マレ《膀胱結石手術図》〜痛すぎて声も出ない……麻酔なしの恐怖の実体験
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
なんだか放つオーラがひと味違うこの曲名《膀胱結石手術図》。ルイ14世のもとでヴィオラ・ダ・ガンバを弾いていた、マラン・マレという作曲家によって1725年に書かれた曲です。この曲名は作曲者自身によって付けられたというだけではなく、実体験をもとにして書かれた曲なのです。
日本語で「図」と訳されている“Tableau(フランス語)”ですが、実際は「寸劇」だったり、「劇の一場面」を指すような意味合いで使われています。
膀胱結石手術の様子を描いているのですが、その描写は大変細かく、「手術室へ入る」「怖くなって手術台から降りる」「決心してもう一度上がる」「痛すぎて声も出ない……」など、手術を通してわき起こる恐怖や、心情の変化がリアルに描写されています。
忘れてはいけないのが、この時代に麻酔はなかったということです!(世界初の麻酔は1846年のマサチューセッツ総合病院でのW.モートンによる麻酔、日本では1804年の華岡青洲の手術と言われています。)
この作品は4つの曲によって構成されており、「前奏曲」、「膀胱結石手術図」、そして「術後のお祝い」、「後奏曲」と続いています。
初版の楽譜では、曲名はそれぞれ曲の冒頭左側に模様で囲ってあります。この模様、よく見てみると「術後のお祝い」の囲いには花の模様が描かれていますが、その前の「膀胱結石手術図」の曲名は有刺鉄線のような痛々しい模様で囲まれています。
膀胱結石の歴史は長く、遡ること7000年前には膀胱結石をもつミイラが発見され、古代ギリシア時代には膀胱結石の手術が試みられたそうです。現在は、衝撃波を当てて結石を破砕するのが主な治療法だそうで、マラン・マレのように痛い思いをしなくてもいいのだそう。こうした実体験をもとに書かれた曲ですと、音楽も一層のこと生々しく聴こえてきますね……。
マレ:『ヴィオール曲集第5巻』より《膀胱結石手術図》
「前奏曲」「膀胱結石手術図」「術後のお祝い」「後奏曲」
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