若き音楽家たちへ(後編)〜ルーティンとブランディング
音楽家としての原田さんをここまで押し上げてきた、とっておきのルールをご紹介します。それは「5つのルーティンと5つのブランディング」です。
人生を楽しむ5つのルーティン
僕はルーティン(習慣)を重んじていて、いくつか掲げていることがあります。なかでも、若き音楽家にぜひ伝えたいことを5つ挙げてみます。
まず、①Enjoy楽しむこと。人生、楽しめなければどうしようもないと思います。僕は、ポジティブ・スーパー・ハッピー人間だから、何をしていても楽しい。自分ひとりでいるときも、人と一緒にいるときも、仕事が忙しいときも、すごく楽しめる。楽しいとエキサイティングして張り切れるし、それが良い結果をもたらしてくれると実感しています。
それに繋がることですが、②Think positive、ポジティブ(前向き)に考える習慣はとても大切です。ネガティブ(後ろ向き)に考える人、不安がっている人は、自分にダメージを与えているだけ。そういう人は、連鎖的に悪いことを呼び込んでしまいます。もちろん誰でも人生にネガティブなことは起こります。成功する人は、そういうときに、ネガティブをポジティブにひっくり返す強さを持っています。失敗を失敗と思わず、良い経験をしたと次に向かうモチベーションに変えてしまいましょう。
それができると人生が好転します。コツは、③Change your perspective、視点を変えること。英語でトンネル・ビジョンといって、ひとつの方向、トンネルの先しか見られない人を指すのですが、そうなっちゃいけない。他のビジョンも必ずあるはずです。良い日もあれば悪い日もあると長い目で捉え、どんな方向からも自分の人生を見られる人になってください。
次は、④Take away distruction、邪魔なものは排除すること。紙に自分の人生の邪魔なものを書き出してみます。例えば、SNS、LINE、電話、テレビ、ダメな習慣。人間関係もやってみてください。ネガティブな人、この人は自分の人生に邪魔、要らないって。書き出すだけで、もうその人のことを考えなくなってきます。
こうして書き出した邪魔なものをとにかく排除すると、大切なものにフォーカス(専念)できます。音楽家だったら、携帯は切って練習にフォーカスする。僕は、FacebookもTwitterもInstagramもやっていますが、LIVE投稿以外、携帯でほとんど操作はしていません。SNSも仕事として捉えているから、パソコンを開いているときだけに時間を限っています。
Take away distruction、邪魔なものは排除する。これを若いうちに知っていれば、そのあとの人生がずいぶん楽になると思います。
5つ目は、⑤Count on yourself、自信を持つこと。もっと自分を信じて、自分の力に頼ってください。他の人はあなたの成功を作ることはできません。あなたの親友はあなたのためにピアノの練習をすることはできない。あなたのお母さんはあなたのためにコンクールに出ることはできない。あなたがコンクールで1位になったのは、他の誰でもない、あなた自身が頑張ったからです。もちろん他の人に頼ることはたくさんあるけれど、自分自身がやらなければならないことを人に頼っていてはいけないし、人のせいにしてもいけません。
ブランディングの5つのポイント
若き音楽家に、さらに具体的なメッセージを送るとしたら、あなた自身のブランディングについてです。今の時代、初対面といっても、そのときはファースト・インプレッション(第一印象)ではありません。3回目4回目ぐらいの感覚だと思います。
なぜなら、相手はあなたについて何らかの情報をネットから得ているからです。あなたの名前を検索したとき、あなたのホームページがなかったとしても、誰かが上げたあなたの画像が出てきたりします。それをコントロールできるのは、あなただけなんですよね。だから、ブランディングはとても大切です。
まず、あなたのブランドは何なのか。そのブランドのエキスパート(専門家)になることです。どういうふうに世間に見られたいか考えて、そのジャンルをリサーチする。クラシックアーティストとして知られたいのであれば、音楽と関係ない投稿は必要ない。自分のブランドに①FOCUS、焦点を当てるのです。
次に、②Establish presence、存在を確立すること。ネット上に自分のフレームワーク(枠組み)を作ります。メインにするページはURLも大切です。僕はホームページを、kharada.comで20年ぐらいやっていて、SNSもkharadaで統一したかったけれど、文字数が足りなかったりして統一できなかった。でもTwitterは日本人のフォロワーが多いから日本語で書く、FacebookとInstagramは英語で発信するなどフレームワークは確立しています。
まだホームページをつくるだけの材料がないという学生さんがブログをメインページにするとしても、できるだけ自分の名前がURLに入るようにしたほうがいいと思います。ホームページなりブログなりメインのページのブランディングを固めて、SNSで誘導するフレームワークが基本です。
これからのブランディングは?
