インタビュー
2022.02.26
2月の特集「カーニバル」/楽器探索シリーズ#5

7種類のサンバ楽器を体験! リオのカーニバルに参加した奏者が語る、熱狂のサンバ

楽器探索シリーズ第5弾は、2月の特集「カーニバル」に合わせ、ブラジルのサンバ音楽を探索します。日常のサンバの姿、リオでの熱狂のカーニバル、楽器の演奏法を、3年間現地の強豪チームに参加し、優勝経験も持つ武田康宏さんにお聞きしました。

お話を聞いた人
高坂はる香
お話を聞いた人
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

レッスンを受けた人
ONTOMO編集部
レッスンを受けた人
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

撮影:編集部

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

日本での誤ったサンバのイメージ

━━まず、サンバというのはどんな音楽なのかということから教えていただけますか。おそらく日本では、間違ったイメージでサンバが認識されているケースが多いのではないかと思うのですが。

武田 そうですね。「てんとう虫のサンバ」「お嫁サンバ」にはじまり、最近は「マツケンサンバII」で、ますます本来のサンバでないものがサンバとして親しまれています(笑)。個人的には、サンバという名前が広まること自体は良いと思っていますけれど。テレビなどで耳にする「サンバ・デ・ジャネイロ」も、ドイツ人のミュージシャンが作ったユーロビートの曲なので、サンバではありません。

誤ったサンバ楽曲プレイリスト

続きを読む
ずん【ZUM】武田康宏(たけだ・やすひろ)
Samba Lab.代表
幼少期よりピアノや和太鼓、伝統芸能等を経験し、15歳でサンバと出会う。23歳で単身でブラジルに渡伯し、以降3年間リオのカーニバルの名門チーム「マンゲイラ」で楽器隊として参加。トップリーグ優勝も経験。
帰国後Samba Lab.を設立し、日本サンバ発展の為のワークショップや次世代のサンバプレイヤーの育成等に尽力。
自身も音楽エンターテイメント集団「カルナバケーション」のサポートパーカッショニストとして参加し活動している。

あと、よく知られているのは、カーニバルの派手な音楽と、羽をつけたダンサーの女性というイメージでしょうか。でもあれって、ブラジルのサンバの中でもごく一部のものなのです。

サンバはブラジルでは日常の音楽で、庭先で人が集まったときに自然と演奏しているようなものです。もとはアフリカから連れてこられた奴隷たちの音楽なので、リオやサンパウロなど、大都市に根付いています。よくラテン音楽として、キューバ音楽やサルサと一緒にされますが、そもそもラテン音楽ですらありません。

派手な明るい曲だけでなく、哀愁を漂わせながら静かに歌うような曲もたくさんあります。例えば、日本ではカフェのBGMなどとしても親しまれているボサノヴァは、中産階級や白人たちが生み出した、いわゆる新しいサンバです。本来の黒人のサンバを熱狂的に好きな層からすると受け入れにくいものではありますが、でも、やっぱりサンバの一つではあります。

そういうしっとりとしたサンバの対極にあるのが、カーニバルのときに演奏する派手なサンバの音楽です。

サンバの本場! リオのカーニバルの様子とは?

━━武田さんはリオのカーニバルにも参加されているそうですが、本場のカーニバルとはどのようなものなのでしょうか?

武田 リオには、800メートルほどの道とその両脇にスタジアムの客席のようなものがついた、サンバのカーニバル専用の会場があります。カーニバルでは、そこを1チーム4000人ぐらいのサンバチームが、1時半くらいかけて練り歩きます。ちょっとしたマンションくらいの大きさの山車が数台と、ダンサー、音楽隊からなるチームが何チームも出て、夜中じゅうパレードをするというのが、4日間くらい続くんです。

打楽器と歌で音楽が奏でられるのですが、この歌はお客さんもみんな歌うことができて、大合唱になります。パレードの最中、自分は打楽器隊の中にいて、スピーカーからも大きな音が流れているというのに、人々の歌声しか聞こえない瞬間がありました。その熱量と一体感に、ああ、これが自分のやってきたサンバという音楽なんだと思ったら、ボロ泣きしてしまいましたね。

