読みもの
2022.11.22
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その86

ギャロップ:ドイツ語で「馬の駆け足」の意。怪我人が出るほどはしゃぐ踊りだった!?

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第86回は「ギャロップ」。

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。パリ地方音楽院、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。2018年度ヤマハ音楽奨学支援制...

シェーラー《ヨハン・シュトラウスのギャロップを踊る人たち》(1839年作)

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実は19世紀に一気に流行した踊りである、ギャロップ。2拍子の速い音楽であることが特徴ですが、シンプルで速い音楽に合わせて、もはやただただ走るような踊りがつけられていました。その歴史とは、どんなものだったのでしょうか?

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17世紀ごろ、ドイツの結婚式のパーティーの最後に、全員で歌を歌い、それに合わせて踊ってお開きにするという習慣がありました。その音楽のことを、ドイツ語でKehraus(ケーラウス)と呼ぶのですが、これがとてもテンポの速い曲だったのです! 特に有名な曲が「祖父の踊り」という曲だったのですが、この曲はそのあとの音楽史において、さまざまな場面で使われています。

「祖父の踊り(Großvatertanz)」

「祖父の踊り」をもとに作曲された作品
J.S. バッハ:カンタータ《わしらの新しいご領主に(農民カンタータ)》〜「さあミーケ、キスしてくれ」
シューマン:《パピヨン》作品2〜終曲
シューマン:《子供のためのアルバム》作品68〜第39番「冬の時間」
シューマン:《謝肉祭》作品9〜終曲「ダヴィッド同盟の行進」
チャイコフスキー:《くるみ割り人形》〜第1幕より「情景と祖父の踊り」

作者不詳《ギャロップ》(1838年)

18世紀末ごろから、パーティーの終わりに歌い踊る曲として、このようなテンポの速い曲が書かれるようになりました。そして、踊りの様子がまるで馬が走るような動きだったことから、ドイツ語で馬の駆け足を意味する、Galopp(ガロップ、またはギャロップ)と名付けられました。

男女が2人組になり、輪になってぐるぐると駆け足で踊るのですが、だんだんとノってくると、もはや踊りではなく、本当に駆け足で走り回るような状態になってしまいます。そうなると、息切れで咳き込む人がいたり、転ぶ人が出てきたり……と、まるで地獄絵図のようだったと伝えられています。

ただ、男女の仲が深まる踊りとして、特にウィーンを中心とした舞踏会で人気になり、自宅でパーティーをする際にも、ピアノでギャロップが弾けるように、ギャロップだけ集めた楽譜も売られました。そして、有名な曲や、親しみやすいメロディのギャロップが多く書かれました。

例えば、日本でもよく運動会で使われる、ロッシーニの歌劇《ウィリアム・テル》の序曲。これもギャロップからきています! なので、リレーや競走でこの曲が用いられるのも、不思議なことではないのです!

ロッシーニ:歌劇《ウィリアム・テル》〜序曲より「スイス軍の行進」、シュトラウス1世:《ウィリアム・テル・ギャロップ》

ウィーンのハスリンガー社から出版された『ピアノ用の名ギャロップ集』の表紙

1830年代になると人気は早々に下火になり、1850年ごろにはほとんど姿を消しました。理由としては、怪我人が出るし、ギャロップではしゃぎすぎると、舞踏会の盛り上がりに水を差すから……そして、ギャロップは、似たように速い音楽ながらも、もう少し落ち着いた踊りをするシュネルポルカ(「速いポルカ」の意味で、ポルカ・シュネルとも呼ばれる)に置き換わりました。

それほどまでに、ギャロップは極端にはしゃぐ踊りだったのです。

作者不詳:《半音階的ギャロップ》を演奏するリスト(1843年)

オラトリオを聴いてみよう

1. シューベルト:《グラーツ風ギャロップ》D. 925
2. ランナー:《マラポウ・ギャロップ》作品148a
3. J.シュトラウス1世:《F. リストのモチーフを使ったギャロップ》作品114
4. リスト:《半音階的大ギャロップ》S.219
5. J.シュトラウス2世:《山賊のギャロップ》作品378
6. オッフェンバック:歌劇《地獄のオルフェ》〜第2幕より《地獄のギャロップ》

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。パリ地方音楽院、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。2018年度ヤマハ音楽奨学支援制...

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