読みもの
2020.09.09
教育音楽アーカイブ〈連載〉レッツ・コーラス!~心が通う授業づくり~

部活も合唱コンクールの準備もスタート。「いよいよレッツ・コーラス⁉」

数々の合唱コンクールで生徒を栄誉に導いている府中市立府中第四中学校・横田純子主幹教諭の大人気連載「レッツ・コーラス!~心が通う授業づくり~」。その中から、合唱コンクールへの取り組み方、合唱部のモチベーションを維持させる方法などを教えていただいた第17回の記事をご紹介します。

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全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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音楽系部活の顧問にとって何より大きいのは「コンクールがない」こと!初任の頃からかれこれ◯十年、一度も欠かさずコンクールに出場してきたので、何となく空虚な……こんな夏は初めてです。

思いが伝わるように

1学期は例年とは違う歌唱の授業でした。言うなれば、歌唱を愛好する気持ちを育てることに重きをおいた授業であり、口の開け方など「発声」の指導はできていない。そんな中でも取り組んだことへの評価はしなければならないので、1年生は校歌、2年生は『翼をください』、3年生は『花』(それぞれ1番だけ)で実技テストを行いました(3人がディスタンスを取って並び、待機する生徒は別室で課題に取り組む)。

生徒には「思いが伝わるように一生懸命歌って」と伝えました。今回は、評価の項目に「口の開け方」や「声量」などを入れず、それ以外の、例えば「音程が取れている」「正しいリズムで歌える」などを対象に。そのことは生徒にもあらかじめ伝え、納得した上で臨めるようにしました。

生徒の心配を取り除くためにも、私はできるだけ離れた位置で聴き、伴奏も普段は生演奏ですが、今回は電子ピアノに録音して生徒自ら再生ボタンを押すとイントロが流れ出す……それに合わせて歌う形にしました。だから、伴奏に乗ってタイミングよく歌い出せるかどうか、「音楽の立ち上がり」も評価項目の一つです。ボケっとしていたら入れません(笑)。このように「声量」に代わる評価項目をいくつか設けてテストをしました。そもそも、歌唱で「思いを伝える」ときに必要なのは、「声量」だけではないですよね? この機会に、そういうことにも気付かせられたら……。

2学期は1学期に取り組めなかった発声の基礎、特に呼気の使い方や共鳴のさせ方、そういうことを少しずつ取り上げていきたいです。

細く・長く

合唱コンクールは来年3月に開催予定ですが、計画通り実施できなくても、学年ごとの発表会に切り替えるなどの心づもりはしています。生徒たちにも「コンクール」というゴールを意識させ過ぎると、流れてしまったときのショックが大きいので、まずは「合唱に入るよ!」「イエーイ!」と軽く盛り上げてスタートしようかと。

例年は本番の2カ月半前から取り組み始めますが、今年は9月に選曲をして、そこから細く・長く、時間をかけて。もちろん合唱をやるのではなく、間に鑑賞や気学・創作をはさみながら断続的に取り組みます。どんな事態にも備え、どう転んでもいいようにということはもちろん、3年生が受験で忙しくなる前に進めておきたいという事情も。あまり遅いと、指揮者や伴走者が立候補しない可能性があります。

実際、早速相談にきた生徒がいました。「先生、合唱コン3月ですよね? ピアノ……」と言い掛けたので、すかさず「今年で最後だね! 楽しみにしているよ!」と答えたら、「受験と被るのでどうしようかと」……ガーン!(;∀;)みたいな。

ともあれ、まずは課題曲から始めます。課題曲を設けられなくなるかもしれないけれど、やはり「学年みんなで歌える曲」はあった方がいいので「学年の曲」として取り組みます。曲目は1年生『春風の中で』、2年生『地球の鼓動』、3年生「大地讃頌』です。

●練習の方法

例年は音楽室内でパートに分かれて練習していますが、今年はパートごとに部屋を割り当てて、1パート10人くらいで……と考えています。そうすればかなり広々と使えますよね。ただ、これまでのようには目が行き届かないので、自分たちできちんと進められるように、事前の「仕込み」は必須です。

 

そもそも生徒の気持ちが大事であり、ピクビクしながら歌っても楽しくない。少人数で広がって……であれば、思い切って伸び伸び歌えますよね。その環境を整えてあげること、そして練習の時間を長くしないことに留意します(その分、長い期間をかけるので)。

●選曲

ずばり、すごく魅力的で、かつ難しくないものがいいですね(笑)。3年生にもなると、合唱が好きな生徒はいろいろな曲を知っているので、自分のイチオシを持ってきてくれます。例年はそれもOKにしていましたが、今年は難曲を避けさせたいです。そうは言っても、やはり3年生は混声四部合唱の方が歌いやすい。しかも3月の開催となると男子の持ち声・音域も広がっているのでなおさらです。それに、テノールとバスに分かれればパートの人数も半分に減ってディスタンスも取りやすいですよね。

 

ただ、取り組みやすい混声四部の曲が少ないのが悩みどころ。理想は前半がユニゾン、後半で分かれるような曲ですが、なかなかあまりありません。そこで、奥の手として混声三部の曲の一部分にバスを追加するという手も、場合によってはありだと思います。あくまで音楽の授業に限ったことで、和音を変えるなどはせずに。

後輩に何を残せるか

部活動は授業以上に地域による差が大きいと思いますが、とにかく今は「目の前にいる生徒を大切にしたい」という気持ちでいます。他県の情報が入ってきたり、噂が聞こえてきたりすると、つい比較してしまいますが、自分の地域の実情をきちんと捉えて、自分の生徒たちのことを一番に考えることが、今は一番大事だと思います。無用な比較や焦りは禁物!

本校の合唱部は、文化祭のために生徒会が急遽企画した「文化発表会」(9月末)に向けて活動しています。3年生はそこで引退する予定です。感染予防対策を徹底しながら活動する日々、マスクを外して歌ったのはわずか2回ほど。1回は運動部の隙間に校庭で、もう1回は武道室で歌いました。コンクールでは難曲にもチャレンジしますが、今は純粋に「音楽が楽しい」と思えること、そして「自分の声がきれいになった」と成長を喜べる時間にしたい。そう思っています。

でも私の心配をよそに、部員たちは本当によく頑張っています。「文化発表会」が決まったのはつい最近のことで、それまでは本番が一切ない状況で活動していたわけですが、にもかかわらず「来週コンクールだっけ?」と思うほどのものすごい集中で、16時になったらさっと集まって普通に部活をやっている。特に3年生は頼もしく、立派です。

私は、ある生徒の言葉が心に残っています。彼は気丈にも「僕たちに本番はないけれど、後輩に何を残せるかっていうのが、今年の僕たちの役目になった気がする」と。その言葉はうれしかったです。前を向いて歩く生徒に感謝です。

(7月時点)

――「教育音楽 中学・高校版」2020年9月号
連載「レッツ・コーラス!~心が通う授業づくり~」第17回より/横田純子(東京都府中市立府中第四中学校主幹教諭)

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