読みもの
2025.04.07
インドのモノ差し「ガジェヴ in インド」後編

ピアニスト・ガジェヴがインドで3日間の「アシュラム」体験! ヨガやグルとの対話から得たもの

足繁くインドに通うクラシック音楽ライター高坂はる香さんによる連載「インドのモノ差し」。ピアニストのアレクサンダー・ガジェヴさんがインド・デビューを果たした後に向かったのは、ヨガの修行道場「アシュラム」。ヨガ、呼吸法、指導者グルとの対話......3日間のプログラムを通してガジェヴさんが感じたかったこと・感じたことを、同行した高坂さんがレポート。

取材・文
高坂はる香
取材・文
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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日本でヨガというと、柔軟性の求められるポージングや身体的なエクササイズのイメージが強いかもしれませんが、それはヨガのひとつの形、要素にすぎないようです。

本来は、(かなりざっくり説明すると)心身や感覚を鍛錬することで、精神統一や心身の動きの制御を目指すこと、そして最終的には輪廻からの解脱に向かおうとするもの……らしい。ビートルズが北部の街リシケシュのアシュラムに寝泊まりし、瞑想しながら創作活動を行なっていたことはよく知られていますね。

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実は私自身、かれこれ20年以上インドに通っていながら、これまでちゃんとしたヨガを習ったことがありませんでした。

というのも興味があってインド人の友人に相談しても、「ただ習いに行けばできるようになるものではない」「ちゃんと目的はあるのか」「ヨガというのは自分の中でやり方を見つければいいこと、そんなの我々はみんなやってる」(そう言いながらその友だちがヨガ的なことをしているのは見たことがない)などといって取り合ってもらえなかったという。自分で調べていくにしにも、一か八か選んであやしい団体だと困るし、勇気が出ずに今日に至っていました。

しかし、この度なんとその背中を押してくれたのが、今回が初インドのガジェヴさんだったわけです!

ムンバイでのズービン・メータ指揮、SOIとの共演を終えたガジェヴさん、その後1週間ほどインドに滞在するとのこと。その間、2つのアシュラムをはしごするというので、そのうちのひとつ、プネー近郊の村にあるアシュラムで行なわれる3日間のプログラムにご一緒することにしました。

ちなみにこのアシュラムはガジェヴさんが見つけてきてくれたのですが、私がインド在住の友人たちに聞いても誰も知りません。一体どうやって見つけたのかと尋ねると……なんと、チャットGPTに聞いたというではありませんか! 驚きです(現地についてからアシュラムの人たちにこの事実を伝えると、彼らもものすごく驚いていました)。

アシュラムへの道

コンサート翌日からガンジス川沿いの聖地ヴァラーナシーに旅をしてきたあとのガジェヴさんと合流して、プネー中心地から車で1時間半ほどの村に向かいます。

大自然の中にあるこの場所は、大気汚染のひどいムンバイやデリーで過ごしたあとの身には、ただ息を吸っているだけでありがたい気持ちになる環境。無意識に呼吸が浅くなっていたインド滞在の中で、久しぶりに胸いっぱいに空気を吸い込みます。

迎えてくれたスタッフはみんなとっても穏やかに話し、自然体なのになんとなく生命力を放っている。これがヨガの、アシュラムの力なのか。

私たちにヨガの指導をしてくれたのは、グルのプラヴィーンさん。とても落ち着いた声色で語りかけてくれて、控えめなのにカリスマ性が漏れ出す人、という感じ。こんなインド人見たことない。

このアシュラムで行なっているのは、クリヤー・ヨガ。到着早々、グルたちの歴史、ヨガナンダの基本的な教え、メディテーションをする際の座り方を教えてもらいます。

ここでガジェヴさん、さっそくいろいろな質問をしまくっていました。

例えば西暦203年生まれ、不老不死の聖者マハー・アヴァター・ババジはまだ山奥で生きていると聞けば、実際に会った人はいるのかとすかさず質問。普通の大人なら「そういうものなんだ」と流しそうなところにもしっかり食いついていく。ただそれは回答が欲しくて質問しているのではなく、そこから生まれる対話、思わぬ方向に向かう話の展開を求めているのでしょう。

