ファンタジー:中世に自由な発想で書かれた曲の呼称から発展!
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
英語でもお馴染みの単語、ファンタジー。楽曲にもファンタジーというタイトルの曲が多く存在し、日本語では幻想曲と呼ばれます。
このファンタジーという言葉は、「幻想」と訳されることが多いですが、音楽の中では、「気まぐれな想像、空想」のような意味で使われています。
元を辿ると、ギリシア語のファンタジア(phantasia/φαντασία)という言葉が起源で、中世の作曲家が、気まぐれで自由な発想をもとに書いた曲を、このように称したことが始まりです。イタリア語ではファンタジア(fantasia)と呼ばれます。
もっとも古い曲の一つに、1480年ごろにジョスカン・デ=プレ(1450?~1521)が作曲したものが挙げられます。
厳格な形式に当てはめて書くのではなく、モチーフやメロディを紡いだり、繰り返したり……という、やはり自由な方法で作曲されています。
ジョスカン・デ=プレ:ジョスカンのファンタジー (1480年ごろ)
その後の時代では、演奏前に楽器や指の調子を見るために、音階や適当な即興を弾く様子が、そのままファンタジーという名称で曲にされました。トッカータと同じような感じです。
バッハ:幻想曲とフーガ BWV542
ファンタジーを、さらに面白い音楽に昇華させたのが、バッハの息子、C.P.E.バッハです!
鍵盤楽器奏者として高い技術をもち、フリードリヒ大王の元でお抱えの鍵盤楽器奏者だっただけではなく、宮殿で演奏されるさまざまなスタイルのオペラのエッセンスを凝縮させたようなファンタジーを書きました。
脈絡のないフレーズや移調、そして繰り返されるテーマ……その自由な様子は、聴いていてとても楽しいです!
哲学者イマヌエル・カントは、自著『判断力批判』で、C.P.E.バッハのファンタジーを引き合いに出して、次のように述べています。
私たちが花を見て、「美しい」と思うにしても、花は「美しい花の形はなんだろう」ということを考えて、美しい花を形作りません。音楽におけるファンタジーも、それと同じようなものです。
C.P.E.バッハ:幻想曲 ヘ長調 Wq.59-5
モーツァルトやベートーヴェンも、C.P.E.バッハを追うように、自由な形式でのファンタジーを作曲しました。
面白いことに、ベートーヴェンが行なったコンサートのプログラムには、「ベートーヴェンさんがピアノを用いてファンタジーを行ないます(直訳)」と書いてある項目があります(下のプログラム、6番目の項目)。
この項目では、
ロマン派では、自由で即興的な内容に加え、オペラの有名な旋律をふんだんに取り入れたファンタジーも書かれ、演奏会では頻繁に登場するようになります。
一方、ショパンの幻想曲のように、ある形式をもとにしつつ、さらにいろいろな要素を混ぜ込んだようなファンタジーも書かれるようになりました。
このように汎用性の高い音楽として、ファンタジーの名がつけられた作品が多く生まれました。
ファンタジーには、作曲者の性格や、頭の中がそのまま音符になったような作品が多いです。ファンタジーを聴いて、作曲家の素性や、頭の中を覗いてみましょう!
ファンタジーを聴いてみよう
1. C.P.E.バッハ:自由な幻想曲 Wq.67
2. ハイドン:幻想曲 ハ長調
3. モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397
4. ベートーヴェン:合唱幻想曲 作品80
5. ショパン:幻想曲 作品49
6. リスト:《巡礼の年第2年 イタリア》〜ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」
7. ヴォーン=ウィリアムズ:民謡「グリーン・スリーヴス」の主題による幻想曲
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