ひな人形にいる五人囃子って何?どんな楽器で演奏している?
3月3日、ひな祭り。
童謡で歌われる《うれしいひなまつり》には、「♪五人囃子の笛太鼓~」という歌詞があります。
言われてみれば、ひな壇の下には楽器を演奏している人たちがいて、太鼓を叩いたり、笛を吹いたり。彼らはいったい何者なのでしょうか?
日本音楽を研究されている千葉優子さんに聞きました。
武蔵野音楽大学大学院修士課程修了。現在、宮城道雄記念館資料室室長、青山学院大学・フェリス女学院大学講師。文化庁芸術祭審査委員。『箏を友として-評伝宮城道雄』(アルテス...
ズバリ!能楽囃子!笛には秘密も
五人囃子は、楽器としては向かって左から太鼓(たいこ)、大鼓(おおつづみ、おおかわ)、小鼓(こつづみ)という3種の太鼓と笛で、これは能楽(能・狂言)囃子の編成です。
3種の太鼓は構造的には同じで、2枚の皮をそれぞれ丸い鉄の枠に張って胴の両端に当て、枠に「調べ緒(お)」という紐をかけて締め上げた両面太鼓です。
大鼓と小鼓は胴が砂時計のようにくびれた鼓型で、大鼓は小鼓より少し大きいものの、見た目はよく似ています。皮も共に馬の皮ですが、出てくる音はまったく異なります。
この音色の違いは皮の扱いによるところが大きく、大鼓は演奏前に皮を炭火で焙じて乾燥させてから、きつく締めるので「カン」という鋭い音がします。調べ緒を左手で握って左膝の上に置き、右手の指先に和紙を固めた「指皮」を、手のひらには鹿皮の「当て」を付けて打ちます。
一方、小鼓は皮に息をかけたり、つばで湿らせたりします。ですから大鼓の皮が消耗品なのに対して、小鼓の皮は長く打ち込んだ皮の方がよいとされ、補強と装飾をかねて皮の縁から裏にかけて黒漆が塗ってあります。左手で調べ緒を握って右肩に乗せ右手で打ちます。「ポン」という柔らかい音で、調べ緒を締めたりゆるめたりして皮の張力を調節し、また打つ強さや位置、指の本数などを変えて、いろいろな音色や音高を出します。
太鼓は胴が短く平たい締太鼓で、牛の皮を2本のバチでたたきます。したがって小鼓や大鼓とは、これまた異なる音色です。
これら音色の異なる3種の同族打楽器に唯一の旋律楽器である笛が加わるのですが、この笛が「能管」という正確な音程を出せない珍しい笛なのです。長さは約39センチの竹製で、指孔が7つの横笛ですが、歌口と指孔の間の管内に「喉(のど)」と呼ばれる短い竹が入れてあるため、同じ指遣いで1オクターヴ上の音を出そうとしても、オクターヴ関係が狂って出ないという世界的にも珍しい細工がしてあります。
なぜ喉を入れるかはっきりとは分からないのですが、音色が豊かになるという音響学的研究もあります。さらに、それぞれの能管で長さも指孔の位置も違うので音律も決まっていません。まぁ、吹くのは1人ですし、能の声楽である謡(うたい)の音高に合わせることもないので支障はありません。
掛け声やリズムで盛り上げる
囃子の語源は「栄(は)やす」で、賑やかな雰囲気を作り、歌や演技者などを引き立て映える状態にすることを意味するので、音程を合わせるという感覚がもともとなかったのでしょう。むしろ能管が入ることで気迫がこもることに存在意義があります。
さらに、打楽器奏者の掛け声が加わり、より迫力満点のアンサンブルが展開されるのです。もっとも初めて掛け声を聴いた人が、予想外の大きな声に笑いをこらえるのに苦労したなどというエピソードもありますが、「ハ」、「ヤ」などの掛け声は適当に発しているわけではなく、ちゃんと決まりがあって、奏者間のタイミングなど意思伝達や気迫などの表現手段として機能しているのです。この掛け声と打音によるリズムパターンを「手組(てぐみ)」といい、これをつなげて全体が構成されています。
これら4種の楽器、また演奏者の総称を「四拍子(しびょうし)」といい、これに扇を持った謡の担当者が加わって「五人囃子」となるのです。
宮中と武士の文化が混ざっているのはなぜ?
もともと庶民の芸能だった能は、室町幕府3代将軍の足利義満が17歳のときに、京の今熊野神社で能を演ずる当時12歳の世阿弥の美少年ぶりと才能にすっかり魅了され寵愛し、さらに豊臣秀吉、徳川幕府の将軍たちも能を好んで、やがて武士の式楽となりました。
ですから、1段目の内裏雛に三人官女、随身、衛士(えじ)といずれも宮中の人々であるのに対して、なぜか五人囃子だけは武士ということになります。
雛人形は江戸時代の中頃から、内裏雛以外にもさまざまな人形や調度品を飾るようになり、京阪地方で随身・官女、衛士を飾ったのに対して、江戸では五人囃子を飾りました。徳川幕府のお膝元だったからでしょうか。やがて江戸時代の末期になると、随身や官女といった京阪の人形を江戸でも取り入れるようになり、現在のスタイルができあがったというわけです。
数十年前に宮中の音楽は雅楽ということで、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)など雅楽の楽器を持った「七人雅楽」を売り出した人形店があり、現在も「五楽人」、「七楽人」を置く場合もありますが、今一つマイナーです。やはりサトウハチロー作詞の《うれしいひなまつり》のイメージが強いのでしょう。ちなみに男雛と女雛の一対で内裏雛なので、「♪お内裏様とお雛様~」は間違い。作詞者本人も後で恥じていたとか……。
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