木のぬくもりと美しい響きの親密な空間で愉しむ、名手たちの饗宴——紀尾井ホール
四ツ谷駅から木洩れ日が美しい土手沿いの道を抜けると、紀尾井ホールが見えてくる。2020年にはホールの開館25周年と、ホールのレジデント・オーケストラ、紀尾井ホール室内管弦楽団の創立25周年を迎える。
首都圏初の中規模ホールで味わうゴージャスなひととき。その楽しみかたを制作部プロデューサーの松本學さんに伺った。
1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...
駅を降りた瞬間から始まる演奏会の楽しみ
四ツ谷駅を降り、ライヴへの期待を静かに高めるプロムナードを経て、紀尾井ホールへ向かう。
僭越ながらアドバイスを。ホールに到着したら、席へ急がずにまずはホワイエの空間を、ほんのひとときお楽しみいただきたい。
私たちを迎えるのは、日本を代表する造形作家、多田美波が制作した華やかなシャンデリア、テーマはReverberation、反射・反響だ。
非日常を演出するこうしたオブジェに目を配ると、より一層コンサートへの期待が高まるだろう。
紀尾井ホールへのデビューは、まず駅からのプロムナード、そしてホール内の雰囲気を楽しむことから始めたい。
首都圏初の「中規模ホール」は音響も雰囲気も抜群
1995年春、外堀周辺の桜も美しい季節に紀尾井ホールは産声を上げた。ホールの形状は、縦長のシューボックスタイプ。伝統と格式を誇るウィーン楽友協会大ホールを一回りコンパクトにしたかのようなスタイルだ。
座席数はソロのリサイタルや室内楽に最適で、古典派やロマン派の交響曲の演奏にもちょうど良い800席。この席数は緻密なマーケティングから導き出されたものだった。周知のように、2000席の「大」ホールはあった。500〜600席の「小」ホールもあった。しかし音響も雰囲気もいい中規模のホールは、首都圏にはなかった。
ホール内部の造りも見事。ホールの音響は掛け値なしに素晴らしい。その秘密のひとつには、ホールのフロア下に大人が歩けるほどの空間があるという。ウィーンの旧ゾフィエンザールを彷彿とさせるようだ。
私ごとながらウィーン留学中の1991年秋、紀尾井ホール開設準備室のスタッフとウィーン楽友協会やコンツェルトハウスでお目にかかり、ホール談義をしたことを、懐かしく思い出す。
名手揃いの室内オーケストラが拠点とするホール
1995年春、紀尾井ホールをレジデント(本拠地)として演奏活動を行なう室内オーケストラ、紀尾井シンフォニエッタ東京も歩み出す。初代指揮者は尾高忠明(現桂冠名誉指揮者)。
世代を越えたソリストや室内楽の名手、在京オーケストラの首席奏者らが顔を揃えた同楽団は、定期演奏会のためのすべてのリハーサルを紀尾井ホールで行なう。
この極めて愛すべき楽団は、2017年から紀尾井ホール室内管弦楽団と改称し、ウィーンの名ヴァイオリニストで指揮者でもあるライナー・ホーネック(ウィーン・フィルのコンサートマスター)を首席指揮者に迎え、以前にも増して精力的な活動を展開している。
年間5回、金曜の夜7時と土曜の午後2時に開演する定期公演は、2日間で計1600席の半分以上を定期会員が占めるということもあって、残りのチケットの争奪戦が繰り広げられるほどの人気だ。
まず体感してもらいたいのは、ホーネックの指揮とヴァイオリンソロを交えた紀尾井ホール室内管弦楽団の定期演奏会。今シーズンは、2019年4月と9月、2020年2月に登場する。
「現在、定期会員が金曜・土曜合わせて約1000名、毎公演満席に近い状態が続いています。ホーネックはウィーン風の伝統的なプログラム、『モーツァルト選集』(2019年4月)や『オール・ベートーヴェン・プログラム』(2020年2月)もありますが、他にもたくさんのアイディアをもっており、年間の内容に幅が出てきたのではと思っています。また、モーツァルト選集も有名なシンフォニーばかりというのではなく、モーツァルトならではのセレナードやディヴェルティメントなど、いわゆる機会音楽の名作を積極的に採り入れています」(プロデューサーの松本學さん)。
