読みもの
2022.02.04
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第98話

ショパンコンクール入賞で日本のスターになったパイオニア、中村紘子さんの話

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

©Hiroshi Takaoka

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ピアニスト、中村紘子さんの評伝『キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶』(集英社)も、2018年の刊行から4年が経ちました。

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改めて読むと、自分で書いたものとはいえ、そのときの状況で感じること、考えることもかわります。紘子さんの人生自体がものすごいので、私の書き手としての腕前はともかく、ただ振り返るだけでも盛りだくさん。加えて、今の社会や音楽界への問題提起をしようという視点からまとめてあります。

個人的には、庄司薫さんとの新婚生活やカレーのCM出演とフェミニズムに関しての分析が、いい感じだと思いますね(自分でいう)。あと、担当調律師さんたちのビビりエピソードも好き。

中村紘子さんは、いわばショパンコンクール入賞で日本のスターになったパイオニア的存在です。評伝中ではもちろん、彼女のコンクール挑戦にまつわる話にも言及しています。

ポーランド人審査委員長のもと学んで準備をし、アルゲリッチの振る舞いを目の当たりにして、ただピアノを弾けるだけではだめだ! と痛感し、入賞後は日本のメディアで引っ張りだことなって方向性の決断を迫られる、という。

もう半世紀以上前のことだというのに、今の音楽界と通じる話がたくさんありますね。

中村紘子さんが弾くショパンの「ワルツ第6番 変ニ長調 作品64-1」

さらにいうと、中村紘子さんの母・曜子さんが、コンクール直後の「音楽の友」で評論家の野村光一さんとの対談で話しているこの言葉とか、今読み返したら、えっ、てなりませんか?

「昔ながらのショパンとは違う、バリバリ弾くようなスタイルの演奏に聴衆が盛り上がり、ポーランド人の昔ながらのスタイルにはあまり拍手が出ない。1位と2位の2人は、ショパンの音楽をすばらしく弾いたというより、ピアニストとして非常におもしろかったのだと思う」

ちなみに、このときの1位はアルゲリッチで、2位は今回の審査員をつとめたモレイラ=リマさんでした。ずっとこういう議論を続けてきているわけですよ(というより、そもそも、ピアニストのお母さんが「音友」の誌面で対談をして、この内容を話しているところがすごいけど。このお母さまについても、評伝では軽めにご紹介しています)。

また、紘子さんがコンクールの審査員の立場となってから語った言葉、これからの日本のピアノ界について語った言葉も、今こうしてコンクールでの日本人の快挙が話題になり、しかし、またしても“優勝”は中国系だったという現状を思いながら読み返すと、いろいろ考えさせられます。

今回のショパンコンクールの結果や日本人ピアニストたちの活躍について、もしご健在だったらどんなコメントをお出しになっていただろう。

そして、評伝の中でインタビューに答えてくれているチョ・ソンジンさんのスターぶりといい、かなり若い頃から目をかけられていた牛田智大さんの変わらぬ人気ぶりといい、すっかり世界に羽ばたいている藤田真央さんといい、やっぱり中村紘子さんの先見の明はすごかったと思いますね。

機会があれば、ぜひお読みください。

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高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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