若き音楽家たちへ(前編)〜今すぐ行動を!
原田さんにとって、若い世代との触れ合いはなによりも大切なこと。洗足学園音楽大学レパートリーオーケストラの皆さんに囲まれた、この笑顔をご覧あれ!
失敗を恐れず一歩を踏み出す
NHK交響楽団フルート奏者でもあり洗足学園音楽大学教授の菅原潤先生に声をかけていただいて、2022年に2回、洗足学園音楽大学レパートリーオーケストラを指導しました。学生を指導するのは大好きです。「先生」と呼ばれるのは好きじゃないけれど。
東京交響楽団とサントリーホールで毎年4回開催している「こども定期演奏会」もそうですが、次世代育成は僕のライフワークのひとつです。
若き音楽家たちへ一番伝えたいのは、失敗を恐れず、Knock on the Door(ドアをノックする)、とにかく行動してほしいということ。
音楽家として成功するには自分のパッション(情熱)が何かを見つけ出す必要があります。自分のパッションが何かを見つけ出すためには、いろいろトライしないとわかりません。やらないと、わからない。トライアル&エラー(試行錯誤)という言葉がありますが、トライして失敗しても、それを生かしてまた次にトライする。
欧米人に比べて日本人は特に、その行動力が圧倒的に欠けている気がします。世代もあるかもしれません。昭和の人は「当たって砕けろ」の根性が強かった。僕はギリギリ「1位以外みんな負け」という世代。負けると悔しくて、何が何でも1位になりたい。サッカーやってサッカーで1位になれないんだったら野球、野球で1位になれないんだったら武道って感じで、1位になりたい欲は強かった。1位になるためのトライアル&エラーです。自分に合った特技、自分が夢中になれる特技を見つけるまで、いろいろなことにチャレンジするのが好きだった。
今は1位じゃなくても6位でも表彰されるでしょう? だから、そこまで勝ちにこだわらない。無理に行動して失敗したくない。失敗が怖くなっちゃう。でもぬるま湯にいたら世界は広がらない。「失敗してもいいんだよ」って、「失敗からしか学べないんだよ」って自分の意識を大きく切り替えてもらいたいです。
失敗について好きなフレーズが2つあります。Don’t be afraid of failure(失敗を恐れない)、そして、Be ready to fail(失敗する準備をする)。アインシュタインだってエジソンだってそうでしょう。失敗に次ぐ失敗の連続で、何かひとつ成功を収めるわけです。歴史上、失敗なくして成功した人なんて、誰一人いないのですから。
音楽のルーツへの好奇心が音を深める
洗足学園音楽大学レパートリーオーケストラのコンサートで《ダフニスとクロエ》をやったのね。だから、僕、聞いたの。「この中に、ダフニスとクロエはいるの?」って。そしたら誰も手を挙げない。結局2カップルいたんだけど最初は誰も手を挙げなかった。誰も手を挙げないから、「じゃあ、好きな人がいる人は?」って聞いたら何人か恥ずかしそうに手を挙げて。「なんで告白しないの?」、「いや、なんか、ちょっと、できないです」みたいな感じ。
どうして告白しないの? 行動しないと時間の無駄でしょう? 告白して失敗したらトライアル&エラーで次に行けるでしょう? だから僕、言ったの。「来週のコンサートまで1週間あるから、その間に告白したら500円あげる」って。
1週間後、実際に何人か告白して、そのうち一人がうまくいったんです。「告白してよかった。ありがとうございました」って。他の人たちはうまくいかなかったけれど、「残念だけど、もういいじゃない。その相手は500円程度の価値しかなかったって忘れちゃいなよ」と言って、僕はみんなに500円あげました。行動すれば成功しても失敗しても次に行ける。失敗を恐れずトライすることが大切なのです。
このときは《ダフニスとクロエ》だったから、こんな提案をしたのですが、音を深めるという意味でも恋愛は大いに大切だと考えています。
学生さんたちは音を音として演奏することはできるし、最初のリハーサルからとてもきれいな音なのですが、音の深さが足りません。音を出すことがサーフェス(表面)だとしたら、ルーツ(根っこや土)に興味を持って学んで、それを音に反映させてほしい。ひとつひとつの音、フレーズ、メロディの意味に興味をもって、作曲家が音を通して伝えたいことをリスペクトして全力で音の意味を奏でる。
そのためには、作曲家が込めた思いや作曲家の人生、曲の背景や登場人物のことです。《ローマの噴水》を演奏するのに、オットリーノ・レスピーギが描いた噴水はどんな噴水なのか、せめてWikipediaでいいから調べてほしい。ローマに行ったことがなくてもいいんです。レスピーキは何歳でどんな状況で何を思って作曲したのか調べて想像をしてほしい。その好奇心がないと音楽になりません。
最初に「先生」と呼ばれるのは好きじゃないと言いましたが、先生、先生と呼んで、先生の指示を待つのは違うからです。先生が言うことを「鵜呑み」にしても自分の音になりません。好奇心をもって、自分で調べて、自分で想像して、自分の音を出す。そうして初めて、僕の指示が理解でき、時には僕とのディスカッションが成り立つわけです。学生さんが「私はこう思うのですが」と自分の解釈を意見してきたら、「おおー、そう来たかー」と僕もうれしくなります。
周りの意見は素直に吸収する
ただし、恋愛だけはWikiで調べてもわからない。恋愛して何がわかるかというと、「ときめき」です。ときめいたことのない人が恋愛のときめきを演奏できるかといったら無理。そして、「失恋」。失恋の苦悩や悲壮感、経験したことのない人には演奏できません。だから、恋愛をすると大いに音楽が変わります。だって音楽のほとんどは恋愛がテーマでしょう?
