読みもの
2021.11.03
「音大ガイド」音大・音大卒業生関連の取材

ハラミちゃんと考える音大とキャリア ハラミちゃん×大内孝夫

元銀行員で現在は音楽大学で教鞭をとり、ピティナなどでキャリア支援にも従事されている大内孝夫さん。「音大生の持っている力は素晴らしい」と日々研鑽を積む音大生の姿勢を大絶賛し、音大生のキャリアや音楽教室に関する書籍を執筆されています。そんな「音大生・音大卒の応援団長」の大内さんが会ってみたかった人物が、人気ポップスピアニストのハラミちゃん! ハラミちゃんの今のご活躍があるのは、音大で真剣にピアノと向き合いながらも、広い視野を持って行動し続けてきたからこそなのです。
ハラミちゃんと大内さんが「音大とキャリア」について語ります!

*記事は内容の更新を行っている場合もありますが、基本的には上記日付時点での情報となりますのでご注意ください。

『音楽大学・学校案内』編集グループ
『音楽大学・学校案内』編集グループ 音楽之友社

執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...

写真/大久保惠造

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唯一無二の存在を目指して

大内 ハラミちゃんのキャリアを知ってから、ずっと会いたいと思っていたんですよ。『「ピアノ習ってます」は武器になる』で書いた「ピアノを習うメリット」については、別の対談Happy Jam「ピアノ習って、よかった!」ハラミちゃん×大内孝夫【前編】で伺いました。そのお話の中で、ハラミちゃんが東大受験生もいる塾のクラスの記憶力テストで1番だったと聞いて驚きました。やはり音楽やっている人は頭がいい! と再認識しました。

ハラミちゃん いえいえ、ありがとうございます!

大内 ハラミちゃんはまさに『「ピアノ習ってます」は武器になる』で書いたことを体現していて、しなやかに人生を謳歌している音大卒ですね! ボクがユニークだと思ったのは、クラシック音楽を学ぶ音楽大学の学生でありながら、一般大学の軽音サークルに入った点です。まずこのことについて、お聞かせください。

ハラミちゃん 軽音サークルでの仲間との出会いは、とても大きかったです。サークルの人たちはコードが理解でき、普段聴く音楽ジャンルの幅も音大生より広かったですね。ポップスはもちろん、メタル、アイドルソング……アンビエント系や環境音楽まで聴いていました。他にも高校から趣味でソフトを使って音楽を作っていたり、即興ができたり、色々なスキルを持つ人もいました。私からみると、音大生よりのびのびと音楽を吸収しているように映りました。そんな人たちと出会って、自分はとても狭い世界にいたことに気がついたんです。もちろん、狭く深く学んだことは誇れることではあるのですが……当時の私には、サークルのメンバーたちがとても眩しく見えました。

大内 人との出会いは財産になりますよね。サークルに入られて、社会との接点を持つきっかけになったわけですね。一般大学でも音楽マニアは結構多いです。

ハラミちゃん そうですね。しかも衝撃的だったのは、そういう人たちって普通に一流企業に就職していくんです。音楽に何の未練もなく……。そんな姿を見て、自分は今までピアノに固執してきたけれど、もっと違う世界を味わってみてもいいんじゃないかなと思ったのです。

大内 そうなんですよね。ボクは、音大卒には一流企業でも活躍できる優秀な人がたくさんいる、とさんざん本や講演などで話しているのですが、音大では「音楽を“絶対”仕事にしなければならない」と思い込んで、キャリアを考える際の選択肢を狭めてしまう学生を多くみかけます。幼少期に相当努力されたお話(上記対談【後編】)を聞いたら、ハラミちゃんもピアノと歩む人生をそう簡単に手放したくない気持ちだったと思いますが、一度ピアノを離れてIT企業で働く道を選んだのですよね。しかもその企業でトップクラスの成績を上げながらも退職することになって……。忘れかけていたピアノに再会し、都庁でのあのストリートピアノに繋がったのだと思います。

↑対談後、2人で「ハラミちゃん体操」を連弾

ハラミちゃん はい。「好き」という気持ちが私にパワーをくれたのかもしれませんね。あと、もうひとつ私の考えを変えてくれたできごとがあって……教員免許を取得するために、母校の中学・高校で教育実習をさせていただいた時のことです。自分が通っていた頃にお世話になった先生が、実習も担当してくださいました。そのときに、「ハラミちゃんは音楽の先生になるのは多分向いてると思うよ。でもね、学校の先生は社会に出ずに教壇に立つ人が多いから、もしハラミちゃんが社会を経験してから音楽の先生になったとしたら、それはすごい強みになると思う」と言ってくださったんです。別に音大へ通っているからといって、必ずしも音楽の道に進まなくてもいいんだ、ということを教えてもらいました。

大内 素晴らしいですね。ボクもその考えには大賛成なのですが、音大で働き始めた当初(2013年に銀行から転職)は、周囲からはなかなか受け入れられなかったです。

ハラミちゃん  私もそうでした。ただ私の場合、軽音サークル仲間の影響を受けて就職することにしました。また、新卒であれば全員平等なチャンスがあるわけで、そのチャンスを生かさなくては、と思ったのもひとつの要因です。いったん音楽の道に行ってからだと、「去年までピアニストやってました。会社に入れてください」はさすがに難しいかな、って(笑)。