僕がいつも言っていることなのですが、③ブランディングにおける3つのC、Clarity(明確性)、Consistency(一貫性)、Constancy(恒常性)も意識してほしいポイントです。ブランディングに大切なのは、経歴を大袈裟に盛ることではなく、自分はこうだ、こうじゃない、と明確にすること。そして、SNSによってキャラを変えたりせず、一貫性を持たせ、その設定に基づいてコンスタントに続けること。
3つのCを実行するためにも、④Be genuine、純正であること。つまり、等身大、自然体であることです。経歴を盛るのも見抜かれるし、無理にキャラクターを作ってもボロが出るし、そもそも続けることができないでしょう。
学生さんだと、まだブランディングができない、私には何もないと思うかもしれませんが、例えばフルート奏者だったら毎日30秒のフレーズを動画で上げる。それを1年続けたら、ものすごいブランディングになる。ヴァイオリニストのヒラリー・ハーンが毎日の練習を投稿するシリーズはとても素晴らしいと思います。最近話題になった若手演奏家をTikTokでフォローするのもとても楽しい。無理をしなくても、あなたはあなたの自然体で何かブランドを作れるはずです。
最後に、これはとても大切なことですが、⑤Live your brand、あなたのブランドを生きなさいと言いたいです。世間に見られたい自分と本当の自分を分けるのは、とても難しいと思います。できるのだけど、結局、それは世間に嘘をついたブランディングになるし、SNSを見ていた人が実際のあなたに会ったときにがっかりするかもしれません。
SNSのなかった時代はそれでも良かったと思うのです。華やかなハリウッドスターが実はアルコール依存症で苦労していたなんていう虚像と実像の話はいくらでもありましたから。でも、これからの時代、ブランドの自分と本当の自分を分けるメリットは、あまりないと思いませんか。
「○○さんに会ったらSNSとおんなじ感じだった」って思われるのが結局ファンを増やすことになります。そう投稿してくれたら、あなたが操作するブランディングよりずっと強力なブランディングになります。結局、いつの時代も人から人への口コミが一番強い、究極のブランディングなのです。
だから、Let other people tell your story(他の人があなたを語るときどう語るか)を考えます。僕はいつもちゃんとしたジャケットスタイルを心がけています。リハーサルでもよくネクタイをします。これはオーケストラの皆さんへ対するリスペクト。それが僕のブランディングであり、僕のスタイルだからです。
僕はこの連載の1回目で「なりたい人間になりなさい」と言いました。ブランディングというと、ブランディングのためのブランディングとして構えがちですが、こう考えてみてください。世間に見られたい自分、なりたい自分を思い描き、ネット上にEstablish presence、存在を確立し、その人生設計図に沿って生きていく。やはり連載1回目で紹介した、Keep planning(計画を立て続けること)の一環としてブランディングをする。
ブランディングは少し先の未来日記のようなものかもしれません。
日時: 2023年3月11日(土)14:00開演
会場: 東京芸術劇場コンサートホール
曲目: 吉松隆/鳥は静かにop.72、鳥たちのシンフォニア「若き鳥たちに」op.107、キース・エマーソン&グレッグ・レイク(吉松隆編曲)/タルカス、吉松隆/交響曲第3番op.75
共演: 東京交響楽団
料金: S席8,000円、A席6,500円、B席5,000円
詳しくはこちら
日時: 2023年3月28日(火)15:00開演
会場: 東京芸術劇場コンサートホール
曲目: ガーシュイン/組曲《ガール・クレイジー》より序曲、ヒナステラ/組曲《エスタンシア》より「マランボ」、エルガー/威風堂々、チャイコフスキー/《眠りの森の美女》より「ワルツ」ほか
共演: 東京交響楽団
料金: S席大人3,500円 子ども2,000円、A席大人2,500円 子ども1,500円
詳しくはこちら
日時: 2023年4月22日(土)17:00開演
会場: 横浜みなとみらいホール 大ホール
曲目: ドヴォルジャーク/チェロ協奏曲ロ短調op.104、吉松隆/交響曲第6番《鳥と天使たち》op.113
共演: ジョヴァンニ・ソッリマ(チェロ)、日本フィルハーモニー交響楽団
料金: S席8,000円、A席6,500円、B席6,000円、C席5,000円、P席4,000円、Ys席(25歳以下)1,500円
詳しくはこちら
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