コンサートマスター陣も最高だ。バイエルン放送交響楽団、パリ管弦楽団の要職を務めるヴァイオリニストたちが紀尾井ホール室内管の顔でもある。2020年にはホール、オーケストラともに25周年。アニバーサリー・イヤーを華やかに寿ぐ準備も進んでいる。
企画が光るソロや室内楽の主催公演
いっぽうソロのリサイタルや室内楽の主催公演も充実している。
「上半期は、テクニックが抜群に高く、かつ豊かで自然な歌が素晴らしい、86年ノルウェー生まれのヴァイオリンの新女王、ヴィルデ・フラングのリサイタルが個人的にもとても楽しみです。
彼女と同様、紀尾井ホールデビューとなる6月7日のアポロン・ミューザゲート弦楽四重奏団もその実力に圧倒されるはずです。プログラムも、彼らのお国(ポーランド)もののペンデレツキをシューベルトの最初と最後のクァルテット作品で挟むという、紀尾井ホールだけのものを用意しました」
また、7月12日の「伊藤恵プロデュース ピアノ! ピアノ!! ピアノ!!!」は、紀尾井ホールが2018年の年末に新たに導入したピアノのお披露目コンサート。これまでの2台と併せ最大でピアノ3台を12手で演奏、6名のピアニストが一挙に登場するプログラムだ。「北村朋幹さんがラヴェル「ボレロ」の12手3台ピアノ版を書き下ろします。オーケストラ版では同じ旋律をさまざまな楽器の個性を活かしながら演奏しますが、その音色が移りゆく感じをピアノでどう表現するかが楽しみです」と松本さん。
最高の音響で楽しむリサイタルの前後はホテルでゴージャスな美食を
コンサート前後のお楽しみは、近隣のラグジュアリーホテルやフレンチ風カフェで、シーズナブルなケーキ、ちょっと贅沢なランチ、ディナーもお勧めだ。
日時: 2019年4月15日(月)19:00開演
出演: ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)、ミハイル・リフィッツ(ピアノ)
曲目:
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調 op.78《雨の歌》
ブラームス/シューベルト:華麗なるロンド ロ短調 op.70, D895
バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番 Sz.75, BB 84
詳細はこちら
日時: 2019年6月7日(金)19:00開演
出演: アポロン・ミューザゲート弦楽四重奏団
曲目:
シューベルト:弦楽四重奏曲第1番ト短調(変ロ長調) D18
ペンデレツキ:弦楽四重奏曲第3番「書かれなかった日記のページ」
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番ト長調 Op.post.161, D887
詳細はこちら
紀尾井ホール・新ピアノお披露目アンサンブルコンサート
日時: 2019年7月12日(金)19:00開演
出演: 伊藤 恵、エヴァ・ポブウォツカ、北村朋幹、津田裕也、坂本 彩、坂本リサ(ピアノ)
曲目:
ワーグナー/フォン・リヴォニウス編:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》WWV 96~第1幕への前奏曲
ショパン:ロンド ハ長調 Op.73
ラヴェル:ラ・ヴァルス
シューベルト:幻想曲へ短調 Op.posth.103, D940
ウェーバー/ゴドフスキ編:「舞踏への勧誘」による対位法的パラフレーズ
シューマン/ブラームス編:ピアノ四重奏曲変ホ長調 Op.47より第3楽章
プーランク:2台のピアノのためのエレジー FP175
プーランク:「仮面舞踏会」の終曲によるカプリッチョ ハ長調 FP155
ラヴェル/北村朋幹編:ボレロ
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[運営](公財)日本製鉄文化財団
[座席数]大ホール 800席/小ホール 250席
[オープン]1995年
〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町6番5号
[問い合わせ]Tel.03-5276-4500(代表)
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