対談のあと、大内さんのリクエスに応え、初めてストリートピアノで弾いた「前前前世」などを演奏してくれたハラミちゃん@音楽の友ホール

就活では100社もの会社にエントリー

大内 音大でもったいないと思うのは、音楽以外の道に進むと「音楽を諦めた」、「負け」とみられる空気があることです。法学部卒の人がみんな弁護士になるわけではないのと同じだと思うんですけどね……。

ハラミちゃん そういえば、就活していたら音大の友達にとても衝撃的なひと言を言われましたよ。友達に「“就活”ってどこでやってるの?」と。就活ってその日限定のフェスだと思われていたんです。他にも、「なんでスーツなの?」とも言われました(笑)。さらに、「就活してきたよ」と言うと「“就活”ってどこの駅でやってるの?」みたいなことも。

大内 “就活”という名前の単発のイベントだと思ったわけですね(笑)。今はずいぶんと音大でもキャリア支援に力を入れているところも多いけど、少し前は就職を優先すると先生に怒られたりしたそうですよ。でもハラミちゃんは、そんな状況で100社もの会社にエントリーされたそうで。すごいガッツだなと感心しました。

ハラミちゃん 一般大学にそこの学生のふりをして潜り込み、就職課に相談しに行っていました。あとはSNSで気になる企業の人にメッセージを送って会社で「出待ち」したりとか(笑)。決して普通のルートではない就活をしていましたね。

大内 すごい! 環境に縛られないで、どんどん前に進んでいって素晴らしいですね。発売から5年経ってしまいましたが、『目からウロコの就活術』でも音大生は一般企業にとって必要な人材だと書いています。別の対談(上記対談【前編】)でお話ししたとおり、ピアノで身に付けたスキル・能力は想像以上に企業での仕事にも役に立ちます。

ハラミちゃん でも音大って音楽を学ぶ場だから、「音楽のスキルを使ってどう稼ぐか」ということへの意識が薄くなりやすい傾向にあるように感じます。学んだからには、それで終わりではなく、ちゃんとどう自分が音楽を使って稼いで生活していくのかを考えていかなくてはいけないと思うんです。

大内 その通り! 私たちは霞を食べて生きていくわけにはいかないのだから、大学の学びをいかにビジネスに活かすか、はとても大事な観点です。(当『Web 音大ガイド』内でも「音大生の就職・就活・仕事上の強み、PRポイント」などを解説しています!)

ピアノを本当の武器にするまで

ハラミちゃん そうですよね。最近の音大では、どうなんですか?

大内 キャリア支援に関する授業を導入する学校はずいぶん増えているんですよ。演奏家に対する支援の幅も広がってきていますしね。就職をするにしても、学校のサポート自体が充実してきています。例えば、エントリーシートを添削してもらえたり、卒業生の就活体験談が聞けたり。その点ハラミちゃんは、そういった授業やサポートも受けずに稼ぎや知名度に変換できているからすごいです。ハラミちゃんのこれまでの行動や活動には、音楽と社会を繋げるためのヒントがいっぱい詰まっている気がします! 音大での真剣な学びは学生の大きな成長につながるので、ボクはいろいろなところで「中堅大学に進学するくらいなら、音大を選ぼう」と言っているくらいです。自信をもって音大で学んでほしいですね。

ハラミちゃん 大学時代、私の場合は「ピアノ」というひとつの武器がある程度磨き終わったから、もうひとつ何か新しい武器を手に入れるのもありかな、と思ったんです。ひとつ目の武器を磨き続けていくと、その先にはまだまだツワモノたちがたくさんいるけれど、ふたつ持っている人ってあんまりいないのかな、と。そういう唯一無二の存在になるために、武器を探す旅に出てみるのも、悪くないのではないかと思います。

大内 ふたつの武器がくっついて新たな道が拓ける―――それがまさにイノベーションです。クラシックの基盤、ポップス、ITを使った発信力、これらを融合して、ハラミちゃんは唯一無二の存在になっていますよね。そして、その大元にあるのは、音楽が「好き」であること。ハラミちゃんのように「好き」を基準に、音大に入る人が増えてほしいと思います。そして、ハラミちゃんの話を音大生に聞いてもらえるような機会があるといいですね!

ハラミちゃん ぜひぜひ!

ハラミちゃん 

「ピアノを身近な存在にする」を目標に掲げ、YouTubeを中心に活動しているポップスピアニスト。活動開始から約2年半でYouTube登録者数184万人、総再生回数4.1億回(2021年10月現在)を突破。ストリートピアノの他にも数々のアーティストとのコラボなども実施。

オフィシャルサイト:harami-piano.com
YouTube : www.youtube.com/channel/UCr4fZBNv69P-09f98l7CshA
Twitter:twitter.com/harami_piano

大内孝夫

1960年生まれ。みずほ銀行にて本部次長、支店長などを歴任後、武蔵野音楽大学を経て2020 年より名古屋芸術大学芸術学部音楽領域教授。日本証券アナリスト協会検定会員、ドラッカー 学会会員、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)キャリア支援室長/組織運営委員/ピアノ指導者経営相談窓口担当。これまでにない視点に立った進路・キャリア関連著書が音楽教育界で 大きな話題を呼ぶ。著書に、下記書籍や、本邦初! 大人のための音楽教室ガイド『そうだ! 音楽教室に行こう』『大学就職課発!! 目からウロコの就活術』(音楽之友社)、『「音大卒」は武器になる』(ヤマハミュージックメディ ア)など多数。

WEB連載「目からウロコの就活・キャリアQ&A」(更新休止中)

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『音楽大学・学校案内』編集グループ
『音楽大学・学校案内』編集グループ 音楽之友社

執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...

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