第2章:想いが曲になるまで Vol.6 明日の空へ
日本全国の学校や合唱団で歌われ続けている合唱曲《COSMOS》や《地球星歌》。旅の体験や星空の影響を受けた作者のミマスさんが自身の想いをこめた歌です。そのメッセージが、十数年の時をかけて歌とともに広まっています。 この連載ではプロローグ、《地球星歌の旅》に続き、ミマス作品に込められたご本人の体験をエピソードとともに紹介していきます。
Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...
《明日の空へ》は2009年に楽譜が世に出た合唱曲です。「明日」は「あす」ではなく「あした」と読みます。いろいろな所で歌っていただいていますが、とくに卒業式で歌われるケースが多いとのこと。先日音楽会にお招きいただいた東京都豊島区の小学校でも、6年生が卒業式で歌うことになり練習中だということでした。多くの方に大切な人生の節目で歌ってもらえるなんて、本当に光栄で幸せなことです。
この曲は、もともと合唱曲だったのではありません。《COSMOS》や《地球星歌》と同じく、「アクアマリン」(僕がピアノを弾きボーカルのSachikoが歌う音楽ユニット)のオリジナル曲の一つとしてリリースしたもの。親しみやすいメロディと前向きな歌詞が小中学生の合唱に向いているのでは、という評価をいただいて、富澤裕さんの編曲で合唱曲に生まれ変わりました。
この歌は、アクアマリンのボーカル・Sachikoが作曲し、それに僕が詞をつけたものです。ある日、Sachikoが「曲ができた」と言ってきたのですね。お風呂でお湯に浸かっているときに思いついたとのこと。おそらく鼻歌のような感じでメロディが出てきたのでしょう。自分でピアノを弾いて録音したというので、聴かせてもらいました。とても完成度が高く、この時点で曲としてできあがっていました。
余談ですが、「お風呂でお湯に浸かっている」という状況でメロディやアイディアが思い浮かぶ、ということは多々あります。これは多くのミュージシャンが証言していることで、きっと何か理由があるのでしょう。僕の場合はお風呂よりも、旅先で風景を眺めている時や、列車に乗って車窓を眺めている時などが多いです。いずれにしても、心身ともにリラックスしていることが大切なようですね。ボンヤリと考えごとや空想をしている時間というのは、非常にクリエイティブなものです。ぜひあなたも、そういう豊かな時間を大切にしてください。
さて、その「お風呂でできた曲」を初めて聴いたときの印象は、「壮大な感じがして良いなあ」というものでした。Sachikoさんの作る曲のなかには楽しい雰囲気の曲も多いですが、この《明日の空へ》のように、壮大で透明感があるものも多々あります。
しかし彼女はあまり作詞をしないので、「曲を作ったから詞をつけてよ」というリクエストが僕に回ってくることになります(笑)。《明日の空へ》の歌詞も、「白い鳥が大空に向かって羽ばたく感じ」という本人のイメージに沿って作ってゆきました。
《明日の空へ》を作曲したSachiko。洋楽好きだった母の影響で幼い頃から歌に親しみ、ピアノの先生をしている叔母さんから音楽を習いました。アメリカの兄妹デュオ「カーペンターズ」の音楽をこよなく愛しています。
この歌のいちばん大切なメッセージは何かといえば、それは「夢や憧れの大切さ」ということになるでしょう。僕がとても好きな言葉の一つに「憧憬」があります。この歌を歌ってくれている学校にお招き頂いて、児童・生徒の皆さんに作者としてお話をする機会をいただくと、黒板に大きくこの2文字を書くことがあります。そしてこう言います。「難しい言葉で、皆さんはまだ国語の授業で習っていないかもしれません。しかしぜひこの機会に覚えてください。なぜなら、これから皆さんが豊かで幸せな人生を送るために最も必要なものの一つが、これだからです。」
憧れること、夢を持つことはとても大切です。幸せな人生を実現するために、一番必要なものだと言って過言ではありません。「あの人みたいになりたい」、「あんな仕事に就きたい」、「あんなことができるようになりたい」「あの国へ行ってみたい」。そういう具体的な目標を持つことは大きなエネルギーを生み出し、人生を前進させるパワーになります。夢を追えばどんどん世界は広がり、多くの出会いに恵まれます。努力を続ければ人生の高い場所へ登ることができ、そこから素晴らしい景色を見ることができます。頂上まで行けなくたって良いのです。5合目までしか行けなくたって、たとえ1合目でギブアップすることになったとしても、その人は、登らなかった人が決して見ることのない景色を見て、心地よい風に吹かれます。そういう経験は、本当に素晴らしいものです。
