読みもの
2023.03.04
毎月第1土曜日 定期更新「林田直樹の今月のCDベスト3選」

フランクの主要オルガン作品集/葵トリオのチェコ音楽/フリーントの《ザ・グレイト》

林田直樹さんが、今月ぜひCDで聴きたい3枚をナビゲート。CDを入り口として、豊饒な音楽の世界を道案内します。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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DISC 1

昨年生誕200年のフランク オルガン音楽の素晴らしさをじっくりと味わう

「フランク:大オルガンのための12の作品」

梅干野安未(オルガン)

収録曲
セザール・フランク:3つの作品 (1878)~ファンタジー イ長調/ カンタービレ/ 英雄的作品、6つの作品 (1859-1863) より~交響的大作 op.17、6つの作品 より~ファンタジー ハ長調 op.16/前奏曲、フーガと変奏 op.18/パストラル op.19/祈り op.20/フィナル op.21、3つのコラール (1890)~コラール 第1番 ホ長調/コラール 第2番 ロ短調/コラール 第3番 イ短調
[コジマ録音 ALCD-9245/47]

こういうアルバムが出るのを待っていたような気がする。

2022年に生誕200年を迎えていた、ベルギー出身でパリで活躍し、教育者としてもフランス近代音楽に大きな影響を与えた作曲家セザール・フランク(1822-90)の主要なオルガン作品をまとめあげた3枚組のCDがリリースされた。

オルガニスト梅干野安未(ほやのあみ)は、パリおよびブリュッセルに留学、オリヴィエ・ラトリーやベルナール・フォクルールといった巨匠たちに師事し、国際的な実績を積んできた実力派。使用されているオルガンは、フランスのサン・トメールのノートルダム大聖堂、19世紀の名オルガン製作家カヴァイエ=コル(フランクが楽想の前提としたほど信頼関係が厚かった)によるもの。

その壮麗な響きは、まろやかで柔らかく内省的で、各声部の動きが多彩かつ明晰に伝わってくる。教会の祈りの大空間へと聴き手をいざなってくれる。

演奏者自身による曲目解説も詳細で参考になる。ヴァイオリン・ソナタや交響曲だけでなく、ぜひフランクのオルガン音楽の素晴らしさをこの3枚組でじっくりと味わいたい。

DISC 2

聴き手を巻き込む求心力は格別 注目の葵トリオによるチェコ音楽

「ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第3番、マルティヌー:ピアノ三重奏曲第1番《5つの小品》」

葵トリオ【小川響子(ヴァイオリン)、伊東裕(チェロ)、秋元孝介(ピアノ)】

収録曲
マルティヌー:ピアノ三重奏曲第1番「5つの小品」 H.193
ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第3番 ヘ短調 Op.65 B.130
[キングインターナショナル KKC-6634]

ヴァイオリンの小川響子、チェロの伊東裕、ピアノの秋元孝介の3人による葵トリオは、第67回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で日本人団体として初の優勝を果たして以来、現在もっとも注目を浴びている室内楽団体のひとつである。

新たなピアノ三重奏曲の発掘にも意欲的な彼らが、今回ドイツのヘンスラー・レーベルからリリースしたのは、チェコ音楽による新譜である。冒頭のマルティヌーから刺激的だし、メインの楽曲であるドヴォルザークは有名な第4番《ドゥムキー》ではなく、第3番というこだわりぶり。しかしこれが素晴らしい。ダイナミックで彫りが深く、旋律美もドヴォルザークらしく親しみやすく心を打つ名作だということを、葵トリオの力強い演奏が雄弁に教えてくれる。

コロナ禍以降、フットワーク軽く各地をツアーできる室内楽の分野は、これから音楽界にとってますます重要になってくる。そこで葵トリオは必ず中心的な存在になっていなければならない。近年3人のメンバーはそれぞれに活動の幅を広げているが、やはり葵トリオとして演奏したときの聴き手を巻き込む求心力には、生半可なオーケストラよりもはるかに特別なものがある。

DISC 3

今後要注目!指揮者フリーントが脚光を浴びるときが来た

「シューベルト:交響曲第8番《ザ・グレイト》」

ヤン・ヴィレム・デ・フリーント(指揮)、京都市交響楽団

収録曲
シューベルト:交響曲 第8(9)番 ハ長調 D944《ザ・グレイト》
[オクタヴィアレコード OVCL-00803]

これは大発見――というよりも、ようやく真価が認められたというべきだろうか。

ヤン・ヴィレム・デ・フリーントはオランダを中心に国際的に活躍する指揮者で、古楽器の演奏法をモダン楽器にも適用するコンバッティメント・コンソート・アムステルダムの音楽監督としても1980年代から大きな成果を挙げてきた。バロックのみならずロマン派やオペラ上演にも実績がある。

そのフリーントが、2022年5月に京都市交響楽団に客演したときのライブ録音がこれである。一聴してその素晴らしさに驚嘆した。音楽全体の引き締まったみずみずしい表情、各楽器の音色やバランスの新鮮さ、テンポ設定と呼吸の見事さ、なじみ深いこの名曲が、こんなにフレッシュに楽しめるとは!

2024年4月からは京響の首席客演指揮者に就任することが決まっており、今年の年末には読売日本交響楽団の《第九》も指揮することになっている。今後日本のオーケストラ・ファンの間で注目の存在になるはずだ。

なお、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムと1990年代半ばに録音したバッハの「管弦楽組曲」「ブランデンブルク協奏曲」の両全曲盤も最新リマスタリングして同時に再発売された。こちらも目の覚めるような鮮やかな演奏である。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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