音楽ことばトリビア ~ドイツ語編~ Vol.6

きっとうまくいく!

読みもの
2019.02.23
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イラスト:本間ちひろ
升島唯博 声楽家
升島唯博
升島唯博 声楽家
広島出身。エリザベト音楽大学卒業後、2001年渡独。デトモルト音楽大学修了。リューベック音楽大学、同大学院を首席で修了。オイレギオ国際コンクール優勝。08年にブレーメ...

Toi, Toi, Toi!

トイ、トイ、トイ!

きっとうまくいく!

オペラ公演初日の楽屋。机の上には共演者からのプレゼントが置かれています。楽屋のドアを開けて舞台袖への廊下を歩いていると、共演者や指揮者、演出家などと会います。そこで交わされるのがこの「Toi, Toi, Toi(トイ、トイ、トイ)」です。

お互いの目を見合い、そしてハグをし、相手の左肩に自分の顔が来る体勢で言い合います。この「Toi, Toi, Toi!」のかわりに3回唾を吐く真似をすることもあります。同じ体勢で「トゥッ、トゥッ、トゥッ!」とします。

これは、つばを3回吐いて、人の幸せや成功を妬む悪魔(Teufel:トイフェル)を追い払うための「魔除けのつば吐き」の習慣がもとになっています。つばは衛生的に良くないので、代わりに悪魔(Teufel)の頭文字を3回トイ、トイ、トイと唱えるようになったのだとか。

共演者からのプレゼントは「Premierengeschenk(プレミエーレンゲシェンク)」と呼ばれ、普段は5~6公演あるうちの初日に、共演者にプレゼントします。コメントを書いた小さな紙にこれまた小さなチョコなどを添えて置いてあることが多いのですが、そのオペラのコンセプトに沿って作られることも多々あります。

筆者がもらったプレゼントや贈ったプレゼント

ウルマン《アトランティスの皇帝》(ハンブルク州立劇場)の出演者からのプレゼント(上)。筆者の出演した一場面では、リンゴをおでこに乗せているので自分のプレゼントはリンゴ。
オッフェンバッハ《天国と地獄》(ハイデルブルク歌劇場)マーキュリー役。衣装に翼がついていたので、「Red Bull、翼をさずける」のフレーズで有名なRed Bullをプレゼントにした。

「トイ、トイ、トイ!」は演劇やオペラなどの世界で使われるのが通例ですが、今では一般的にも使用されています。例えば試験の前に「頑張って!」という意味で。

しかし、舞台人のあいだでは、このあとに「Danke! (ダンケ!):ありがとう」と言ってはいけないというルールがあります。「Es wird schon schief gehen.(エs ヴぃrt ショーン シーf ゲーエン):きっと失敗するよ」などと返します。

ありがとう、と言うとGlück(グリュック):運が逃げる! と言われます。私が一番最初に言われたときはDankeと返してしまったので、もう一度Toi, Toi, Toi! を繰り返しました。

日本では「人」という字を掌に書いて飲み込みますが、こちらは自分専用。共演者がいる場合は、是非「トイ、トイ、トイ!」と言い合ってみてください。

モーツァルト《フィガロの結婚》(リューベック音楽大学)のために筆者が共演者に用意したプレゼント。自分の役が蛇の衣装だったので、蛇の絵と蛇っぽいグミを贈った。
ノルガルト(1932-)《神々しいチボリ》(リューベック歌劇場)筆者のプレゼントは左上の茶色い袋で、オペラの中に電車に乗るシーンがあり、結構揺れるので嘔吐エチケット袋(Spuckbeutel:シュプックボイテル)を模した物を製作。これはドイツの飛行機の中に常備されている物を参考にして作った。
モンテヴェルディ《ウリッセの帰還》(ミュンスター歌劇場)いくつかの役を兼任したが、マフィアの役もやったので、右下のユーロのチョコとメモ用紙。
オッフェンバッハ《盗賊団》(ミュンスター歌劇場)初日の前日に自宅で大量に作るプレゼント。
オッフェンバッハ《盗賊団》(ミュンスター歌劇場)では自分の役名が「イチゴちゃん」という名前だったので、イチゴのグミとメモ用紙。
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