「マンフレッド」ってだれ? チャイコフスキーの交響曲とシューマンの序曲に登場するあの人
チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、シューマンの「マンフレッド」序曲に登場するマンフレッド。演奏される機会の多い曲だけれど、そもそもマンフレッドって……誰?
元ネタは、18世紀のイギリスの詩人、バイロン卿の詩劇『マンフレッド』。人間ならざる力をもつマンフレッドは、精霊を召喚して「あるもの」を欲するが……? 原作を読むのがちょっと億劫なあなたも、これでわかる「マンフレッド」!
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
今なら読める! 入手困難だった「マンフレッド」原作
「マンフレッド」を題材にした名曲といえば、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、あるいはシューマンの「マンフレッド」序曲。人気曲とまでは言わないものの、どちらも録音や演奏機会にまずまず恵まれた作品である。
ただ、ひとつ困ったことがあった。両曲で題材となっているバイロンの詩劇「マンフレッド」がどんな話なのか、いまひとつわかりにくい。たいていの場合、曲目解説に「マンフレッド」のあらすじが書いてあるわけだが、読んでもピンと来ないことが多い。バイロンの原作を読もうにも、邦訳は岩波文庫にしか見当たらず、これが長らく品切状態で入手困難だった……が! 朗報である。岩波文庫の「2019年春のリクエスト復刊」で、めでたく『マンフレッド』(バイロン著/小川 和夫)が復刊し、容易に入手できるようになったのである。これで、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」とシューマンの「マンフレッド」序曲を、より共感を持って楽しめるようになった。
ありがたい話である。しかし、それでも原作を読むのは億劫だと感じる方もいらっしゃることだろう。あらすじがわかりづらいものは、原作もわかりづらいのではないか。
そこで、復刊を記念して、ここでチャイコフスキーとシューマンを聴くための、ぶっちゃけたあらすじを書いてみたい。「詩」としての文学的な味わいは脇に置いて、だれがなにをしてどうなったという、はなはだ散文的なあらすじを記しておこう。
召喚魔法を駆使する「超人」マンフレッドの行く末は?
全3幕。主人公マンフレッドはあらゆる叡智を身につけた一種の超人であり、人間であるにもかかわらず、呪文で精霊を召喚して命令することができる。物語の前史として、マンフレッドは恋人であるアスターティを自らの責任で死に至らしめている。
第1幕 マンフレッドは苦悩している。彼が求めるのは忘却。哲学や科学、世界の叡智を自在にする力を身につけ、これらをすべて試したが、忘れることができない。マンフレッドは呪文で7つの精霊を召喚し、忘却を求める。しかし、精霊はこれを拒み、おまえは死ぬことはできると答える。精霊が美女の姿であらわれると、マンフレッドは気を失う。
第2幕 マンフレッドは呪文で魔女を呼び出す。そして、自分とそっくりの美女を愛し、傷つけたと告白する。マンフレッドは魔女に殺してくれと頼むが、魔女は自らに服従するなら願いをかなえようと答える。マンフレッドはこれを断る。
続いてマンフレッドは邪神アリマニーズの館を訪れる。精霊たち、3人の宿命の女神、ネメシスがアリマニーズを讃える。マンフレッドがネメシスに恋人アスターティを召喚するよう求めると、アスターティは甦る。黙る彼女に対して、マンフレッドは口をきいてほしいと懇願する。ついにアスターティの亡霊はマンフレッドに話しかける。そして、明日になれば地上での苦しみは終わると述べて、消える。
第3幕 僧院長がマンフレッドを訪れ、天と和解するように説得するが、マンフレッドは聞く耳を持たない。マンフレッドは死を覚悟している。やがて恐ろしい精霊がやってくる。精霊たちを悪鬼と罵倒するマンフレッド。精霊たちはマンフレッドの命を奪う。
さて、これが「マンフレッド」の要約だ。召喚魔法を使いこなすなど、意外とファンタジー要素があるというか、現代であればマイケル・ムアコックの「エルリック・シリーズ」などのヒロイック・ファンタジーと少し似たテイストがある(というか、ムアコックが影響を受けているのだろうが)。あるいはファンタジー系RPGにもうっすらとつながっている。
マンフレッドが恋人アスターティになにをしたのかは、具体的に語られていない。ただ、現実のバイロンが異母姉との不倫関係にあったことから、「自分にそっくりの美女」と設定されていると考えられる。
チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」の終楽章は、第2幕の邪神アリマニーズの館の場面から、第3幕の幕切れまでを描いている。情景を思い浮かべながら聴けば、いっそう楽しいのではないか。
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