冬の京都の寺に現れた小悪魔の思い出と、幻想的な詩に着想したラヴェルのピアノ曲
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
旅に出られない今日このごろ。去年の今頃、寒い冬の京都を旅行したなぁ……と写真を見返していて、思い出した出来事があります。
京都の左京区にある禅林寺、「永観堂」の通称で知られるお寺を一人でふらりと訪ねたときのこと。
こちらは「みかえり阿弥陀」として知られる、首を横にひねった阿弥陀如来像が有名なお寺です。この阿弥陀さまにまつわる言い伝えは、「底冷えのするある日、念仏をあげていた僧侶・永観の前で、突然、阿弥陀さまが行道をはじめた。呆然とする永観を振り返り、阿弥陀さまがおそいと声をかけた」、慈悲深い姿を今に伝えている、というもの。
その姿は、自分より遅いものを待ち、愛や情けをかける姿勢、自分の位置を省みる姿勢などとして捉えられているそうです。
そんな、みかえり阿弥陀さまを眺めていたときのこと。
たまたま近くに、真っ赤なスカートを履いた派手めの女性と地味めの男性という、熟年のカップルがいまして。冬のお寺の床って、ものすごく冷たいじゃないですか。私は必ず厚手の靴下を持参するようにしているんですが、それでもしーんと冷たさが伝わってくる。
そのときおもむろにこのカップルの女性、男性の足の上に、ストッキング履きのつま先を、ペタっとのせたんですよ。足が冷たかったんでしょうけど、なかなか大胆な冷え予防策。
すると男性が寂しそうに、こう言ったんです。
「またそうやって足乗っけてー。まぁ、ケイコちゃんはこういうとき男の人みんなに足乗せてるんだもんね」
すると“ケイコちゃん”はウフフと笑って、否定しません。嫉妬を泳がせるわけです。
……みかえり菩薩さまの目の前に小悪魔が現れた! 一人静かに戦慄するわたくし。
「ひどいなぁ」と呟きつつ、手をとって歩いてゆく男性を横目に、こういった小悪魔的女性に振り回されることを喜びとする男の心情を思いましたね……。
*
で、話は変わりますが、小悪魔といえば、ラヴェル「夜のガスパール」の「スカルボ」です。
フランスの詩人、ルイ・ベルトランの詩集から着想を得て書かれた作品。小悪魔が飛び回るさまを表現しています。
多くのコンサートが中止になった去年、思えば私がこの曲を唯一生で聴いたのは、2020年2月中旬、イーヴォ・ポゴレリッチのリサイタルでした。ぐっと引き込まれ、「このままだとどこかに連れていかれる!」とハッとし、気づくとすごい手汗をかいていたあの感触が、今もまざまざと思い出されます。
ラヴェル「夜のガスパール」の第3曲「スカルボ」/ピアノ:イーヴォ・ポゴレリッチ
日時: 2021年3月6日(土)19:00開演
会場: サントリーホール
曲目:
ショパン/3つのマズルカ op.59
ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
幻想曲 ヘ短調 op.49
子守歌 変ニ長調 op. 57
ポロネーズ第7番 変イ長調 op.61「幻想ポロネーズ」
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