読みもの
2021.10.26
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その69

ラレンタンド:実はレントの動詞形! 19世紀の定義では「ウトウトしてしまうような様子」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ショパン「夜想曲 ヘ短調 作品55-1」の自筆譜。

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アッチェレランドと対をなす言葉、ラレンタンド。テンポを速くするという意味のアッチェレランドに対し、「テンポを遅くする」という意味で、イタリア語で遅くする、緩めるという意味の動詞rallentareの現在分詞です。よくみてみると、遅いテンポを表すレント(lento)を動詞にしたものです!

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こちらの言葉も、アッチェレランドと同じく、歴史の浅い言葉です。

もともと18世紀まではLentando(Rallentandoと同義語)が使われていましたが、19世紀になってからは、強調の接頭句(ra-)がくっついたRallentandoが使われるようになりました。楽譜の中では、rall.という略も使われます。

しかし驚くことに、32曲あるベートーヴェンのピアノ・ソナタの中で、最後にラレンタンドが使われたのは、ピアノソナタ第3番で、それ以降使われることはありませんでした。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第3番 ハ長調 作品2-3第4楽章、初版の楽譜。
©︎Beethovenhaus Bonn

19世紀の音楽学者、グスタフ・シリング(1805~1880)が編纂した音楽事典では、「ラレンタンドは、疲れて一瞬ウトウトしてしまうような様子」と定義されています。

譜例をよく見ていただくとわかるかもしれませんが、ラレンタンドが書いてある部分には「Rallentando- – – – -」や「Ral – len – tan – do」のように、単語を引き伸ばしたり、点々を書くことによって、ラレンタンドの範囲が示されている場合が多いです。

この例からもわかる通り、ラレンタンドは、その指示が書かれている部分で、段々と遅くするのです。

その後、ラレンタンドはあまり使われなくなったものの、フランス語でのralentir(ラレンタンドの元の言葉rallentareと同じ意味)が使われるようになりました。

ラヴェル:ソナチネ第2楽章
「とても遅くして(Rallentissez beaucoup)」という指示のある箇所です。
(Rallentissez = ralentirの命令形、beaucoup = たくさん/とても)

何か楽器を演奏される方なら、一度は、「これすごくいいメロディだから、ちょっとゆっくり時間をとって、いい感じに弾きたいなぁ」なんて思ったことはないでしょうか……?

特に近代のフランス音楽では、楽譜に事細かに指示を書かれることが多いのですが、作曲者が「いい感じのメロディなのはわかるけど、絶対遅くしないでね!」と、釘を刺す言葉として sans ralentirが使われました(sansは「〜なしで」という意味)。

プーランク 「メランコリー」、初版の楽譜。
Sans ralentir(遅くしないで)と、釘を刺している箇所です。

テンポを遅くする用語は、ほかにもいくつかありますが、追ってご紹介していきます。その微妙なニュアンスの違いにも、今後ご注目ください!

ラレンタンドを聴いてみよう

1. ベートーヴェン:ピアノソナタ第3番 ハ長調 作品2-3〜第4楽章
2. ショパン:夜想曲 ヘ短調 作品55-1
3. ラヴェル:ソナチネ〜第2楽章
4. プーランク:「メランコリー」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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