読みもの
2023.02.27
【Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画】ピーター・バラカンの新・音楽日記 9

私が好きな中期のビートルズのなかでも完成度の高いのが『リヴォルヴァー』 今回のスーパー・デラックス・エディションでその意を強くした

ラジオのように! 心に沁みる音楽、今聴くべき音楽を書き綴る。

Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画として、ピーター・バラカンさんの「自分の好きな音楽をみんなにも聴かせたい!」という情熱溢れる連載をアーカイブ掲載します。

●アーティスト名、地名などは筆者の発音通りに表記しています。
●本記事は『Stereo』2022年10月号に掲載されたものです。

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

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ジョンとポールの曲も本当に共作の感じが強い初期と中期のビートルズ

前回のコラムでビートルズ関連の映画と本を取り上げながら、『リヴォルヴァー』のスーパー・デラックス・エディションにも触れたいと思ったものの、字数も足りないし、第一あの段階ではアルバムをフルには聴いていなかったので断念しました。

しかし、その後ちゃんと聴いた上で書きたくなったので、今月もビートルズ続きになります。よろしくお付き合いください。

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ぼくはビートルズというと圧倒的に初期と中期が好きです。それはバンドとしての一体感が感じられ、ジョンとポールの曲も本当に共作の感じが強いからです。『サージャント・ペパー』以降は個別に作っている印象が強く、それが悪いというわけではありませんが、デビューの時からずっとリアル・タイムで聴いていた立場ではちょっと魅力が薄れました。

ビートルズで、最も好きなアルバムは? とよく訊かれます。訊かれる時期によって若干変わってきましたが、最近ずっと『ラバー・ソウル』と答えています。理由はいくつかありますが、嫌いな曲がないから、というのが大きいです。

でも、同じ中期の傑作で『リヴォルヴァー』も捨てがたく、あまり好みではない曲があるけれども、客観的に考えるとアルバムの完成度は飛び抜けて高く、その印象は今度のスーパー・デラックス・エディションで更に強くなりました。

『リヴォルヴァー』 スーパー・デラックス・エディション(5CDSDX_ UICY-80210)の内容展開写真

自然なモノラル録音を聴くべきだと思っていたが今回のステレオミックスには驚いた

これまで『サージャント・ペパー』までのビートルズ(そして1967年までのほとんどのポピュラー・ミュージック)はモノラルで聴くべきだと思っていました。ステレオの技術が発達するまでの間は、特にヘッドフォーンで聴くと極めて不自然な楽器の分離にいらいらするばかりで、モノ・ヴァージョンがあれば必ずそれを聴くようにしています。

しかし、今回の『リヴォルヴァー』には驚きました。映画『レット・イット・ビー』の撮影時(1969年)に、ビートルズのメンバーはクルーに聞かれたくない会話をしている時にわざと楽器を鳴らして聞こえづらくしていたそうですが、その時の未発表映像を『ゲット・バック』のドキュメンタリーのために再編集していたピーター・ジャクスンのチームが開発したAIによって、特定の周波数を抽出して分離させることが可能になりました。

その技術を応用することで今回『リヴォルヴァー』のスーパー・デラックス・エデションをプロデュースしているジャイルズ・マーティンは新たなステレオ・ミックスに成功したわけです。

『リヴォルヴァー』が録音された1966年の時点でアビー・ロードのスタジオには4トラックのテープ・レコーダーしかなかったのです。翌年の『サージャント・ペパー』の時もそうでしたが、4トラックを2台つないで、同期させるために1トラックを利用するので合計7トラックで録音しました。

しかし、『リヴォルヴァー』の時にはまだそんな発想もなく、オーヴァーダビングする時に一つ一つの要素を個別に録ることはできず、全員で同時に演奏しますが、失敗すれば最初からやり直しになるのです。

しかも、『リヴォルヴァー』ではビートルズは初めてスタジオ技術を思いっきり利用するようになり、テープ・ループ、逆回転、”ADT”(ヴォーカルの自動ダブル・トラッキング)、当時の一般常識を逸脱したマイクの置き方など、まだ実験音楽の分野以外では誰も試みたことがないようなトリックを一気に沢山披露したので、まだ20歳の新人だった録音エンジニアのジェフ・エメリックは毎日新たな領域を開発し続けました。

最終的にミックスされたモノラルの音は十分いいものですが、ステレオの方は聴くに堪えない代物でした。それを今回、ピーター・ジャクスン式AIのお陰で個別の楽器の音をそれぞれ分離させ、全く奇をてらうことなくごく自然なステレオ・ミックスを誕生させたのです。

こんなものを聴いてちょっと感激する自分を笑ってしまうほど、60年代の終盤から当たり前になっているステレオ音像の魅力を堪能しています。

ぜひステレオとモノで聴き比べて見て欲しい名曲の数々

こういったデラックス・エディションの面白さはやはりアウト・テイクの類いです。ここでも『リヴォルヴァー』は個人的にとてもいい味を出しています。

例えば、これまで今一つ魅力を感じなかった『Got To Get You Into My Life』は、何回聴いてもホーン・セクションがダサく響きます。

これをもしメンフィスのスタックスで録音してメンフィス・ホーンズが演奏していれば……と思うのですが、「Early Mix」のヴァージョンではホーン・セクションの代わりにファズのかかったギターだけがそのフレイズを弾いていて、こちらの方がぼくは断然よかったです(もちろんあくまで個人の好みの話です)。

他にも、やや音数の少ない、ちょっと粗い感じの「ドクター・ロバート」も初めて繰り返し聴きたくなりました。そうこうしているうちにもしかしたら『リヴォルヴァー』がぼくの最も好きなビートルズのアルバムになるかもしれません、このバージョンでは。

でも、モノの方も決して捨てたものではありません。元々シングルだけで発売され、今回初めてステレオ・ヴァージョンが誕生した「Paperback Writer」と「Rain」はぜひステレオとモノで聴き比べてみて欲しいです。

それぞれの曲についてほとんど書いていませんが、名盤中の名盤ですし、すでに多くの方がよく知っている曲ばかりだと思います。初めての方がもしいるとすればぜひこの新しいヴァージョンで聴いてください!

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

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