━━そもそもブラジルでは、カーニバルはどんな位置付けのお祭りなのでしょうか。

武田 キリスト教の謝肉祭の一環ですから、宗教的なテーマでパレードをするチームもありますし、謝肉祭らしい仮装もたくさん見られます。とはいえ、最近の大都市でのカーニバルは商業化しているので、全く宗教感のないチームや、政治批判をするチームなんかもいます。それぞれにその年のテーマを決め、それに沿った衣装と音楽を用意してパレードをします。

ちなみに、前述の羽をつけたダンサーのお姉さんは、チームの中にほんの数人しかいないので、普通にカーニバルを見ていたら、どこにいたのかな?と思うかもしれません。チームの花形であり、衣装にものすごくお金がかかるので、ごく一部の踊りの技術がすごい人以外は、ほとんどの場合が有名人かお金持ちです(笑)。

一方、大きな専用スタジアム以外の場所でも、謝肉祭の時期にはみんなが仮装して、道路で好きにパレードをしています。そこに楽器を持って混ざって一緒に祝うこともできます。

リオのサンバ当日の様子

サンバは、ジャンルではなく生き方の一つ

━━武田さんはそもそも、どのようにしてサンバに関心を持たれたのですか?

武田 もともと音楽が好きで、小学生の頃からピアノを習っていたのですが、あまり才能がありませんでした。でも、高い歌声が出たのでカウンターテナーに関心があり、高校に入ったらオペラの授業を選択しようと思っていたのですが、1年生では選ぶことができないことがわかったんです。どうしようかと思っていたら、高校で最初に友達になった子がサンバを選ぶというので、それじゃあ自分もそれでいいやと選んだところから、今に至ります(笑)。

━━サンバの楽器のどんなところに惹かれ、どう腕を磨いていったのですか?

武田 ピアノのような楽器より、和太鼓など感覚的に叩く楽器のほうが得意で、そのインスピレーションとサンバがカッチリはまったのだと思います。

打楽器は、音が大きくてなかなか家で練習できないので、楽器を一つ持って近所の橋の下に行っては、そこでずっと練習していました。やがて日本で大きなチームに入って、月一回、大人数での練習に参加していました。

━━その後ブラジルにサンバを勉強しに行かれたということですが、現地にいる間はどんな風に過ごされていたのですか?

武田 ずっとサンバしかしていませんでしたね。現地には大小2、300くらいサンバチームがあるのですが、僕はそのなかでもブラジルで一番歴史のあるトップクラスのチームに通って、週4日、夜中じゅう練習をしていました。サンバをしては酒を飲み、寝て起きてサンバして酒を飲み、ということを繰り返していましたね。

現地での練習の様子。

━━“酒を飲み”のパートからも得るものがありそうですね。

武田 そうですね、そちらのほうがよっぽど得るものがあったかもしれません(笑)。ブラジル人の生き方のようなものを知ることができて、とてもいい経験になりました。

サンバは、人々にとってとにかく身近で、たとえば日本で演歌の大御所の北島三郎さんを見たら、わぁ!となると思いますが、ブラジルでそのレベルのサンバ奏者を見ても、あぁ、そこにいるなという感覚。人と人が本当に近いんです。

以前、サッカー選手のロナウジーニョがサンバチームにフラッと遊びにきて楽器を叩いて帰っていったこともありました(笑)。彼は、サンバがうまいからサッカーもうまかったんだろうなと思いますね。

━━サッカーとサンバはつながっているということですか? 体の使いかた、リズム感覚、人とのコミュニケーションの取り方など……。

武田 つながっていますね。切っても切れないと思います。ちなみに三浦知良選手のカズダンスも、もとはサンバのステップをまねたものです。

サンバは、もともと貧しい層の音楽です。スラムごとにサンバチームがあり、その場所に生まれるということは、サンバをしなくてはならない運命にあるということになります。彼らは生きるためにサンバをしているのです。

サンバは、音楽の一つのジャンルというより、生き方の一つと言えるのではないかと思います。

カーニバルに使用される打楽器

━━カーニバルのサンバの演奏に使う楽器には、どのようなものがあるのでしょうか?

