読みもの
2023.01.06
連載「教師の悩み相談室」

力のある先生に目を付けられ、事あるごとに批判を浴びてつらい

学校に一人が当たり前の音楽科教員。「授業がうまくいかない」「相談しようにも誰にも言えない」など、教師を取り巻く悩みは尽きません。そんな教師の悩みを知り尽くした明治大学の諸富祥彦教授に、教科教育を超えた悩みに答えていただく『教育音楽』のご長寿連載「教師の悩み相談室」。今回は、影響力のある学年主任に目を付けられてしまい、さまざまなところで批判されて追い込まれている、という悩みをご紹介します。

諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

「教育音楽」編集部
「教育音楽」編集部  授業・行事・部活にいきる音楽教師の応援マガジン

全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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校内で影響力のある学年主任に目を付けられてしまいました。事あるごとに私の良くなかった点を話題にし、周りの教員を巻き込んで批判してきます。私なりに歩み寄ってみましたが受け入れてもらえず、むしろエスカレートしてきて悩んでいます。

この人に嫌われると孤立無援 誰も味方をしてくれない

ご相談者の先生は、今年度から音楽専科として小学校に赴任された女性です。とても影響力のある学年主任の先生から職員会や学年会、音楽会の慰労会など、さまざまなところで批判され、追い込まれている状態です。管理職もこの状況を認識しているのに「専科なんだから担任とうまくやるように」と説得されて終わり、だそうで、とてもつらい状況だと思います。

管理職も校内で影響力のある先生とうまくやらないと、学校運営が立ち行かなくなるので、その先生には気を遣います。他の先生も「あの先生を敵に回したら、この学校にいづらくなる」と嫌われないために、その先生の味方になってしまうのです。異動したばかりの管理職などは、力のある先生の中心派閥に「あの管理職はダメだ」とレッテルを貼られたら、とても仕事がやりづらくなります。校長でさえないがしろにされ、何の実権も持てなくなってしまうのです。

学校内には誰もこの中心人物に歯向かうことができない雰囲気が出来上がってしまいます。この人に嫌われると職場の中で孤立無援、誰も味方をしてくれない状況に陥ってしまうのです。

中でも、音楽専科や養護教諭、スクールカウンセラーのような、いわゆる「一人仕事」の担当教科で徒党を組む相手がいない弱い立場の人がその先生ににらまれてしまうと、とても仕事がやりづらくなります。全てが弱い立場にいる先生の責任になり、ただでさえマイノリティーな立場なのに、ますます追いやられていきます。

私が聞いた悲しい事例では、ある学校のスクールカウンセラーが力のある先生に目を付けられ、周りの先生に「あいつは仕事ができないダメな奴だから相談を回すな」という指令が下り、相談件数ゼロに追い込まれたそうです。カウンセラーはただ部屋にいて待機するだけの1年間を過ごすこととなり、教育委員会への報告もゼロ件になって翌年は恐らく解雇です。音楽の先生は授業があるのでそこまでひどいことはないと思いますが、批判のターゲットにされるのは非常に居心地が悪いはずです。

正面激突はつぶされるだけ 横歩きをしてみよう

では、どうすればいいのか。まず一つ目のアドバイスは「正面激突をしない」ことです。それはウサギがライオンに挑みかかるようなものです。瞬く間につぶされ、さらにきつい目に遭ってしまいます。「音楽専科の先生がとんでもないことを言い始めた」と周りの先生に言い付けるに違いなく、その結果ますます立場が悪くなります。

二つ目は、正面だけでなく後ろからも斜めからも激突しない、戦わないこと。横に歩くのです。前からぶつかるとつぶされる、後ろに下がると消えて行かざるを得ないので、横に歩くような生き方をする。分かりやすく言うと「人畜無害な先生とつるむ」のです。

子どもたちの社会と同じですが、学級の中には必ずボス的な存在の子がいます。ボスには取り巻きがいて、ボスに逆らえない周辺グループがあります。いわゆるスクールカーストです。しかしよく見ると、どのグループにも属していない無派閥層もいるのです。

影響力のある先生の子分格は、相談者の先生に対して批判的です。一見「全員が自分の敵」のように思えてしまうこともあるでしょう。しかし、どの学校にも学校の勢力分布にあまり関心のない人畜無害な先生が必ずいます。そういう先生と徒党を組むのではなく、単に仲良くなって、ときどき「お互いよくやってるよね」などと声を掛け合い過ごすのです。

正面激突もしない、新たな派閥をつくらない。反対派閥にしろ、中心派閥にしろ、派閥に関わっていいことは一つもないです。ただ人間は弱いものなので、孤立したまま頑張り続けるのは不可能です。だからこそ、横歩きをしながら、とりあえず一緒にいられる人を見つけることがとても大事なのです。

そうこうしているうちに……できれば半年ぐらいで起きてほしいですが……学校には3月末に人事異動があります。主流派の中心メンバーが異動になることもあるでしょう。そうすると次第に主流派が崩れていき、勢力が弱まります。もしかすると、この学年主任の先生が突然いなくなるということもあります。そうしたらラッキーですよね。

鬱になることが一番怖い ひどい場合は早めの相談を

以上のアドバイスは基本路線ですが、あまりにひどい場合は横歩きでつながった先生の力を借りるなどして、きちんと相談しましょう。この連載でも何度かお話ししている「援助希求」です。助けを求める仲間がいるということはそういう意味でも大事です。

私の教え子の場合は、新人のときに校内で一番影響力があり、信頼も厚いある先輩教員に目を付けられ、ひどい悪口を言われていました。「おまえは何で仕事が遅いんだ」「なぜすぐに帰るんだ! どうせデートでもしているんだろう」「仕事が遅いんだから土日も学校に来て仕事をしろ!」と罵り、校長にも悪口を言い、別の学校に飛ばそうとしていたようです。

教え子はうつ病になりかけていましたが、ある先生が見るに見かねて校長に相談してくれたのです。その先生は横歩きをしている中で仲良くなった先輩でした。ふたを開けてみると、教務主任が異動になり、この教え子は今でも生き生きと教師生活を頑張っています。

どうしてもひどい場合は、ハラスメント委員会に相談に行きましょう。各県の教育委員会に窓口があります。今は気軽に利用する人も多いようです。早めに相談するといいアドバイスがもらえるかもしれません。

先の見通しが立たず、「永遠にこの状態が続くのか」と鬱状態になってしまうことが一番怖いです。いざというときの最終的な対処策を知っておくだけでも気持ちが楽になると思います。

諸富先生からの一言

まずは「横歩き」をして、一緒に安心して過ごせる「無派閥の先生」を見つけましょう。二人でつるんで、そうこうしているうちに人事異動などで学校の勢力分布が変わるのを待つのです。あまりにひどい場合は人権問題にあたるのではないかと指摘しましょう。仲良くなった先生に頼んで校長に掛け合ってもらう、ハラスメント委員会に相談に行くなど対策を講じましょう。今の状態が永遠に続くことは決してありません。「出口」は実は近くにあるのかもしれません。

――『教育音楽 小学版』2020年2月号 連載「教師の悩み相談室」より/諸富祥彦(明治大学教授)

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諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

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