読みもの
2021.11.12
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第86話

クリスチャン・ツィメルマンが後進のショパンコンクール入賞者にアドバイスすること

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

メイン写真:クリスチャン・ツィメルマン(ピアニスト)©Bartek Barczyk

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もうすぐ来日公演が行なわれる、クリスチャン・ツィメルマンさん1975年のショパン国際ピアノコンクール優勝者です。

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当時まだ18歳。ポーランド自国のコンテスタントとしての期待、自由な活動が難しかった社会主義時代ならではのプレッシャーを抱えながら、みごと頂点に輝いた形です(この時代のポーランドの若く優秀なピアニストたちが抱いていた心境については、今回審査員をつとめたヤブウォンスキさんがインタビューで詳しく語っています

実際、300名近くが応募した国内オーディションを通過し、コンクールに参加できたのはたった6名だったといいます。ショパンコンクール出場に至った経緯、優勝時の心境などは、『ピアニストが語る!』第1巻(焦元溥著、森岡葉訳/アルファベータブックス)にありますので、ぜひ。「興奮して飛び上がって、天井に頭をぶつけるほどだった」って。あのツィメルマンさんが!

そこから堅実に演奏活動を続け、独自の哲学を貫き、ショパンに限らず幅広いレパートリーで認められる巨匠となりました。

クリスチャン・ツィメルマン トップトラック

それで、私が興味深いなと最近改めて思っているのが、ツィメルマンさんの後進との関わり方です。

ツィメルマンさんは表向き、弟子をとっていません。そしてショパンコンクールの審査員もつとめていませんが、2010年第16回から新設された特別賞である「ソナタ賞」のプレゼンターではあります。今回ソナタ賞を受賞した第2位のアレクサンダー・ガジェヴさんは、ツィメルマンさんから直接電話をもらってとっても嬉しい! と話していました(ちなみにガジェヴさんのザルツブルク・モーツァルテウム時代の恩師パヴェル・ギリロフさんは、ツィメルマンさん優勝時の第4位。縁があるものですね)。

ソナタ賞を受賞した第2位のアレクサンダー・ガジェヴが弾く、ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 「葬送」 Op. 35 ※頭出ししています

ツィメルマンさん以来30年ぶりのポーランド人優勝者となったラファウ・ブレハッチさんは、ツィメルマンさんから長い音楽家人生によせるアドバイスをもらったといっていました。優勝直後、年間20回以上のコンサートを入れないようにすること、レパートリーをショパンに限らず広げていきたいということを語っていましたが、これも彼の助言に基づくものだったと思われます。ブレハッチさんの家に取材に行ったとき、あちこちにツィメルマンさんの写真が飾られていたのが印象的でした……今はわかりませんが。

ラファウ・ブレハッチのトップトラック(バッハの再生回数がショパンより多いです)

チョ・ソンジンさんは、優勝後の日本ツアー中に初めてツィメルマンさんと対面して以来、彼が契約やコンサート活動について「すべきこと、避けるべきことを、まるで父親のようにアドバイスしてくれる」と話していました。

全然泣くことがないという話になったとき、最後はいつ? と聞いたら、「ツィメルマンさんから初めてメールをもらったときかな」なんて言っていましたね、本当か嘘かわからないけれど。

筆者がチョ・ソンジンにインタビューした記事(ユニバーサルミュージック)

ソンジンさんもまた、この6年はショパン以外のレパートリーの拡充につとめ、録音もモーツァルトからドビュッシー、ベルクまで幅広いものをリリースしてきました。

チョ・ソンジンのトップトラック(ドビュッシーがもっとも多く再生されています)

ツィメルマンさん、最近ヨーロッパのジェネラル・マネージャーとのトラブルを公表したばかりだったりしますが、ご自身が苦労することも多かっただけに、若者へのアドバイスに熱心なのかもしれません。

今度の来日公演で演奏するのは、バッハのパルティータ第1番&第2番、ブラームスのOp.117、そしてショパンのピアノ・ソナタ第3番という、トラディショナルで幅広い素敵なプログラム。楽しみです。

公演情報
クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル

日時・会場:

2021年11月14日(日)柏崎市文化会館アルフォーレ

2021年11月17日(水)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ

2021年11月19日(金)水戸芸術館

2021年11月21日(日)ふくしん夢の音楽堂

2021年11月23日(水・祝)やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)

2021年11月30日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール

2021年12月4日(土)所沢ミューズ アークホール

2021年12月8日(水)サントリーホール

2021年12月9日(木)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

2021年12月13日(月)サントリーホール

 

 

曲目:

J.S. バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825
J.S. バッハ:パルティータ 第2番 ハ短調 BWV 826
ブラームス:3つの間奏曲 Op. 117
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op. 58

 

詳細はこちら

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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