 標準音楽辞典」より

ちょっと無理があるような気もしますが、何はともあれ、こうして現代のわれわれが知っているト音記号が生まれたのですね!

ト音記号の正しい書き方を学ぼう

ト音記号には、漢字のように「正しい書き順」があることをご存知ですか? 音楽教室に通ったことがある方は覚えているかもしれません。

ここで一旦おさらいしておきましょう。

永瀬礼佳 著『できる!たのしい! はじめてのがくてんワーク 上』より

実際に書いてみましょう。

これであなたも、ほれぼれするような、美しいト音記号が書けるようになったかと思います!

こちらの楽譜でさらに練習!

十人十色! 作曲家たちの「ト音記号」

さて、ここで気になるのは古今の作曲家たちの「ト音記号」。

大作曲家たちの「ト音記号コレクション」を開催してみました。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

まずは「音楽の父」、ヨハン・セバスチャン・バッハのト音記号。美しい自筆譜で有名なバッハですが、ト音記号は少し癖がありますね。

ブランデンブルク協奏曲第5番、ヴァイオリン・パートの冒頭

ただ、バッハの存命中に出版された楽譜を見ると、かなり自筆に近い記号が使われていますので、この書き方がバッハ的には正解だったのかもしれません。

イタリア協奏曲、1735年初版譜の冒頭部分

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン

ハイドンは、なぞの「うにょうにょ感」があるト音記号。多作家だったハイドンのこと、忙しい中で素早く書ける形だったのかもしれません。

交響曲第91番の冒頭

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

天才モーツァルトは、ちょっと下に向かってつぶれているト音記号がかわいいですね。右は初演前夜に眠気と戦いながら作曲したとされる《ドン・ジョヴァンニ》序曲の冒頭。ちょっと眠そう?

オペラ《イドメネオ》序曲の冒頭
オペラ《ドン・ジョヴァンニ》序曲の冒頭

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

楽聖ベートーヴェンはシンプル&ストロング・スタイル。ほとんど逆S字ですね。右隣り、2分2拍子の「2」の字のくせも素敵です。

交響曲第9番《合唱付き》冒頭

フランツ・シューベルト

その悪筆で研究者たちを悩ませるシューベルト。ト音記号に関してはそこまで問題なさそうですね……(シューベルトの「>」記号がアクセントかデクレシェンドか解らない問題は別の機会に)。

歌曲「流れの上で」冒頭

フレデリク・ショパン

ご覧ください、このスラッと儚げかつバランスの取れたト音記号を。ショパンさまは楽譜の美しさも格別。流石の完璧主義者です。

英雄ポロネーズの冒頭

アントン・ブルックナー

ブルックナーもくせが強いト音記号!! よく見るとフルート(一段目)とクラリネット(三段目)のト音記号が微妙に違いますね。時間を置いて書いたのか、はたまた気分の違いか。

交響曲第7番第4楽章の冒頭

クロード・ドビュッシー

程度の差こそあれ、ドビュッシーのト音記号は小ぶりでかわいらしく、ころんとしております。ショパン同様、自筆譜が大変美しいのですが、さらに儚げです。

オペラ《ペレアスとメリザンド》第5幕冒頭
前奏曲集第2集~「霧」

矢代秋雄

戦後の日本を代表する作曲家で、2年後には没後50年、2029年には生誕100年を迎える矢代秋雄は、端正なト音記号。アルファベットや数字も美しいですね。

矢代秋雄『ピアノ・ソナタ』(1961)。現在オンデマンドで販売中、2024年2月には標準版ピアノ楽譜(花岡千春 校訂・解説)として発売決定!

池辺晋一郎

今年81歳を迎える重鎮、ある世代以上の方にはN響アワーの「池辺先生」でお馴染み、池辺晋一郎のト音記号も見てみてましょう。一筆書きの「ころん」系で、かわいらしい! 一段目と二段目で少し形が変わっているような……?

池辺晋一郎『女声合唱曲集 東洋民謡集Ⅴ』冒頭

いかがでしたか? 時代も国も違う作曲家たちですが、ト音記号の形はまさに十人十色。彼らの音楽のように個性的でした。

みなさんも、一度正しい書き方を覚えたら、心が赴くまま、ご自身の「ト音記号」を書いてみてください!

川上哲朗
川上哲朗 Webマガジン「ONTOMO」編集部

東京生まれの宇都宮育ち。高校卒業後、渡仏。リュエイル=マルメゾン音楽院にてフルートを学ぶ。帰国後はクラシックだけでは無くジャズなど即興も含めた演奏活動や講師活動を行な...

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