ちなみに僕は天文や宇宙が大好きな子どもでしたから、将来はそうしたことに関われる職業につきたいという夢がありました。とくに、プラネタリウムで星座の解説をする学芸員に憧れました。
残念ながらその夢は叶いませんでした。でも人生というのは数奇なものです。僕は高校生になって音楽と出会い、今それを仕事にさせていただいていますが、星や宇宙をテーマにした歌を多く作っていることから、全国たくさんのプラネタリウム館や天文台でコンサートを行う機会に恵まれるようになりました。そして、プラネタリウムでのコンサートの際は、ポインター(星空に小さな矢印を映す懐中電灯のような道具)をお借りして星座解説も自分でやるのです。形は違うけれど、やっていることは夢見たことと同じです。人生の不思議をしみじみと感じます。
Sachikoは子どものころから歌うことが大好きで、ミュージカル俳優になりたいと思っていたそうです。やはりその夢は実現しませんでしたが、いまの職業はアクアマリンのボーカリスト、つまり歌手です。彼女は、小学校や中学校で演奏や講演をする機会があるたびに、みんなにこう呼びかけています。「人生に無駄なことはない。その時点で好きなことを一生懸命やっていれば、不思議な運命の巡りあわせによって、ずっと後になってその努力が実ることがある。」
このことは、子どもも大人も関係ありません。あなたも僕も、みんな未来を持っています。未来はある程度、自分の意思で変えてゆけます。その度合いは意外と大きいですよ(笑)。「夢と憧憬」。ぜひこの言葉を、あなたの心の中の、目立つところに飾っておいてください。
ミマス
「明日の空へ」を歌ってくださっている学校の先生方が異口同音におっしゃることがあります。それは、小学生も中学生も、この歌の中でとくにDメロ(「♪振り返ることなく~」の部分)を気に入ってくれているらしい、ということです。
これはひとえに、富澤裕さんのアレンジのおかげです。合唱アレンジでは、ここの部分の歌とピアノがとてもカッコよく絡み合うようになっていますね。それまでの大らかな流れがここで刻むようなリズムに変わり、アクセントになっています。
一つの歌の中には、いろいろな要素が含まれています。メロディにも歌詞にもハモリにも伴奏にも、作者や編曲者の「歌う人や聴く人に楽しんで欲しい」という想いや仕掛けがちりばめられています。最初から最後まで漠然と歌うのではなく、ぜひそんなところを捜して見つけて楽しんで歌ってほしいです。
もしあなたのクラスや合唱団でこの歌を歌ったら、この連載のプロローグにある、皆さまの合唱の動画を発表するコーナーに応募してみてください。この曲だけでなく、《COSMOS》や《地球星歌》などミマス作品ならどの曲でもOKだそうです。世界に向けてぜひ皆さんの歌声を発表してください。応募方法は「歌声を発表しよう」をごらんください。
「木星が肉眼で見えます」というと、「えっ!天体望遠鏡がなくても見えるの?」と驚く方も多いです。肉眼で見えるどころか、木星の明るさはマイナス2等星です。1等星よりも明るいのが0等星、0等星よりも明るいのがマイナス1等星、さらに明るいのがマイナス2等星ですから、木星はもの凄く明るいのです。夜空の中でも異様にビカビカ光っているので、誰でもすぐに目につくでしょう。あなたもきっと、これまでの人生の中で何度も見ているはずです。それが木星だとは知らないで。
木星の直径は地球の11倍。太陽系で最大の惑星です。望遠鏡で見ると表面に美しい縞模様が見えたり、周囲を周っている4つの衛星が見えたりしてとても楽しいです。(ほんとうは60個以上の衛星が木星の周りに発見されていますが、小さな望遠鏡で分かるのは4つだけです。この4つは今から400年も昔にガリレオ・ガリレイが発見したので、まとめて「ガリレオ衛星」と呼ばれます)
今年2017年の4月に木星を見るためには、夜8~9時頃ならば東から南東の空を眺めましょう。ひときわ明るいのが木星です。真夜中になると南の空に移ってきます。注意深く見ると、木星のすぐ隣に明るい星が寄り添っているのが見えます。この星は、おとめ座の1等星スピカ。「真珠星」とも呼ばれる、青白い美しい星です。
★春の星空のようす 2017年4月の星空(アストロアーツ:星空ガイド)
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