僕は中学生のときに最初のガールフレンドができて以来、シングルのことはほとんどありません。いつも誰かに恋してきました。失恋はひきずります。しつこいです。オーディションに落ちて「O.K.」「Thank you」「Good bye」と諦められるのは、僕が何をしても結果は変わらないから。恋愛だと、まだどうにかなるんじゃないかと思ってしまう。ま、だいたい二度目はうまくいかないですけれど……。
話を戻しましょう。音を深め音楽を作り上げるためには、作曲家の思いを汲んで自分の意見を持ってほしいと言いました。欧米にはディベート(議論)の授業があり、自分の意見を伝え、同時に相手の意見も聞き入れ、第三者の支持を得る方法を学びます。
音楽でも自分の意見を持ったら、それを人に伝え、同時に相手の意見も聞き入れるopen mindな姿勢が必要です。師事する先生がたはもちろん、ライバルや仲間たち、そしていずれ自分より若い人たちの意見にも素直に耳を傾ける。
僕も多くのマエストロに師事しました。意識的に違うタイプを選んでいたこともありますが、みなユニークで言うこともまちまちです。でも言われたことは全部、素直に吸収します。吸収して自分の身につけるか、自分には当てはまらないと考えるか、それはあとからの判断です。錚々たるマエストロが言ってくれることには何か理由があって、やってみるとわかるのですが、やはりそれは大体正しいのです。
こんな英語の表現があります。Take something with a grain of salt(塩粒をかけて何かを受け入れる)。「半信半疑で聞く、話半分に聞く」などと訳されますが、要は先生の話だからといって「鵜呑み」にしないこと。鵜呑みにしないけれど、Take something、吸収はする。塩粒をかけて自分の味にして吸収すればいいのです。
指揮者仲間から吸収することもたくさんあります。自分と違うアプローチの人、ポジティブなオーラを感じる人、会ってみたいな、話してみたいなと思います。山田和樹さん、鈴木優人さんも、そんな大切な仲間です。
失敗を恐れず行動すること。好奇心を持って音を深め自分の意見を持つこと。師事する先生がた、ライバルや仲間たちから多くを吸収すること。この繰り返しで音楽の幅がどんどん広がります。僕が今までも、そして今も、たえずやっていることです。
日時: 2023年2月19日(日)14:00開演
会場: サントリーホール
曲目: 小田実結子/Kaleidoscope of Tokyo(東京交響楽団委嘱作品/世界初演)、グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調op.16 ほか
共演: アレクサンダー・ガヴリリュク(ピアノ)、東京交響楽団
料金: S席7,000円、A席6,000円、B席5,000円、C席4,000円、P席2,500円
詳しくはこちら
日時: 2023年2月26日(日)14:00開演
会場: 所沢ミューズ アークホール
曲目: ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調op.11、マーラー/交響曲第1番ニ長調《巨人》
共演: 小林愛実(ピアノ)、読売日本交響楽団
料金: S席6,700円、A席5,800円、B席5,300円、P席4,600円
詳しくはこちら
日時: 2023年3月11日(土)14:00開演
会場: 東京芸術劇場コンサートホール
曲目: 吉松隆/鳥は静かにop.72、鳥たちのシンフォニア「若き鳥たちに」op.107、キース・エマーソン&グレッグ・レイク(吉松隆編曲)/タルカス、吉松隆/交響曲第3番op.75
共演: 東京交響楽団
料金: S席8,000円、A席6,500円、B席5,000円
詳しくはこちら
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