ヨガ、呼吸法、食事、対話、瞑想......アシュラムでのプログラム

さて、アシュラムでの生活はこのような感じです。

朝7時に集合して、空腹の状態で呼吸法のレッスン。

三食提供される食事は、アシュラムの敷地内で採れた食材を中心に使ったもの。ダヒー(ヨーグルト)はアシュラムで飼育している牛の搾りたてミルクから作られたもので、とてもおいしい!

パワースポットとされる長寿の樹に触れるトレッキングや、ヨガのレクチャーなど日替わりのプログラムもあります。

午後はさまざまなポーズと呼吸法を教わりながらハタヨガのレッスン。

夕食のあとはヨガのグルや滞在者同士でいろいろな話をする時間がとられています。みんなで火を囲む時間もありました。

参加者は、1か月単位で長く滞在している外国人から週末だけやってきたという近郊に住むインド人までさまざま。心の平和を求めてメディテーションをしようという考えの方ばかりだからか、みんな穏やかで知的な雰囲気です。

そんななかでも、ひときわキャラの濃さが際立つガジェヴさん。

年齢がそう離れていないこともあって共感が強かったのでしょうか、とくにグルには次々といろいろな質問を投げかけ、グルも喜んでガジェヴさんの質問に答え、連日しっぽりと話し込み、3日間で驚異的な距離の縮め方をしていました。

もうここから帰らないと言い出したら、ガジェヴさんのファンのみなさんや関係者のみなさんに私が責任を問われるのではないかと若干気が気でないくらい、楽しそうでした。

「人と話して、その人がどんなことを考えているのか聞くのが僕の趣味だ」と話していましたが、アシュラムでも絶え間なく、誰かとわぁわぁ話している姿は、私のような引っ込み思案の人間からすると、尊敬と憧れのまなざし。

最近のガジェヴさんは、ピアニストとして自分が人々に音楽を届ける意味、ピアノを演奏しながら真にリラックスする方法、そして自分を本当に解放するための方法を探している様子。

おそらくこうして人と話し、考えること、刺激をもらうことが、彼の大きなインスピレーションの源になっているのでしょう。私も答えのない問いをたんまり投げかけられ、田舎の空気の中でぼんやりした頭で必死に回答する3日間でした。大変だった。

ちなみにこのアシュラムで過ごした感想を聞かれ、私が「瞑想が難しくてできなかった」という発言をすると、「できないことの話をするな、できることの話をしろ!」と注意されたのが印象に残ります。

とはいえ当のガジェヴさん、身体の柔軟性は高い方でないらしく、ハタヨガの時間はけっこうキツそうでした。

ガジェヴさんの旅の目的

ガジェヴさんはインド行きが決まった半年以上前からずっと、瞑想のためのアシュラムに行ってみたいと言っていました。

そもそもなぜそんなにアシュラムに行きたいと思ったのか、旅の最後に尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「リアルな人間の生き方が見たかったんだ。リアリティが見たかった。これからまだあと20年くらい、僕にはそんな生き方はできないかもしれない。でも、その感触、香りをこの数日間で一度知ることができれば、これからの生活の中、いつでもその感覚を思い出すことができる。それでこれからもずっと自分をインスパイアできると思ったからなんだ」

ガジェヴさん、今後もときどき時間をとってインドに瞑想のために来たいとのこと。

自分の心と体を見つめ直すことは大事だとわかっていても、日常に追われているとなかなかそうもいかない……その時間を自分に強制的に与えるための方法として定期的にアシュラムでリフレッシュするというインドの旅のあり方を、私は初インドのガジェヴさんに教えてもらってしまいました。ありがとう。

次回までに日々のストレッチをがんばっておこうと思います。

アシュラムで飼育されていた牛
取材・文
高坂はる香
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高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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