読みもの
2021.07.27
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その57

アッチェレランド:最初期には「テンポをクレッシェンドする」と表現されていた楽語

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》第4楽章の終結部に書かれている指示。

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テンポを速くすることを指す、アッチェレランド。楽譜を見ていて、この楽語が出てくると少しワクワクします。アッチェレランドは、イタリア語で速度を速めるという意味のaccelerareの現在分詞です。英語のaccelerateと同じ語源をもつ言葉です。車のアクセルも同じです。

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まさに、音楽のアクセルを踏むような指示のこの言葉ですが、歴史はそれほど深くありません。

しっかりとアッチェレランドについて言及された古い文献の一つが、1802年にドイツで出版されたコッホの音楽事典です。そこには、「テンポが速くなることを指す。すなわち、テンポをクレッシェンドすること(poco a poco il tempo va crescendo)である」と書かれています。

クレッシェンドの記事でもご紹介しましたが、クレッシェンドは、もともと増加するという意味の言葉で、この音楽事典では、速度の増加という意味でクレッシェンドが使われています! 

アッチェレランドは、ここ200年の間で用いられてきた楽語ですが、テンポを速くすること自体は、それ以前より行なわれてきました。

例えば、ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》の第4楽章では、終わりに向かってテンポが速くなる部分があります。ここでは、「ますます速く(sempre più Allegro)」や「だんだんとテンポの幅を狭く(più Stretto)」という指示で書かれています。

ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》作品67〜第4楽章、終結部

アッチェレランドという言葉は、19世紀に入っても、そこまで頻繁に使われませんでした。しかし、19世紀後半からスタンダードな楽語になり、音楽にグルーヴ感を与えてくれる貴重な楽語として、頻繁に用いられるようになりました。

ラヴェル《ツィガーヌ》の終わりには、なんと43小節に渡る長いアッチェレランド(Accel. poco a poco = 少しずつテンポを速く)があります!

ラヴェル:《ツィガーヌ》終結部

このように、アクセルを踏んでグングン速くなるような高揚感が、音楽にもあるのです!

アッチェレランドを聴いてみよう

1. ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 作品67〜第4楽章
2. リスト:ピアノ協奏曲第2番〜第4楽章
3. グラナドス:スペイン舞曲集 作品37〜第6番《ロンダーリャ・アルゴネーサ》
4. ラヴェル:ツィガーヌ
5. バルトーク:弦楽四重奏曲第1番〜第2楽章 Il Poco a poco accelerando all’allegretto(アレグレットまで少しずつテンポを速く)
6. ジョリヴェ:ピアノソナタ第1番〜第4楽章

グラナドス :スペイン舞曲集 作品37〜第6番《ロンダーリャ・アルゴネーサ》
大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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