音楽ことばトリビア ~ドイツ語編~ Vol.4

白い娘はべっぴんだ! おいらチューしたい!!

読みもの
2019.02.09
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イラスト:本間ちひろ
升島唯博 声楽家
升島唯博
升島唯博 声楽家
広島出身。エリザベト音楽大学卒業後、2001年渡独。デトモルト音楽大学修了。リューベック音楽大学、同大学院を首席で修了。オイレギオ国際コンクール優勝。08年にブレーメ...

Weiß ist schön, ich muss sie küssen!

ヴァイス・イストゥ・シェーン、イッヒ・ムス・ズィー・キュッセン!

白い娘はべっぴんだ! おいらチューしたい!!

これはモーツァルト最後のオペラ《魔笛》に登場する、宮殿の奴隷頭のモノスタトスが歌うアリアのなかの一節。夜の女王の娘パミーナに焦がれ、自分のものにしたいという想いを歌っている。

ここでの「Weiß(ヴァイス):白」は「白い肌の女の子」の事を指しており、「muss(ムス)」とは本来「~しなければならない」、つまり「küssen(キュッセン):キス」しなければならない、というのが直訳になる。

 

このオペラのなかには、ソリストだけでテノールが4人もいる。とはいえ、この4人のテノールはそれぞれ別の音色を要求されている。

ドイツの劇場では、「Der Handbuch der Oper(オペラ・ハンドブック)」という本に基づいた声種分けが徹底されている。この本には、どの役が、どの声質で歌われるかが明確に記され、歌手も自分の声質を正確に把握し、声に合った役を歌うのである。

この本によれば上記の4人のテノールは、

タミーノ → リリックテノール

僧侶1 → テノール

モノスタトス → シュピールテノール、もしくはキャラクターテノール

鎧の男(武士)1 → ヘルデンテノール、もしくはキャラクターテノール

と分類されている。

僧侶1のテノールとだけ記されている役は、テノールであればどの声質でも歌って大丈夫、という感じだ。

私自身はシュピールテノールだ。シュピール(Spiel)とは「演ずる/遊ぶ」などの意味があり、たくさんの演技やセリフがある役どころである。オペラ・ハンドブックによると、シュピールテノールの声質は「軽く、キャラクターをよく表すことのできる声」となっている。

歌劇《魔笛》~モノスタトス(シュピールテノール)のアリア
フェリー・グルーバー(テノール)

歌劇《魔笛》~タミーノ(リリックテノール)のアリア
フリッツ・ヴンダリッヒ(テノール)

なぜこのように細かく声種が分かれているかというと、その役のキャラクターを示したいというのも理由のひとつだが、オペラではその声に合わせたオーケストレーションがされているのである。

私のシュピールテノールは「軽い」声なので、オーケストラもそんなに分厚い音量で弾いていない。オペラ歌手はマイクを使わず自分の発する声だけでオーケストラを超えていかなければならないので、役にあった声でなければバランスがとれないのである。

私のシュピールテノールと対極になるのが「ヘルデン(英雄)テノール」である。ワーグナーのオペラに度々配役されているこの声種は物凄い音量のオーケストラの鳴り響くなか、それを凌ぐ程の大きな声、もしくは突き通す声が要求される。上にも書いたが、それを生の声で行なわなければならないので、生まれながらの体つきや、なおかつ確実な研鑽が必要となってくる。

ワーグナー:歌劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》~ヴァルター(ヘルデンテノール)「朝はバラ色に輝いて」
ヨナス・カウフマン(テノール)

話は最初に戻るが、「küssen:キスする」という単語は今日でも日常的に使われる。ドイツ語の「ü」を発音する際には唇を前に突き出した形になる。日本語でも「チュー」と言いながら唇を突き出しているのを見たことがある。あれと同じである。

20世紀ドイツのデザイナー、建築家ペーター・ベーレンス作の木版画「Der Kuss(接吻)」(1898)
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