音楽家はみんなアドレナリン・ジャンキー?
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
世界各地で続々とコンサートが再開されています。そんななか、まだ自粛期間中だった5月、とある外国人指揮者にお話を聞いたときの言葉が思い出されます。
「これまで何十年も、連日舞台に立ち聴衆から拍手を受け、ハイな状態が続く生活を送ってきた。今はそのルーティンから外れ、アドレナリンを失った日々が強制的にやってきた。それで思うのは、私たち音楽家はみんな、アドレナリン・ジャンキーだってことですよ、ハッハッハ」
アドレナリン・ジャンキーというパワーワードに衝撃をうけつつ、私は大学院生時代のある講義の課題のことを思い出しました。
それは、喫煙が人にもたらす影響がテーマで、「喫煙者が2週間禁煙して起きることを、日記の形で提出する。本人が非喫煙者の場合は、誰かに禁煙させる」というものです。
私はタバコを吸わないので、当時のバイト先の大学生に禁煙してもらいました。今思えばよく引き受けてくれたと思いますが、ちょうど禁煙してみてもいいと考えていたらしく、ノリノリでやってくれました。彼は、禁煙中のイライラや、一方で食事が美味しくなったという感想を丁寧に記録した末、2週間を終えるとあっさり喫煙を再開。そしてそこには、久しぶりにタバコを吸ったときのガツンとくるめまい、不快感、しかし、ほどなく落ちつき、いっそう心地よくなっていく感覚も記されていました。
……喫煙習慣と比較するのは不適切な気もしないでもありませんが、でも、私はふと、通じるものがあるのではと思ったのです。
つまり、音楽家のみなさんは長い自粛期間を経てアドレナリンが抜けきったあと、久しぶりに舞台に立ち、熱狂する聴衆の大喝采を受けたらどうなってしまうのだろう。体がショック状態になるのでは? ということです。
その問いかけに、某指揮者さんはこうおっしゃいました。
「そうかもしれない。でもそのショックをすごく楽しみにしている。今私は、落ちつく時間の大切さを実感している。そのほうが、ハイになる瞬間がより特別になるだろうから」
某指揮者さんが久々に公演に復帰したという報を見て、実際どうだったのかまた聞いてみなくては、と思う今日この頃です。
アドレナリンが出がちな音楽の筆頭? ワーグナーの「ワルキューレの騎行」
※車の運転中に聴くのを避けたほういい音楽の第1位に(イギリスの研究機関、RAC財団の資料より)
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