読みもの
2021.10.12
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その67

アンプロンプチュ:日本語では「即興曲」、語源のラテン語はもともとどういう意味?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ショパン「即興曲第3番 変ト長調 作品51」、自筆譜。

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あまり聞きなれない言葉かもしれません……でも、ちょっと待って! 「即興曲」といえば、ピン!とくる方はいらっしゃるかもしれません。日本語では「即興曲」と訳される楽曲は、もともと「アンプロンプチュ」という名前のものが多いのです。

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この、口がこんがらがりそうな言葉の語源をみてみましょう!

もともとはラテン語で、即座に何かに対応できる状態を表すin prōmptūが語源となっており、それがアンプロンプチュというフランス語の発音で呼ばれています。これが、「即座に音楽を興(おこ)す」という意味合いで、「即興曲」と訳されました。

このprōmptūの部分は、その後に英語で、同じく用意ができた状態を表す言葉であるpromptに派生しました(英語のpromptは「促す」という意味の動詞でもありますが、こちらの語源は違うんです。綴りは同じなのに語源が違うって面白いですよね!)。

「ラテン語がそのまま語源になっているなんて、さぞかし歴史の深い音楽なんだろう!」と思うかもしれませんが、実は初めてアンプロンプチュが書かれたのは1817年なんです。

アンプロンプチュと題された曲を最初に作ったのは、チェコの作曲家のヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク(1791~1825)。「6つの即興曲 作品7」として1821年に出版されましたが、この題名は出版社によって提案されたものだという説が有力です。

意図としては、あまり形式に囚われない自由な曲として付けられたようです。ここで、「インプロヴィゼーション(improvisation)」のような直接的に即興を意味する言葉を当てはめてしまうのも違和感があるので、婉曲的な表現としてアンプロンプチュという言葉が使われました。

ヴォジーシェク:6つの即興曲 作品7〜第1番 ハ長調

ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク(1791~1825)
プラハ大学で学んだのちにウィーンに移り、1814年にはベートーヴェンと知り合う。ピアノ曲のほかに交響曲や歌曲も作曲。1823年からは宮廷オルガン奏者を務めた。

さて、即興曲といえば、まずシューベルトの作品ですね。

シューベルトには、「4つの即興曲」と題された作品集が2つ(D.899、D.935)ありますが、どちらもシューベルトの死後に出版されたもので、これも出版社が付けたタイトルです。その証拠に、それぞれの即興曲集の自筆譜に書かれたタイトルを見てみましょう。それぞれ、筆跡が違うのがわかります!

この曲集には、あまり形式にとらわれない、即興的に書かれた曲が多く、この題名がつけられたのも、頷けますが、シューベルトがもともとどんなタイトルを付けようとしたのか、有名な曲なだけに気になります……!

シューベルト「即興曲 D.899〜第1番 ハ短調」自筆譜。
シューベルト「即興曲 D.935〜第1番 ヘ短調」自筆譜。

その後、アンプロンプチュというタイトルの曲は、何人かの作曲家によって生み出されましたが、その中でも有名な作品を書いたのはショパンです。全部で4曲ありますが、シューベルトのものとは違い、すべてショパンによってタイトルがつけられました

こうしてもともとは、楽譜出版社の意向によって使われ始めた「即興曲」というタイトルですが、意外にも浸透し、現在でもショパンをはじめとする即興曲が親しまれています。

アンプロンプチュを聴いてみよう

1. シューベルト:即興曲 D.935(作品142)〜第3番 変ロ長調
2. ショパン:即興曲第3番 変ト長調 作品51
3. ショパン:幻想即興曲(即興曲第4番) 嬰ハ短調 作品66
4. スメタナ:バガテルと即興曲〜第7番《愛》
5. フォーレ:即興曲第3番 変イ長調 作品31
6. スクリャービン:マズルカ風即興曲 作品7〜第2番 嬰へ長調

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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