読みもの
2021.08.10
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その59

テノール:ラテン語で保つを意味し、低い声域でハーモニーを支えていた!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

フランソワ=オーギュスト・ビアール《テノール歌手の喜び》(1850年)

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歌手の声域を表す言葉、その声域を歌う人に対して用いられる、テノール。高い声域から順に、ソプラノ、アルト、テノール、バスと並ぶなか、中音域に位置しています。

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中世では、歌は3声(3つの声域が組み合わさった形)で演奏されていました。これは、まだソプラノ、アルト、テノール、バスの4声の形態が誕生する前です。この3声のうち、もっとも低いパートのことを、テノールと呼んでいました。

というのも、もっとも下のパートはハーモニーを保つ役割が大きく、ラテン語で保つ、維持するを意味するtenereから派生して、テノールと呼ばれるようになったのです!

例えば、英語でもsustain(状態を持続させる)やmaintain(状態を維持する)などの言葉のtainは、「〜を保つ」ことを意味する言葉に付けられる接尾語ですが、これもテノールと同じ語源の言葉です。

3つの声部のうち、一番上がカントゥス(ラテン語で歌という意味)で、主にメロディを歌います。一番下が、テノール。そして真ん中が、コントラテノールです。

コントラテノールのコントラとは、〜に反してという意味のラテン語ですが、コントラテノールは、「テノールに反して」高い声域で歌うので、この名称が付けられました。

整理しましょう……上から並べるとこんな感じです!

・カントゥス・フィルムス
・コントラテノール
・テノール

コントラテノールは、英語圏ではカウンターテナーと呼ばれ、現在では男性が裏声で歌うことが多いです。

カウンターテナーのための曲、カウンターテナーが歌う曲

ヘンデル:歌劇《セルセ》〜第1幕よりアリア「オンブラ・マイ・フ」
バッハ:カンタータ第170番《満ち足りる安らぎ、嬉しき魂の喜び》〜「私はもう生きていたくありません」
ラルフ・マリア・ジーゲル:Sing ein Lied

さらに、17世紀にはオペラが誕生し、その中でもテノールは活躍します。オペラで男性が主人公の際、ユーモラスな役や、息の長いメロディを歌う役を演じることが多く、特にワーグナーのオペラにおいては、英雄的な役にテノールが起用されています。たしかに、男性の高い声はよく通るので、主人公には向いていますね。

そんなテノールの人たちが読みやすいように書かれたのが、テノール記号です。五線のうち、上から2番目の線がドの音になります。でも、やっぱり読みづらいし、わかりづらいですよね? なので、最近はト音記号で書かれることが多いです。

バッハ:カンタータ第55番《われ哀れな人、われ罪の下僕》〜第1曲 アリア(テノール記号)
バッハ:カンタータ第55番《われ哀れな人、われ罪の下僕》〜第1曲 アリア(ト音記号)

こうしてテノールは、時代ごとに音楽を支えたり、主人公を演じるようになったりと、さまざまな変遷をたどってきたのです。

テノールを聴いてみよう

1. モーツァルト:歌劇《魔笛》KV620〜第1幕より「あの童たちの知恵の声」
2. ベートーヴェン:歌劇《フィデリオ》作品72〜第2幕より「人生の春の時に」
3. ワーグナー:歌劇《タンホイザー》〜第1幕より「あなたをたたえましょう」
4. オッフェンバック:歌劇《ホフマン物語》〜第1幕より「クラインザックの伝説だ!」
5. プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》〜第3幕より「ミミは誰にでも媚びを売る女だ!」
6. バーンスタイン:ミュージカル《ウェスト・サイド・ストーリー》〜「何かがくる」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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