読みもの
2020.09.01
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その19

アリア:語源は空気や雰囲気を表すラテン語aer。アリアとエアは区別されるように

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

J.S.バッハの最後の弟子ペンツェル(1737〜1801)が写譜したJ.S.バッハ《管弦楽組曲第3番》より第2曲「エール」の冒頭。

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アリアという言葉が初めて現れたのは14世紀。ラテン語で空気、または雰囲気という意味のaerが語源で、当時もこの綴りで用いられていました。しかし、当初は演奏を描写する際に「〜風に」のように使われており、曲名には使われていませんでした(例えば、「イタリア風」であればaer ytalicus)。

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音楽は根付いている場所によって違った雰囲気を持ちますし、歌であれば言葉によって韻の踏み方も違いますよね。これらを「〜風(の曲)」という言葉を使って表していましたが、1597年にジョン・ダウランド(1563〜1626年・イギリス)が《アリア集》を書いたことにより、シンプルなメロディの曲をアリアのみ(当時の綴りは初期近代英語でayre)で表すようになります。

ダウラント:《アリア(エア)集 第1巻》〜第1曲「不穏な考え」

ダウラント《アリア集 第1巻》初版の表紙

さらに時代とともに、音楽の幅はどんどん広がっていきます。簡単な伴奏の曲もあれば、オペラもあるような時代になり、「シンプルなメロディの曲」を1つの言葉だけで表すにはあまりにも違いが出てくるようになりました。

ここでアリアは2つに分かれます。

オペラ内で演奏される曲や、単独で書かれた作品はアリア(aria/イタリア語)もしくはアリエ(Arie/ドイツ語)、組曲内の簡単な伴奏にシンプルなメロディが乗った曲はエア(air/英語・ドイツ語)と呼ばれるようになります。ちなみにフランスではどれもエール(air/フランス語)。すべて語源は同じです。……ややこしいですね!やはり、これらが混同されることもあるようです。

例えばバッハの管弦楽組曲第3番、《G線上のアリア》として親しまれている第2曲。シンプルなメロディにシンプルな伴奏ですよね。曲調も落ち着いています。これはリュートなどのシンプルな楽器で伴奏されるスタイルから派生したエア(もしくはエール)に分類されます。では、同じバッハの《ゴルドベルク変奏曲》の主題はなぜアリア? それは、単独で書かれた作品だからです。

言葉の変遷から見てみると、同じアリアでもここまで奥深いのです。

アリアを聴いてみよう

1.  モンテヴェルディ:歌劇《オルフェオ》〜第2幕よりアリア「おお暗い森よ」
2. バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068〜第2曲「エア」
3. バッハ:ゴルドベルク変奏曲〜主題「アリア」
4.リュリ:歌劇《パエトン》〜第4幕よりエール
5. モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》〜第2幕よりアリア「恋とはどんなものかしら」
6. プッチーニ:歌劇《ジャンニ・スキッキ》〜アリア「ああ、私のお父さん」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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