音楽ファンのためのミュージカル教室 第1回

ミュージカルとオペラは何が違う? 昨今の潮流における密接な関係

読みもの
2019.06.28

オペラは観るけれど、ミュージカルはよくわからない……というクラシック音楽ファンへ。逆にクラシカルな演目に苦手意識のある舞台ファンへ。多様な時代を楽しむためには、既成概念はないほうがいい! 近年のミュージカルとオペラの密な交流を知って、その見えない壁を取り払いましょう。

ヨーロッパでオペラ三昧旅行をしたり、ニューヨークやロンドンでミュージカルを観てきたりと、両者を魅力を堪能している音楽ライター山田治生さんが、連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」をオープン!

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トップ写真:筆者が海外で観たミュージカルのプログラム冊子の一部
ナビゲーター
山田治生 音楽評論家
山田治生
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山田治生 音楽評論家
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

オペラやクラシックの音楽家がミュージカルを

今、ミュージカルとオペラとは、これまでになく近くなっている。

昨年3月には、パーヴォ・ヤルヴィ&NHK交響楽団が「ウエスト・サイド・ストーリー」を全曲演奏した。指揮者としても著名なバーンスタインが作曲したとはいえ、N響がブロードウェイ・ミュージカルを全曲演奏するなんて、時代は変わったと思った。

今年は、この7月に佐渡裕が西宮と東京で「オン・ザ・タウン」を指揮する。これもバーンスタイン作曲で、映画化(邦題「踊る大紐育」)されてお馴染みの、ミュージカルの傑作である。

海外に目をやると、オペレッタの殿堂であるウィーン・フォルクスオーパーでも、現在、ミュージカルが盛んに上演されている。2019/2020シーズンには、オペラやオペレッタのほかに、「サウンド・オブ・ミュージック」、「キャバレー」(新演出)、「ラマンチャの男」、「ブリガドーン」、「オズの魔法使い」、「ジプシー」、「マイ・フェア・レディ」、「キス・ミー・ケイト」、「ワンダフル・タウン」などが取り上げられる。ただし、ドイツ語での上演である。

ウィーン・フォルクスオーパー「マイ・フェア・レディ」

ベルリンの三大歌劇場の一つであるベルリン・コーミッシェオーパーでは、2019/2020シーズンに「キャンディード」、「ウエスト・サイド・ストーリー」、「屋根の上のヴァイオリン弾き」が掛かる。

そのほか、2017年には、サイモン・ラトルがロンドン交響楽団と「ワンダフル・タウン」を録音。
日本でも人気の高いオペラ演出家、ロバート・カーセンは、近年、「サンセット大通り」や「マイ・フェア・レディ」を手掛けている。

サイモン・ラトル指揮 ロンドン交響楽団「ワンダフル・タウン」

ミュージカルからオペラへ

逆に、ミュージカル畑からオペラへの進出もすすむ。

「王様と私」で2015年トニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞したケリー・オハラは、メトロポリタン・オペラで「メリー・ウィドウ」のヴァランシエンヌや「コジ・ファン・トゥッテ」のデスピーナを演じた。

メトロポリタン・オペラでケリー・オハラが演じた「メリー・ウィドウ」

また、2007年トニー賞作品賞受賞の「春のめざめ」を演出したマイケル・メイヤーは、メトロポリタン・オペラで「リゴレット」や「椿姫」に取り組み、2015年トニー賞再演ミュージカル作品賞の「王様と私」や「南太平洋」で知られる演出家バートレット・シャーは、メトロポリタン・オペラで「セビリアの理髪師」、「ホフマン物語」、「愛の妙薬」、「オテロ」などを任されている。

日本人では、この10月に、宮本亜門東京二期会で初めて「蝶々夫人」を演出し、東京だけでなく、ドレスデン、コペンハーゲン、サンフランシスコ等の伝統ある歌劇場での上演も手掛けていく。

バートレット・シャー演出「ホフマン物語」

音楽の視点からミュージカルをご案内!

ミュージカルとオペラの違いって何なのだろう? もちろん音響機材(PA)を使う使わないや発声法(地声とベルカント唱法)の相違はあるが、それは本質的な違いなのだろうか?

ヴァイルの「三文オペラ」、ガーシュウィンの「ポーギーとベス」、バーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」のように、オペラハウスでも、ブロードウェイでも上演される作品もある。

それらはオペラなのか、ミュージカルなのか? そういえば、N響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィインタビュー:N響で演奏会形式のオペラを取り上げる意義は「ウエスト・サイド・ストーリー」のことを「20世紀オペラの最高傑作の一つ」と語っていた。

ロイド・ウェッバーの「オペラ座の怪人」では、本物のオペラ歌手さえ登場する。最近は、ミュージカルをやりたくて芸術大学や音楽大学で声楽を専攻する学生も増えている。
クロード=ミシェル・シェーンベルグの「ミス・サイゴン」は「蝶々夫人」から、ジョナサン・ラーソンの「レント」は「ラ・ボエーム」から、アイデアを得て作られた。2002年から03年にはプッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」自体がブロードウェイでロングランされることもあった。

この連載では、ミュージカルもオペラも音楽劇としては同じ、というスタンスで、ミュージカルの魅力について述べようと思う。もちろん、ミュージカルにはいろいろな楽しみ方があるが、クラシック音楽を楽しむようにミュージカルを楽しんでみるのはどうだろう?

そして、あらためてミュージカルを楽しむために、ミュージカルの歴史をさかのぼろうと思う。

ミュージカルの歴史は、これまで演劇的な視点からメポック・メイキングな作品を中心に語られることが多かったが、ここでは、クルト・ヴァイルやジョージ・ガーシュウィン、リチャード・ロジャーズ、レナード・バーンスタインのほか、スティーヴン・ソンドハイム、アンドルー・ロイド・ウェッバー、クロード=ミシェル・シェーンベルグらの作曲家とともに述べられることになるだろう。

ミュージカルを、現代を代表する舞台芸術の一つとして、その誕生から現在に至る歴史のなかで楽しんでいきたい。

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