アルマンド:フランス語で「ドイツの」を意味するのに実はドイツ起源か不明な舞曲
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
バッハのパルティータや、古典派以前の作曲家の組曲の1曲としてよく登場するアルマンド。アルマンドは踊りの一種で、フランス語でドイツ風、またはドイツの(踊り)を意味します。さて、アルマンドの何がドイツ風なのでしょうか。そして、一体どんな踊りなのでしょう……?
「ドイツ風」の謎
アルマンドの起源は、未だにわからない部分があるものの、14世紀より踊られていたバス・ダンスという踊りがもとになっていると考えられています。
1521年にロンドンで、バス・ダンスに関する書物が出版されたのですが、その中の1つにアルマンド(ドイツ風)と題されたバス・ダンスがあり、これが、アルマンドの最初の記述です。どのような意図でアルマンドと題されたのかは不明ですが、フランスの宮廷ではすでに、アルマンドという名前の踊りが踊られていたようです。
バス・ダンスとは、ルネサンス期の踊りで、シンプルで品のある踊りは、宮廷では大変な人気を誇っていました。
フランスの司祭で作曲家でもあったアルボ(1520〜1595)が1589年に出版した、ヨーロッパ初の舞踏に関する本『オルケゾグラフィ』によると、「アルマンドはそこまで速くない、中くらいのテンポの踊り」と記述されています。
アルボ:バス・ダンス “Jouyssance vous donneray”、アルマンド
さらに、バッハのいとこで音楽学者のヴァルター(1684〜1748)によると、「アルマンドはシュヴァーベン地方の歌のこと指します。というのも、フランス語のアルマンドはアレマン人のことを指し、アレマン人は現在のシュヴァーベン地方に住んでいたからです」と説明されています。
たしかに、ドイツという国は1871年まで存在していませんでした。アルマンドという言葉は、フランス語でかつて、ドイツ南部のシュヴァーベン地方に住むアレマン人のことを指していましたが、段々と意味が大きくなり、現在ではドイツ人のことを指すようになったのです。
しかし、アルマンドがシュヴァーベン地方が起源であるという証拠はありません……!
なので、現在のフランス語でドイツの(踊り)という意味のアルマンドですが、実はドイツが起源かどうかも不明というのが事実なのです!!
それでも愛されたアルマンド
実はあまりよくわかっていないことの多いアルマンドですが、バタバタと飛び回ることがなく、シンプルで気品のある滑らかな踊りだったことから、人気を得ます。
もともと、4拍子で中庸な速さのアルマンドは、かなりゆったりとした踊りのパヴァーヌに代わる踊りとして、フランスの宮廷で踊られていました。パルティータなどの組曲にも、1番目の曲として積極的に組み込まれました。
舞曲としてのスタンダードの地位を得たアルマンドですが、バロック期には新しいアルマンドが登場します。2拍子や3拍子のアルマンドです! いわゆる、ドイツで踊られていた踊り(ドイツ舞曲)やレントラー(南ドイツおよびオーストリアの地方に伝わる4分の3拍子の民俗舞曲)の影響を受け、拍数が少なく、速いテンポのアルマンドが登場しました。
ドイツ舞曲の例
モーツァルト:ドイツ舞曲 KV509〜第1番 ニ長調
フランスの作曲家・音楽理論家のラモー(1683~1764)は、もともとフランスで踊られていたアルマンドと、ドイツの踊りの影響を受けた速いアルマンドの2種類を書いています。
ラモー:第1アルマンド、第2アルマンド(「クラヴサン小品集」第1巻より)
こうして、ゆったりとしたフランス風のアルマンド、そして速いドイツ風のアルマンドの、大きく分けて2種類のアルマンドが踊られるようになりました。
ロマン派の時代になると、踊りの流行がワルツなどの華やかなものに移り、アルマンドは古風な踊りとして忘れ去られていきましたが、多くの作曲家がこぞって残したアルマンドは、名曲として現在でも多くの人に愛されています。
アルマンドを聴いてみよう
1. ジェルヴェーズ:アルマンド
2. シャルパンティエ:仮祭壇のための組曲〜厳粛なアルマンド
3. バッハ:フランス組曲第5番 BWV816〜第1曲 アルマンド
4. ベートーヴェン:11のバガテル 作品119〜第3曲「アルマンド風」
5. ウェーバー:12のアルマンド 作品4〜第12曲 ニ長調
6. プーランク:ジェルヴェーズに基づいたフランセーズ(プレイリスト1曲目のアルマンドの編曲)
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