インスタレーション作品、毛利悠子《そよぎ またはエコー》を聴く
コンサートホールや録音メディアのなかにだけでなく、音楽は日常のいたるところに、思いもよらないかたちで息づいています。
アート、映画、文学、演劇……。このコラムでは、ちょっと意識を変えてみると聴こえてくる未知の音楽のあり方を、美術ライターの島貫泰介さんがお伝えします。
今回は美術家・毛利悠子のインスタレーション作品について。
1980年生まれ。京都と東京を拠点に、美術、演劇、ポップカルチャーにかかわる執筆やインタビュー、編集を行なう。主な仕事に『美術手帖 特集:言葉の力。』(2018年3月...
《そよぎ またはエコー》2017 毛利悠子
「風がそよぐ」または「音が反響(エコー)する」という表現は、どちらも固定的なかたちをもたない、目には見えない現象や環境の変化を示している。それは、毛利悠子というアーティストの活動の全体を説明するうえでも、とても理にかなった表現だ。
2010年6月から8月にかけて自ら企画した3つの個展以来、毛利はエレクトロニックテクノロジーを主軸とした音楽的なインスタレーション作品を主に手がけてきた。シンプルな通電や光によるON/OFFをスイッチにして、機械仕掛けの毛ばたきがパタパタと動き、吊るされた銅鑼やオルガンは音を奏でる。扇風機が微風を起こし、ブラインドカーテンは開閉することで柔らかな光を招き入れる。
そういった自然現象の即興的な重なり合いが奇妙なハーモニーとなって、展示空間を満たすのだ。
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《そよぎ またはエコー》は、昨年北海道で開催された「札幌国際芸術祭2017」で発表した近作である。
石狩川河口から音威子府(オトイネップ)へと至る土地のリサーチ、素朴な木彫でアイヌ文化との接点を表現した彫刻家・砂澤ビッキへのオマージュから派生した同作は、札幌市立大学構内の空中回廊「スカイウェイ」に展示された。
細長い回廊には、毛利が普段から愛用する機械仕掛けの小さなモジュールの他に、実際に使われていた街路灯の一部、グランドピアノなどが配置されている。
彼女の作品のアイデンティティーとも言える、軽やかな金属の鳴る音や紙がこすれる微かな擦過音に、坂本龍一とカミーユ・ノーメントが同作のために奏でた楽曲も加わることで、回廊はそれ自体が巨大な「楽器」のように脈動しはじめる。
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朝の連続ドラマ小説『あまちゃん』の作曲家でもあり、即興演奏の名手としても知られる大友良英とコラボレーションし、過去作ではエリック・サティの楽曲をモチーフにしたこともある毛利は、造形美術に音楽のリズムやグルーヴを導きいれる、コンポーザー的な資質をもつアーティストでもあるのだ。
《そよぎ またはエコー》展示風景
作品PV
カミーユ・ノーメント+坂本龍一による収録風景
1980年生まれ。美術家。磁力や重力、光など、目に見えず触れられない力をセンシングするインスタレーションを制作。「リヨン・ビエンナーレ2017」(フランス)、「コーチ=ムジリス・ビエンナーレ2016」(インド)、「ヨコハマトリエンナーレ2014」(神奈川)ほか国内外の展覧会に多数参加。2015年に日産アートアワード グランプリ、2016年に神奈川文化賞未来賞、2017年に第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。今年10月には十和田市現代美術館(青森)で初の美術館個展「毛利悠子 ただし抵抗はあるものとする。」を開催するほか、11月にはブリスベンで開催する「Asia Pacific Triennial」に《そよぎ またはエコー》を出品する。
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