武田 基本的には打楽器で、それぞれが、ベース、パターン、ファンデーションの役割を担当します。一人一つ楽器を抱えてパレードに参加することになるので、必然的に人数が多くなります。一つのチームに270〜300人のパーカッションのアンサンブルがいるという感じです。この打楽器の一団のことを「バテリア」と呼びます。
ちなみにそれに対して、ダンサーたちの一団のことは「パシスタ」と呼びます。

後列左から、スルド、カイシャ、ヘピニキ、前列左からショカーリョ、クイーカ、タンボリン、アゴゴ。

━━サンバの楽器の魅力は、どのようなところにあるのでしょうか?

武田 とても親しみやすく、簡単なので、チャレンジしやすいところですね。4分の4拍子のフレーズを覚えたら、あとはその繰り返しで、お互いにアイコンタクトをしながら合わせていく演奏スタイルです。最初のパターンだけ覚えれば、その場で会った人たちがすぐにセッションできます。楽器は日本でも2000円くらいで手に入ります。

ただ、間口が広いけれど、奥も深いのは事実です。歌詞がポルトガル語なので、それを理解しようとすると少し勉強が必要になります。あとは、サンバならではのグルーヴ感、たとえば、譜面に起こしたらシンプルな16分音符の連続だとしても、実際演奏するときには、どこかとどこかが近づいたり離れたりする、特徴的なグルーヴを感じられなくてはいけません。かっこいいソロを叩くには、技術も必要です。そういうことを体得しようとすると、どこまでも深く、そこがまた魅力です。

━━初めてサンバに触れるという方に、おすすめの曲やジャンルはありますか?

武田 個人的にはしっとりとした静かなサンバの曲が好きで、こちらがもっと日本でも広がってくれたらいいのに、と思っています。そんな静かなサンバの中からまずおすすめすると、アルシオーニという女性ミュージシャンの「NAO DEIXE O SAMBA MORRER(サンバを死なせてはならない)」という曲。これはブラジル人なら誰でも歌える有名な歌です。

しっとり系サンバ・アルシオーニ「NAO DEIXE O SAMBA MORRER(サンバを死なせてはならない)」

一方、派手なものだと、「サンバ・ジ・エンヘード」というジャンル。カーニバルでは毎年、各チームがテーマに合わせて1曲サンバを作ります。これが「サンバ・ジ・エンヘード」と呼ばれています。

毎年、いろいろなチームの曲を集めたCDが出るのですが、どれも刺激的で、聴いていると間違いなくテンションがあがります。

サンバ・ジ・エンヘード2020

━━ちなみに、日本でサンバを演奏しているのはどのような方達ですか?

武田 一番多いのは、日本にサンバを引き入れてきた50代〜70代のベテランの方々ですね。3040代は少なくて、あとは大学生の連合サンバチーム「ウニアン・ドス・アマドーリス」や高校生などが、若い層を支えています。ただ彼らは大学を卒業するとやめてしまうことが多いので、なかなか若い奏者が増えません。

とはいえ、浅草サンバカーニバルがあるおかげで、東京近郊には誰でも入れる大きなサンバチームが10くらいあります。また、ブラジル人の多いエリアである群馬の大泉や静岡の浜松など、全国各地にもチームがあります。

普段は内にこもりがちな人が、殻を破るためにカーニバルのパレードに出ているということも結構多いと思います。自分自身も、コミュニケーション下手だったのが、サンバに出会ったことでこうなりました(笑)。

サンバとは、魂の解放だと思いますね。

サンバ楽器体験レッスン前編

サンバ楽器体験レッスン後編

お話を聞いた人
高坂はる香
お話を聞いた人
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

レッスンを受けた人
ONTOMO編集部
レッスンを受けた人
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