親や指導者が子どもに“ぶれない心”の在り方をストレートに伝えるためのオペラ
ビジネスパーソンにとって大切なスキルのひとつは会話術。政治、経済、ファッションに歴史。すべてを内包する芸術「オペラ」を知らずして、成功はあり得ない!?
オペラを楽しみつつ、教養も手に入れる! 自らも企業の貿易部門、ビジネスの真ん中で勝負してきたオペラ研究家、岸純信さんの提案です。第3回は、親や指導者が子どもに“ぶれない心”の在り方を伝えたいとき、思い出してほしいオペラの演目をご紹介!
その人ならではの感覚を育む
筆者に子どもはいない。しかし、この10年ほど、大学でオペラ史の授業を担当しているので、毎年400名強の学生たちと向きあってきた。そこで痛感したのが、「態度をハッキリさせる必要性」。学生たちにしてみれば、教師がどのような基準で採点するのか気になるところ。だから毎年必ず、大声で伝えるのである。
「その人ならではの感覚、それを育むための授業です」。
自分の意見を持たないと、他人の言に流される。大人が右往左往するのは本当にみっともない。道端でも電車内でも歌劇場の客席でも、落ち着いていれば普通に過ごせるはずである。それに、どれほど着飾っていても、堂々としていなければ「似合わない」。自信をもって振る舞いたいなら、しっかりした考えを持つのが一番の近道だろう。
フランス革命に翻弄された人たちの物語
オペラでは、世界史の出来事が題材になるケースが多い。中でも目立つのは、フランス革命にまつわるエピソード。世の中が荒み、価値や権威が逆転した十数年間において、庶民から国王まで時代にどう翻弄されたのか。彼らの数奇な運命はたびたび舞台化されている。
そこで思い浮かべたのが、2つの人気演目。
ジョルダーノ作曲のイタリア語のオペラ《アンドレア・シェニエ》は、革命政府に逆らったとみなされ、断頭台の露と消えた若き詩人シェニエの生き方を、恋物語を交えてドラマチックに描いた傑作である。正義感を失わず、「おかしなものをおかしいと言う」姿勢が、恐怖政治の時期にはどれほど難しかったことだろう。
21世紀に生きる我々も、彼の雄々しさと純粋な愛の心を通じて、学びとるものは多いに違いない。
そしてもう1つが、プーランク作曲のフランス語のオペラ《カルメル会修道女の対話》である。こちらは、「集団で静かに祈っていた」だけで逮捕された16名の修道女がギロチンにかかった史実を描くもの。処刑場に集まったやじ馬たちの喧騒も、尼僧が独りずつお祈りを唱えながら死刑台へと歩む姿に、徐々に収まったのだという。彼女たちの勇気と冷静さが、民衆の集団ヒステリーを結果として鎮めたのである。
それは、厚い信心がもたらした奇跡なのかもしれないが、信仰を信念と読み替えたなら、どの時代にも、どの世代にも道を拓くドラマになるだろう。事実、このオペラを紹介するたび、筆者は、大教室が静まり返る瞬間を目の当たりにしてきたのである。
親として、または指導者として、子どもに恥ずかしい姿を見せたくないのなら、洗練された物腰のもと、教養豊かに話すのが王道なのかもしれない。でも、もっとストレートに、「ぶれない心」の在り方をただ見せるのも、悪くはないように思う。
今回触れた2つのオペラは、小学生でも高学年なら理解できるはず。自立する大人だけが、本物の価値を、若い世代に伝えることができるのだと、毎春、教壇に立つ前に、自分に言い聞かせるのである。
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