カノン:語源はギリシア語の「葦」。バッハがルールに則って作曲した5種類!
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第23回はカノン。語源から見てみましょう。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
カノンの語源は、ギリシア語のkanōnという言葉から来ています。なんと元の意味は葦。まっすぐに伸びる葦を表すこの言葉が、杖や規則という意味でも用いられるようになり、それが音楽においても厳格なルールによって書かれたカノンの名前にもなりました。
カノンの大きな特徴、それは同じメロディを重ねて演奏することです。
なんだかフーガと少し似ていますね。カノンとフーガのもっとも大きな違いは、メロディーの扱い方にあります。フーガはメロディの形を若干変えてもいいのですが、カノンのメロディーは厳格に同じ形でなければいけません。なので、メロディをよーく見比べてみると、カノンはちゃんと最後まで同じ形で演奏されます。
このカノン、同じメロディを縮小、拡大、反転して用いる場合でも同じでなければなりません。そう、厳格なのです。
最古のカノンは、13世紀の「夏が来た」(作曲者不詳)まで遡りますが、この厳格さを逆手にとり、果敢にカノンに挑んだ作曲家がいました。J.S.バッハです。
そんなバッハの有名な肖像画、手に持っている楽譜をよく見ると、カノンと書かれています(「14のカノン」 BWV1087の楽譜)。
そこで、いくつかのカノンの種類を、バッハの作品を例にご紹介します。
平行カノン
そのままメロディを移調(キーを変える)したカノンです。移調させないでまったく同じ音形を追っかけて演奏するものもあります。
バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988〜第3変奏 「(完全)1度のカノン」
逆行カノン
ひとつのメロディを1人はそのまま、もう1人は最後の音部記号(ト音記号やへ音記号)を頼りに、終わりの音から逆再生のように演奏します
バッハ:音楽の捧げもの BWV1079〜2声の逆行カノン
反行カノン
下の段に2つの音部記号が書いてありますね。しかも一方は逆さまのフラットが書かれています。これは下のパートを2人で演奏するのですが、1人はそのまま弾き、もう1人は楽譜を上下ひっくり返して、右から音符を読んで演奏します(アラビア語のように……)。
バッハ:音楽の捧げもの BWV1079〜2声の反行カノン
無限カノン
ずっとメロディを追いかけっぱなしの、終わりのないカノンです。永遠と演奏するわけにもいかないので、終わるタイミングは奏者が適当に決めます。
バッハ:14のカノン BWV1087〜第1番 逆行無限カノン
謎カノン
この曲は4人がひとつのパートを演奏します。しかし、音部記号は2つしかありません。残りの2人は、どこからどの音の高さで、どのくらいの速さで弾くのか、自分で考えなければいけません。答えは作曲したバッハしか知りません。上で紹介した逆行カノンや反行カノンも、2人が同じパートを弾かなければいけないのに、どこからどうやって弾いたらいいかわからないですよね。このように、ぱっと見てわからないカノンを謎カノンといいます。
バッハ:音楽の捧げもの BWV1079〜4声のカノン
このように、カノンには厳格なルールがあるからこそ、答えを導き出させるような作品もあるのです。数学とちょっと似ているかもしれませんね。
カノンを聴いてみよう
1. 作者不詳:夏が来た(Sumer is icumen in)
2. パッヘルベル:カノンとジーグ〜第1曲 カノン
3. W.A.モーツァルト:カノン「俺のお尻をなめろ」KV231
4. ベートーヴェン:カノン「マヌケの中のマヌケ」WoO.227
5. ブラームス:カノン「春は私にほほえまない」 WoO.25
6. ナンカロウ:自動ピアノのためのスタディ第15番(円周率を用いたカノン)
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